第2章 新しい門出

エピローグ→プロローグ

第1歩 神殿にて

「なんでこいつは小さくなったんだ」

「僕が『小さくなれないかな?』って訊いたら、嬉しそうに小さくなりました」

「そんなバカな」


 ヴェグルを筆頭にライの変化の驚きつつも、ソラたちは人界へとゲートをくぐった。


 ソラは自身の抱える角の生えた室内犬に周りの視線が向かうと思っていたが、そんなことはなく。


 視線の多くはニコルの失われた足へと向けられて。


 その悲哀の込められた視線に。

 三島からここまで無理やりにでも装ってきた楽しそうな雰囲気を、ソラたちはもう保つことはできなかった。


「おかえり。ニコル。私の可愛いニコル。新界では大変だったのね。治療をするからこちらへいらっしゃい」


 ニコルがラズに連れられて低級の薬や魔法では防げない感染症や合併症の発症を防ぐ適切な治療を受ける為、神殿内の治療室へと向かう。


 ラズは悲哀の目を向けるでも怒るでもなく、淡々とニコルを治療室へと連れていってくれた。


 ソラもザックもラズの手荒いお叱りを受けると覚悟していたが、何もなく。

 二人はほっと安心したように胸をなでおろしていた。


 でも本当は、心の中では。

 二人とも寧ろ叱って欲しいとさえ思っていた。


 新界探索で亡くなった人たちは大勢いる。

 誰一人命を落とさなかっただけでも運が良かったのかもしれない。


 でも、それでも。

 駆け出しの自分たちにとって、仲間が足を失ったこと。


 今後一緒に冒険することができなくなってしまったであろうことへの罪悪感や喪失感は、拭えるものではなかった。


「ただいま」


 ヴェグルとはゲート前で別れ、治療室の待合所で待っていると、治療を終えたニコルが松葉杖を突きながら戻ってきた。


「どうだった?」

「新界での治療が適切だったから、今後も悪化はないだろうって」


「そうか」


 そう言って口籠くちごもるザック。

 その後、ソラが謝罪の言葉を続けようとすると、ニコルが「だからって、」と言ってそれを遮った。


「この足のことを自分たちのせいだなんて言わないでね。この子を助けたいって言いだしたのはわたしなんだから」


 ニコルはソラとザックの目は見ずに。

 そんな言葉を紡ぎながらソラの膝の上で寝ているライを眺める。


「お金は掛かるけどちゃんと義足は用意して貰えるみたいだし、人界での生活は問題ないから」


 『人界での生活問題ない』という言葉が、ソラの心をギュッとつねった。

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