第2歩 ニコルの決意

「わたし魔獣医になりたいの」


 ニコルの治療が終わった後、ソラとザックはニコルに促されるまま、神殿のミーティングルームを借りて入ることになった。

 そして、ミーティングルームで三人が席につくと、開口一番にニコルがそう言って切り出した。


「ずっと悩んでた」


 ニコルが言葉を続ける。


「心の中では成人したらすぐにでも魔獣医になりたいって思っていたけど。両親からは適性のあった回復魔導士になることを望まれていて。それで、今までシードルを続けてきた」


 ソラとザックは口を挟むことなく、ニコルの言葉に耳を傾ける。


「勿論、二人との冒険も楽しかったよ。このままシードルを続けても良いかなって思うくらい……。でも、頭の片隅ではずっと魔獣医になりたい思いが離れなかった。だから、今回でシードルを続けられなくなったのは逆に良い転機だったかなって」


 ニコルはそう続けると、椅子に座りテーブルの上にちょこんと顔を出して静かにしていたライを見て。


「この子に何かあった時、サポートできるメンバーがいないとだしね。だから、今後もソラとザックのパーティは外れずに、ライのケア担当として人界からサポートさせてほしい。ダメかな?」


 ミーティングルームを包む静寂。

 でもそれは、先程までのしんみりとして冷たい静寂ではなくて。


 新しい門出を応援するような、そんな温かさのある静寂だった。


「良いんじゃないか?」

「僕も良いと思う」


 やっぱり、罪悪感や喪失感が拭い切れない部分もまだある。


 でも、それよりも。


 ニコルを応援したいって、今からもニコルと一緒に前を向いて歩んでいこうっていう気持ちを強くさせる、そんなニコルの言葉だった。



 それからの三人は、少しいつもの調子に戻った三人は。

 今後の活動の方針について話し始めた。


 まずは、ライのこと。


「新界からここまでの様子からみても、一先ずは新界の砦を抜けるまで小さくなった姿でいれば問題ないんじゃないか?」

「そうね。でも、ライと新界探索を再開するのはヴェグルさんが紹介してくれるっていうテイマーに所縁ゆかりのある人の意見を聞いてからが良いんじゃない?」


「じゃあ早く話を聞けるようにしないとだね。ザックと二人だけじゃ心許な過ぎるし」

「ソラ、それは俺の台詞だ。俺だけだとソラの突飛な行動を抑えられない。例えば、レッドグリズリーを討伐するとかな」


「それはライがいても同じでしょ。やっぱりもう一人後衛が必要だと思うけど」

「とりあえず、あの時はごめんなさい」


 ライについて今後どうしていくかの話を進めていくうちに、テイマーについて話を聞く他にも、やはり新メンバーの補充やライを受け入れてくれるセクトへの加入が急務だという結論に落ち着き、その点についても、テイマーの話を聞く際に相談することとなった。



 そして、三人でのミーティングを終えた神殿からの帰り道。


「ニコルは強いなぁ」

「クーン」


「僕も前を向かないと」

「クーン!」


 人界でも契約者と生活することが決まったライと一緒に。


 ソラは新しい友人と一緒に、ゆっくりとガレリアの街を歩いて帰った。

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