第14歩 ララ姉には勝てない

「おじゃましてます」


 僕はそう言って彼女にぺこっと会釈する。

 すると彼女は廊下から出てきて、


「ソラ。姉はいらないよ。ララって呼んで」


 と言って微笑んだ。

 それに対して僕が、


「ララ姉はララ姉だよ」


 と言うと、彼女は、


「そう」


 と言って、いつも通りちょっとつまらなさそうな顔をした。


 そんな不貞腐ふてくされた姿も絵になってしまっているほど整った容姿のこの女性は、ララ姉ことララノアさん。


 ガレリアでは皆んなララ姉のことをララとかララさんって呼んでいるけど。


 二、三年前まではララ姉もバーナに住んでいて、歳の近かった僕は小さい頃から遊んで貰っていた。

 そんな訳もあって、僕にとってのララノアさんは今も昔もずっと変わらずララ姉だ。


 ララ姉は魔法薬まほうやくの調合を勉強する為にここガレリアに。

 ご両親は今もバーナに住んでいて、ガレリアではお祖父じいちゃんであるイズレンデさんの家に居候中。


 お祖父ちゃんがイズレンデさんということはつまり、ララ姉はエルフの血を引く所謂いわゆるクオーターのエルフ。

 なんだけど。


 整った容姿はエルフ譲りも、髪の毛も眉毛もまつ毛だって白銀で、肌なんて透き通りそうなほど白いのは、お父さんがスノウと呼ばれる雪原の種族だからだってララ姉は言っていた。


 確かに、バーナでお世話になったララ姉のお父さんは、全身に雪化粧をしたみたいな人だった。

 ララ姉は瞳こそ翡翠色だけど、お父さんは瞳の色も淡いグレーで。


 頭から足の先まで真っ白けって言っちゃうとその通りなんだけど。

 でも、そうじゃなくて。


 普通の白さとは違った暖かみのある白だったって、ララ姉のお父さんに対してはそんな印象が残ってる。


 まぁ、夏は炎天下での農作業もあって、全身綺麗に小麦色だったけど。


 そんなエルフのクオーターでスノウのハーフのララ姉も帳場ちょうばに立つこの薬屋には、ララ姉目当てで来店する人も多いらしい。


 でも、ララ姉はそんなことにはあまり興味がないようで。

 今までアプローチしてきた男は皆、ララ姉に名前も覚えて貰えないまま結局来なくなったとイズレンデさんは笑っていた。


「お祖父じいちゃん。ご飯できたよ」

「おお、もうそんな時間か」


 ララ姉は今し方まで奥の居室でお昼ご飯を作っていたらしく、よく見ると手にオタマを持っていた。


 ―― そういえば、ここに来る途中にお昼の鐘が鳴ってたっけ ――


 ララ姉とイズレンデさんのやり取りに、ふとそんなことを思っていると。

 無意識のうちに嗅覚がご飯の気配を探ってしまったのか、ふわ〜っと美味しそうな匂いが漂ってきて、、、


  ぐぅ〜


 匂いにちょんちょんとつっつかれた僕のお腹の虫が大きなあくびをした。


「!?」


 慌ててお腹を抑える僕。


「わはは。ちょうどいい。ソラ坊もまだなら食べて行きなさい」

「いやいやいやっ!悪いですよ!」


 お腹が鳴った恥ずかしさもあって、イズレンデさんの誘いに顔の前で大げさに手を振った。


 そして、それから少しの間、そんなふうに一人でわたわたしていた僕だったが、


「ソラ。早く来て。ご飯冷めるから」


 と、ララ姉に有無の言わさなさを含んだ笑顔で言われてしまい…。


 すーっと熱りの冷めた頭で「…はい。」と返事をして、廊下を戻っていくララ姉の後をいそいそと付いて行った。


「わはは。ソラ坊は相変わらずララに弱いのぉ」


 後ろからするイズレンデさんの笑い声。


「まぁ、話も途中なことだ。続きはお昼を食べながら聞かせて貰おう」


 と、そんなこんなで。僕はララ姉手製のお昼ご飯をお腹いっぱいご馳走になった。




「ソラ、そっちは終わった?」

「うん。食器は全部洗い終わったよ。他に何か僕が手伝えることある?」

「もうない、かな。ありがとう」


 悪いですよ、なんて言いながら結局しっかりとお昼ご飯をご馳走になってしまったので、せめてものお返しにと後片付けをお手伝い。


「こちらこそ。お昼ご飯美味しかったです」

「ん。じゃあ、お祖父ちゃん待ってるから」


 イズレンデさんとララ姉は僕が後片付けをしている間に、食事中に話した探索の近況から新界しんかいに持って行くべき物を見繕みつくろっていてくれていたみたいで。


 居室から店舗の方に出るとイズレンデさんがいつもの椅子に座っていて、帳場のカウンターには複数の道具や魔法薬が並べられていた。

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