エピローグ

第15歩 ライガー

「ここでライガーのお出ましとは」


 果たして、敵か味方か。ザックの言葉にソラたちに緊張が走る。

 現れたライガーはおそらく三匹。


 ここでラージアントに加えてライガーにまで襲われれば、一溜まりもない。

 ライガーは、ソラたちが第二新界を目指す上での希望であり絶望でもある。


 ただ、ソラの心のもやは晴れたままだった。

 紋章を通したライの気持ち。それが大丈夫だと言っている。


「大丈夫。僕たちは前に進める」


 そう断言したソラの言葉を聞いてか、ライが吠えた。


「グラァァ」


 そして、ラージアントに迫るライガー。

 そこからは圧巻だった。


 ラージアントの硬い外殻がいかくを刻み。首をねじ切り。胴体をみ落とす。

 ソラたちではどう足掻あがいてもしえない速さで、ライガーはラージアントの群れを蹂躙じゅうりんして見せた。


 それを見たライが吠える。

 大丈夫って言ったよね、と言うように。


 まだ、ライガーは敵ではないと完全に決まった訳ではないのに、ソラの肩からふっと力が抜けた。




「俺ら、いつの間に人界に帰ってきたんだっけか?」

「ここ、あの世?」

「たぶん、ここはまだ新界で。たぶん、現実だと思う。……たぶん」


 ザックとユニスの言葉にソラが返すも、誰もが夢現ゆめうつつの状態になってしまった。


「現実、違う、絶対」


 と、ユニスなんかはまた片言になってしまっている。


 それもそのはず。

 目の前でライとライガーにここまで楽しそうにたわむれられると、これが現実とは思えなくなってしまうのも無理はない。


 室内犬にデフォルメされていない姿のライは『グラァァ』と吠えるのに、今はキャンキャンと吠えているし。


 つい先ほど仲間を呼ぶ隙も与えずラージアントをほふった凄まじさを微塵みじんも感じさせないライガーたちの優しそうな姿。

 

 全身血塗ちまみれでボロボロの三人と、今にも周囲にお花畑でも咲かせそうなライガーたちのギャップに、逆にどうしたらよいのかわからなくなったソラは、そのまま地べたにへたり込んだのだった。




 その後、そこからライガーの先導で第二新界付近の草陰まで案内して貰った三人。

 第二新界に繋がるゲートも肉眼で捉えることができる距離。


 ユニスは、そこに小さな墓標を創った。


「皆、むこうでも元気で」


 ザックは、これで人界に帰還できる。その喜びを噛みしめていた。


 そして、ソラは。ライガーたちと戯れるライを寂然せきぜんと眺めていた。


「どうしたよ、ソラ。もっと喜べ」


 そう言ってソラの肩を叩くザックだったが。

 ソラは「うん」と答えるのみ。


「ライのことか?」


 また「うん」と答えるソラ。

 そして、少しの静寂の後、


「ライは、ライガーたちと一緒にいるのが良いんじゃないかなって。迫害はくがいされている訳じゃないこともわかったし。それがあるべき姿なのかなって」


 楽しそうなライの方を眺めながら、ゆっくりと言葉をつむぐ。


「そうだな」


 そんなソラにザックは一言そう答えると、もう一度ソラの肩を叩いた。


「でも、それはライが決めることなんじゃないか?」


 ザックへと視線を移すソラにザックが頷く。そして、


「私も、そう思う」


 いつの間にかソラの隣に来ていたユニス。

 ソラがユニスに視線を移すと、ユニスもポンとソラの肩に手を当てた。


 そんな二人に。


「そうだね」


 と答えたソラは。


 ふぅと大きく息を吐き、ライの名を呼んだ。


「ライッ!」


 ソラの声にライガーと戯れていたライが戻って来る。


 少し寂しそうに。

 ソラの口から伝えられること、この後どうなるかがわかっているように。


 そんなライの表情に、ソラの気持ちが揺れる。

 でも、ちゃんと言葉にして言わなければならない。


 ライが近付いてくると、ソラはもう一度大きく息を吐いた。


「ライガーの群れに戻るか、僕たちと一緒に来るか。ライに決めて欲しい」


 そして、そんなソラの言葉に。ライが「クーン」と鳴く。

 まるで別れを悲しむように、何度も何度も鳴く。


「今よりもっと強くなって。ラージアントを蹴散けちらせるくらいになったら。絶対遊びに来るから」


 ライの頭をでるソラ。自然と撫でる手に力がこもる。

 ソラの精いっぱいの笑顔が崩れそうになる。


 それでも、ソラは笑顔を崩さなかった。


 そして、しばらくの静寂の後。


 ライはソラたちに背を向けて。

 ライガーたちの元へと戻っていった。


 寂しいけどそれでも笑顔で見送ろう。ライの新しい門出を。


「じゃあ、またね」


 ソラは涙をこらえながら、ライがライガーたちの元へと戻ったのを確認すると背を向けた。


 ゆっくりとゲートへ向かって歩き出すソラ。ザックとユニスとその後を追う。


「寂しくなるな」

「そうだね」


 ザックの言葉にソラが答える。


「でも、寂しくならない、かも」


 ユニスの言葉にソラが後ろを振り向く。

 すると、ライがこっちに向かって走ってきた。


 そして、


「アオーン」


 と。


 デフォルメされた小型犬の魔物の遠吠えが響いた。




【第二章 了】

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友獣歩ダン!! 伊達 皆実 @M-date

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