冒険:四島探索
第30歩 はじまりはこの日から
次の日。
昼過ぎ頃に雨が上がり、まだ
森の中を寝床としている魔物は流石と言うべきか、慣れていないソラたちが未熟と言うべきか。
やはり平野とは異なり、索敵も戦闘も大苦戦を強いられる。
まずは索敵。
森の中で魔物より先に相手を発見できるか。これが難しい。
木々が立てる葉音がそこら中に響き渡り、平野にてアルミラージが何の考えもなしに立てる音を聞き分けるのとは訳が違った。
それに加えて、こちらは無防備に草葉の音を立てるのだから、どちらが見つけやすいかなんて魔物たちにとっては
「やっぱり、断魔水を……使いません。頑張ります」
昨晩胸の内を語り合ったとは思えない程のジト目でニコルに見られ、思わず萎縮し即座に謝るソラ。
まだ魔力感知はこちらに
そして戦闘。
訓練ではあるがソラたちが勝利したバーダントベアやバーダントパードに比べて能力の劣る狼型の【バーダントウルフ】や猪型の【バーダントボア】との戦闘が主であるにも関わらず苦戦した。
特に木々で弓の射線の通らないニコル。大剣を振り回せないザック。
二人は攻撃を魔物に避けて貰うことすらままならず、魔物にとっては姿を現すだけで相手を翻弄できるという格好のカモになってしまっていた。
ただ一人ソラだけは、小回りが利き遮蔽物の多い環境下が自身の戦闘スタイルに合っていたのか、正に水を得た魚状態だった、が。
調子に乗っていたところ、濡れた木から滑り落ちるというミスをやらかして……以降、心身ともに
そんな調子で、探索初日は洞窟へ戻る頃には数日前に訓練場で見た満身創痍の体たらくであった三人も、なんとか三日間で元の調子を取り戻し。
森の中でもバーダントパードやバーダントベアとも戦闘ができる程度には持ち直していた。
そして、四島探索も順調に最終日を迎えた早朝の探索。
森の中の十メートル程度の高さの崖の上でソラが上げた「あれ?」という声に合わせるように、事態は急変する。
「ソラ、どうした?」
崖から離れて歩いていたザックが極力音を立てない仕草でソラへと近付く。
「いや、こんなとこにライガーがいるんだ。しかも、たった二匹で…あれは、傷も深いな」
ザックの方には振り返らず、引き続き目を凝らしながらソラが言う。
「本当にライガーなの?ライガーの出現地域は近くても五島の奥地の山間部のはずでしょ?シードルの追手から逃げてきたにしても遠くない?」
遅れて近付いてきたニコルは、ソラの発言に質問で返した。
「そうなんだよね。でも、間違いないよ。しかも、たぶん一匹はライガーの幼体だ。新界の魔物の子供なんて初めて見た」
ソラの言葉に、ザックとニコルも崖の下を覗き見た。
確かにライガーが二匹。群れることもなく、そして動くでもなく少し開けた草地の岩陰に佇んでいる。
「どうする?群れじゃないライガーは珍しい。一匹は傷だらけで、もう一匹は幼体だしな。挑んでみるか?」
ソラの方へと視線を変えて言うザックの言葉に、ソラもザックの方へと振り向いて首を縦に振ろうとした。
が、その時、
「あ、増援が……。えっ、待って!様子がおかしいっ!」
ニコルの声にソラとザックも崖の下を見た。
確かに魔物の群れがライガーへと近付いてきている。
そして、ソラとザックも目を疑った。
そこには、幼体を背後にして守るように魔物の群れを威嚇するライガーと、
「あのライガー何で襲われてんだよ!?」
「そんなの、わたしにもわからない!新界で魔物同士が敵対するなんて聞いた事ない!」
「どうすれば……」
黙り込んで状況を見守る三人。
遂に魔物同士の戦闘が始まった。
そして、そこで展開された戦闘は、防戦一方のライガーに対する魔物の群れの
「何で…何であのライガーは反撃しないんだ?ライガーがあの程度の群れに防戦一方なのはおかしいだろ……」
「……もしかして…幼体を守ってる、の?」
「じゃあ、あのライガーは…親子……」
三人で顔を見合わせる。そして、再び流れる沈黙。
魔物同士の敵対に、新界の魔物の親子。
今まで見たことも聞いたこともない状況が目の前で繰り広げられ、頭が回らない。
それは三人が三人とも同じだった。
ただ、そのような状況下でも沈黙を破ったのはニコルだった。
「わたし、助けたい!」
必死に抑える感情が溢れ出したような声でニコルは呟いた。
「バカ言うな!もし助けに出て両方から狙われたらどうすんだ!」
「それでも!魔物に狙われてるってことはあのライガーたちはわたしたちと同じよ!お願い!」
「わたし、ソラが訓練中に見た夢の話が頭から離れないの!新界の魔物とも仲良くなれるんじゃないかって!」
ニコルの懸命な説得に、
そして、
「わかった。助けよう」
ソラは静かに同意し、
「危険だと判断したら、すぐ撤退するぞ」
ザックは
「ありかとう。二人とも」
そう言うニコルの目には、うっすらと涙が溜まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます