第10歩 vs 鬼もどきⅠ

「よし、行くぞ」


 そこは初めて降り立つ五島の地。

 ザックを先頭にした三人と一匹は、ゲートをくぐり遂にこの地を踏み出した。


 鬼もどきの対策についてはユニスの過去を聞いた日から一夜明けた昨日に、十二分なくらい行った。


 【鬼もどき】。

 ライガーには並ばないまでもエアルでは強者と言える魔物である。


 鬼型の魔物であるにも関わらず上位の魔物であるオーガに断然劣るが為に、上級のシードル新界開拓者から『もどき』と言われて舐められている魔物ではあるが、実力はランクⅠファーストのシードルには驚異という他ない。


 他の魔物と群れることはなく、一個体が手下の【ゴブリン小鬼】の群れを引き連れる形で出現し、ゴブリンが現れたら間違いなく鬼もどきに捕捉されていると思うべきだというのは、鬼もどきについて調べ尽くしたユニスの談だ。


 しかし、手下のゴブリン以外とは群れない鬼もどきだからこそ勝機もある。


「一度戻ってタンバ教官に鬼もどきとの模擬戦をやって貰うか?」

「大丈夫。今日、皆を弔う」


 五島の地に踏み出したユニスの言葉は、単語のみではなくなっていた。


 ユニスからは、『四島まででパーティを外されるように、あえてコミュニケーションが取れない話し方しかしないようになった。でも、それでもシードルは辞められず。たぶんそれは、五島でちゃんと友人を弔いたかったからだ』と教えて貰った。


 まだぎこちなくはあるものの、ユニスなりに決心がついたのだろう。

 五島で探索する為の、そして、鬼もどきを倒す為の。


 ソラとザックもユニスと同様に決心を固め、ライの嗅覚を頼りに鬼もどきの元へと五島の地を踏み出した。




「ライ、雷撃ッ!」

「グラァァア」


 ライの広範囲の雷撃が眼前のゴブリンの群れに向かって放たれる。

 それにより、痺れて動けなくなるゴブリン。

 その群れをソラとユニスが切り捨てていく。


 もう何度目の光景か。


「やはり数が多いな」


 今回はパーティの殿しんがりを務めるザックが愚痴をこぼす。


 ゴブリン一体にそこまでの戦闘能力はない。

 その強さは、アルミラージとでも一対一で戦えば間違いなく負けるだろう。


 しかし、それは一対一の場合に限り、そんな場合はあり得ないと断言できる程の只々異常なまでの数。

 その数に飲まれ、鬼もどきと戦う以前に命を落とすシードルも少なくないと聞く。


 それ故の戦闘隊形。

 ライが広範囲の雷撃を放ち、そこで動きの止まったゴブリンを中衛のソラとユニスで削っていく。

 そして、ライに背後から近付くゴブリンは殿のザックが掃討していく。


 どのくらいの時間が経過したであろうか。

 未だ出てくるのはゴブリンばかりで、本命の鬼もどきは出てこない。


 しかし、ライの嗅覚にも三人の魔力感知にも鬼もどきは常に捉えられていた。


「回避ッ!」


 その時だった。

 ゴブリンたちをぎ払いながら旋回した巨斧が飛んできたのは。


 直線状に並んでいたソラたちはすんでのところで左右に回避。

 巨斧は背後の岩へと深く突き刺さった。


 林の奥からぬっと現れる巨躯。


 飛んできた巨斧、片手で軽々と扱う大剣、巨体を包む革鎧。

 その全てが規格外の大きさ。


 敗れたランクⅠファーストのシードルの物を纏うと言うには過ぎた装備で、鬼もどきは姿を現した。


「ゴブリンは僕とライがッ!鬼を残り二人でッ!」


 ソラの口から上げられる弔い合戦開始の狼煙。

 その狼煙にユニスとザックは息を飲み。鬼もどき目掛けて駆け出す。


「火球ッ!」


 ユニスのレイピアから放たれる火球。


「!?」


 しかし、鬼もどきはそれを武器で受けることすらしなかった。

 火球に向けて掌を広げる鬼もどき。

 火球が掌に直撃し、上がる爆炎。


 力の籠った火球に、まだ鬼もどきと距離のあるザックでさえ熱を感じるほど。

 だが、その爆炎の中から現れたのは、掌で虫でも潰したかのように全く意に介していない鬼もどきの姿だった。


「これが五島の魔物かッ」


 ザックは苦虫を噛み潰すように独り言ちると、駆け出した速度そのままに爆炎が晴れて再び姿を現した鬼もどき目掛けて飛び込んだ。

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