第32歩 帰還……
「それで、この後はどうする」
ソラたち三人の中で意外にも一番最後まで祈りを捧げていたザックが、ソラたちの方へと向き直り訊いた。
ただ、その問いは質問口調ではなく、ザックの中でも踏み出す一歩目は明確になっているとわかる口調だった。
「まずはこの子どうするか考えないと、だよね。他の魔物に襲われるライガー、しかも子供を一匹だけでここに放置していく訳にもいかないし」
「人界に連れて帰るのは、難しいのかしら」
ザックの問いに、ソラとニコルが二歩目の案を上げていく。
「前例を聞いたことがないからな。人界へ連れて帰ることの良し悪しすら判断がつかん」
そう、ライガーを保護することを三人とも最優先事項として認識していた。
しかし、その手段が難関であることも三人とも避けがたい現実問題として理解していた。
「やっぱり、砦まで帰ってヴェグルさんにでも相談するのが一番、かな?」
「そうだろうな。人界に連れて帰ったライガーを俺たちだけで隠しながら育てる、なんてのは最もなしだろ」
「なら、砦で保護してもらえるように、ここからはわたしたちが頑張らないと」
知識の乏しい駆け出し
「魔物同士で対立があったり、こいつも俺らを襲わなかったり」
「報告しないといけないことも沢山あるのよね。違った意味で帰り道も長くなりそう」
ザックの言葉に続けて、まだ目に赤みの残るニコルが横で良い子に座っているライガーの頭を撫でながら溜め息をつく。
だが、その頬には嬉しさが浮かんでいるように見えた。
そんなニコルを見て少し安心したソラは、
「そうだよね。本当に不可解な謎だらけ」
と、ザックとニコルの雑談に口を挟んだ。
すると、ソラの言葉でふと思い出したように、「不可解と言えば」と前置きしたニコルが、
「バーダントウルフとバーダントボアの群れだけでこの子の親を倒せたってことも不可解よね」
と、少し神妙になった面持ちで二人に質問を投げかけた。
「こいつを守ってたし、単純に敵の数が多かっただけ、か?」
「それにしては、致命傷になった傷は深い一撃だった気がするんだよね」
「確かに、バーダントベアに付けられたような深い爪傷が幾つか……何っ!?」
ニコルの言葉を遮るように一斉に鳥が飛び立つ。
そして、先程まで良い子に座ってニコルに撫でられていたライガーも一方向を見据えてグルルルルと唸り始めた。
「でかい魔力が凄い速さで近付いてくる。二人とも戦闘…」
「避けろッ!!」
ザックの言葉を遮り叫ぶソラ。
正面から飛んでくる巨樹。なぎ倒される
三人と一匹は持てる反射神経と運動能力を全力に引き出してそれを回避する。
後方で巨樹が地面に沈む音がズンッと響く。
しかし、その音に振り返る者はいない。
前方にいる溢れる魔力を隠す様子もない何かに、全員の視線が釘付けとなった。
そしてそれは、草葉を薙ぎ払い悠々と姿を現した。
「レッド…グリズリー……」
ソラが無意識に漏れたとしか思えないような声で口にする魔物の名前。
「マジ…かよ」
「嘘でしょ……」
『グァガァァアアア!!ガググゥァァアアア!!!』
狂暴な咆哮、今までにない威圧、全員が無意識の内に全身の震えを覚える。
「皆ァ!!走れェー!!!」
ソラの声を皮切りに、三人はレッドグリズリーからの全力逃走を図った。
ライガーも本能で戦闘は愚策と理解したのか、しっかりとソラたちに追随している。
【レッドグリズリー】。
主な生息地は第二新界の中盤の島の奥地のはずなのに、何故?!
ソラたちの頭に収束のない混乱が渦巻く。
「背嚢と洞窟は放棄ッ!三島のゲートへ直進ッ!!」
ザックが叫ぶ。
他の駆け出しシードルを巻き込んでしまうことが頭を
いや、そんな余裕は三人にはなかった。
「了解ッ」
ソラもそれ以外にないと、ザックの声に間髪入れず返事を返す。
はやくはやくはやくはやくはやくッ!!
一心不乱に走り慣れない道なき森を疾走する。
しかし、その疾走も終わりを迎える。
ライガーが急に速度を上げると、ソラたちの前方に出で吠え始めた。
「どうしたのっ!?」
「あ…ああ……崖」
「なんで……。…地形が……」
先日までの大雨によって地盤が崩落し、地下空間が露出し。
眼前には頭に叩き込んだ地図にはない底の見えぬ崖が現れていた。
「くッ、迎え撃つッ!!」
ザックの掛け声に三人とも武器を抜く。
自分たちの手に負えない敵。
それでも、シードルであるという
しかし、そんな人族如きの抵抗をあざ笑うかのように、上空から降って来る巨大な投岩。
「避けッ……」
三人と一匹による再びの全力回避。
しかし、ここは崖の縁。しかも、大雨で一度崩落した、崖の縁。
そんなところに巨大な岩が降ってきたとなると、結果は一つ。
足場は崩壊し。
三人と一匹は崩落とともに崖下へと姿を消した。
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