第9歩 ユニスの過去
ソラとライが二匹の魔物を倒した時には、ザックとユニスもバーダントベアの討伐を危なげなく終えていた。
ただ、横目に見える黒焦げて素材を取れそうもないバーダントベアには、ニコルが見たら怒るだろうなとソラは心の中で苦笑した。
『グルゥゥゥ』
「次ッ!」
しかし、戦闘の余韻に浸っている暇はない。
五島を目指そうというのに、下位の島で一戦一戦間隔を空けた余裕のある戦闘をしていては意味がない。
ソラたちはここ四島で、五島へ繋がるゲート付近に滞在し、新生パーティでの連携を強固なものにしようとしていた。
その為にも、ソラたちは連戦に連戦を重ねる。
「行くよ、ライッ!」
「アオーン」
戦闘開始の遠吠えが遠方の魔物にソラたちの存在を気付かせる。
それでいい。
これで、目の前の魔物を次の敵手が現れる前に倒す必要ができる。
そうやってソラたちは、自らを追い込み、自らの限界を探り。
三人と一匹の中で連携する相方を変えながら、その後も何度も連戦に連戦を重ねて。
新生パーティでの連携を自分たちのモノとしていった。
「そろそろ、五島の魔物相手でも連携が通用するようになったかな?」
疲労は抱えながらも、ソラが言葉に少しの自信を覗かせる。
「そうだな。この調子なら明日にでもまずは五島の入口付近で様子を見たいと思うんだが、皆はどう思う?」
それが上手く行けば、次回の探索でのエアル攻略が現実味を帯びてくる。
第二新界までのルートは既に検討を終えている。
ライガーの生息地を避けたルート。
ライと母親のライガーがどのような経緯で群れを離れることになったかがわからない以上、それがベストだとソラとニコルとザックの三人で話した結果だ。
ライにも一応訊いてはみたが、確証を得られるような反応は返ってこなかった。
連戦を終え、今回の探索で何度目かの野営となる洞窟へ戻ったソラたちは、そんなふうに明日以降の計画を検討していた、のだが。
「五島、次回、ダメ?」
片言なユニスの口から出たのは、ソラとザックの計画に乗り気ではないものだった。
「今回は四島の探索に
「そう」
「僕とザックは五島に行ったことがないから確認の為にも見ておきたいけど、ユニスは五島の経験者としてこのパーティじゃまだ能力的に五島は難しいって思ってるのかも」
「違う」
「違うってことは、能力的には問題ないってこと?」
「そう」
「なら、何で五島に行きたがらない?」
「黙秘」
「黙秘ってなぁ……。どうするよソラ」
「うーん」
コミュニケーションが取れないことでの弊害は、主に戦闘で出るかと思っていたけど。
今後の方針で
ここでユニスからのストップが入るとは思ってもみなかった。
ソラは頭の中でユニスが五島に行きたがらない理由を探すも、能力的な面しか思い当たらず。
それが違うとなると。
うーん。やっぱりわからない。
しかし、時間は過ぎていくもの。
辺りは暗くなりユニスは見張りへと洞窟の入口の方へ行ってしまったので、ザックとソラで考えても答えが出るはずもなく。
「じゃあ、今日は寝て明日の朝にもう一回改めて話そうよ。全員が寝不足だとそれこそ五島で連戦なんて危なすぎるし」
「……そうだな」
煮え切らない返事をするザックをソラが
そして、一先ず明日の朝に改めて考えることにして、野営を行う準備を整え始めるソラとザックだった。
野営中。
ちょうど深夜頃の時間帯。
ユニスが見張りの番に、ザックが入口へと顔を出した。
「何で五島に行きたがらない?」
「……黙秘」
ザックは再び理由を訊くも、やはりユニスは理由を教えてくれない。
ザックの方に振り向きもせず黙秘を貫くユニスの態度に、ザックは怒るでもなく。
ユニスの隣に座った。
「あー、なんだ。実際、俺も今回の探索では五島に入らなくても良いと思ってる」
「?」
先程まではあんなに食って掛かってきたザックの急な掌返しに、ユニスはザックの方を振り向いて首を
「いや、すまん。思ってるというよりは、さっきの話し合いの後に考えてみてそう思ったって方が正しいな」
ザックそう言って笑い、ユニスがまだ首を傾げているのを見て言葉を続けた。
「まだ入るセクトも目途が付いてない。ライのことも調査中。そんな中、急ぐ理由はないからな」
それでもザックは根気強く訊く。
「だが、ユニスが五島に行きたがらないのと、五島に行くか行かないかは話が別だ。行かないにしても理由は知っておきたい。組んだのは最近だとしても、俺たちはパーティだからな」
そう言って、今度は笑うでもなく真剣にユニスの目を見るザック。
そんなザックに、ユニスは視線を外して下を向いた。
洞窟の入口に静かな時間が流れる。
ただ、森の中は意外と音がある。
虫の鳴く音。木の葉が風になびく音。バーダントウルフの遠吠え。
そんな音にザックは耳を傾けて、ユニスの返事を待つ。
そうして暫く、時間だけが経過した。
するとユニスが、ポツンと言葉を口にした。
「私は、五島には行けない」
単語だけではない繋がりのある言葉。
ザックはそれに驚くも、何も言わず。
そんなザックに、ユニスはぽつりぽつりと話し始めた。
ケットシーのパーティで五島の探索をしていたこと。
鬼もどきが大量のラットマンを引き連れて襲ってきたこと。
全員で逃げたが、生き残れたのは自分一人だったこと。
そして、また暫くの静寂……。
そんな中、
「それはユニスが責任を負うことじゃないだろ」
ユニスの話を聴いて、ザックが口を開いた。
すると、ザックの言葉に、ユニスが黒髪をかき分ける。
「見て」
ユニスの頭部には、小さな二本の角が生えていた。
自分は
五島から帰還した後、オグルの血が流れているが
それをザックに伝えたユニスは下を向いたまま、
「またそうなる」
と、ぽつりとそう漏らした。
するとザックは、ユニスの肩に手を掛け無理やり自身の方に身体を向けさせた。
ザックのいきなりの行動にユニスが驚く。
「そんなことにはならない。させない」
ユニスとザックの視線が交わる。
ザックはユニスの肩からゆっくりと手を離した。
「ちゃんと対策を練ってさえいれば倒せるさ」
ザックはそう言うと、洞窟の奥へと顔を向けた。
「だろ、ソラ」
「そうだね」
ザックの声に、洞窟の岩陰から姿を見せたソラが応える。
「でも、自分がいると皆を巻き込む、から」
「俺らはユニスがいないと五島にすら入れない」
涙ぐむユニスの手に今度は優しくザックが手を添える。
「頼む。力を貸してくれ」
ザックの手から伝わる温かさ触れながら。
ユニスは、コクリと
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