第25歩 @ねこのしっぽ亭

「カンパーイ」


 三人が打合せ場所として選んだのは、昨日僕が新界しんかい帰りに呼子よびこのお姉さんに声を掛けられた【ねこのしっぽ亭】。


 目の前に並ぶのは、アクアパッツァを始めとした四島探索中は食べられない新鮮な魚介のオンパレード。


 乾燥肉にパン、野草のスープなどが中心となる新界での食事の前に是非とも食べておきたいという三人の意見が一致したことで、海鮮料理が美味しいことで有名なこのお店で打合せを行うことになった。


 乾杯の発声と共に僕とザックは各自に配られた林檎酒シードルを一気にあおり、ニコルは林檎酒シードルを一口ほど飲むと大皿に盛られたアクアパッツァや魚介サラダをささっと三人分に取り分けてくれた。


 そして、ニコルの「いただきます」の挨拶を皮切りに、僕とザックも「ニコルありがとう」「いただきます」とだけ声に出し、目の前の彩鮮いろあざやかな料理に舌鼓を打った。


 ねこのしっぽ亭は、神殿に近くシードル新界開拓者御用達のお店だけあって荒々しい客も多く出入りするが、それでも穏やかで明るい雰囲気が食事を楽しくさせてくれる、ケルト音楽のよく合う料理屋だ。


店名にもなっているように、店主は猫耳の生えたデミヒューマン、ケットシーの元シードル。

 店で林檎酒シードルを出しているのも、シードルと掛けて新界への旅立の健闘を祈願しているとのこと。


 人族ヒューマンには主に三つの種族が存在する。


 ケットシーの猫耳のように、どこかしらの部分に独自の外見的、性格的な特徴を持つ【デミヒューマン】、通称デミ。


 そして、〇〇の種族と呼ばれ、独自の種族的、性格的な特徴を持つ【マイノリティヒューマン】、通称マイン。


 最後に、僕たち三人さんにんのように特別な外見的、種族的な特徴を持たず、最多の人口を誇る【マジョリティヒューマン】、通称ヒューマン。


 ねこのしっぽ亭は店主がケットシーなだけあって、ヒューマンよりもデミやマインの店員さんが多いのも特徴の一つ。

 多種多様な特徴の入り混じったカオスが良い具合に混ざり合って、逆に居心地の良い雰囲気を醸し出している。


 デミやマインはヒューマンに比べて少数なこともあり、迫害のなくならない地域もあるって耳にするけど、ガレリアはそんなことは全然なく。

 種族に関わらず互いを尊重し合えるのが、ガレリアという都市の僕の大好きなところだ。


 デミやマインはその特徴によって更に種族が分かれている。


 デミの外見的、性格的な特徴の違いとしては、例えば、猫科の特徴を持てば【ケットシー】で犬科の特徴を持てば【クーシー】。

 狼なら【ウェアウルフ】だし、狐なら【ルナール】。

 鬼の【オグル】に竜の【ドラゴニュート】。

 更には皮膚が骨鎧で覆われている【スクレット】などなど。


 マインの種族的、性格的な特徴の違いとしては、主に五種族に分類される。


 森林の種族であり、長寿にして魔法や薬学全般に長けた【エルフ】。

 岩窟の種族であり、手先が起用で鍛冶を任せたら右に出る種族のない【ドワーフ】。

 雪原の種族であり、穏やかな性格で雪や氷系の魔法に長けた真っ白な見た目の【スノウ】。

 水辺の種族であり、一番人口が少なく未来を予知予測できる人もいるという【セレナーレ】。

 砂丘の種族であり、好戦的で強い者が偉いという分かりやすい序列を持つ【アテム】。


 この五種族以外にも少数種族が多くあって、流石に僕も覚えきれないくらい。


 そして、忘れてはいけないのが、ガレリアには多くのハーフ、クオーターがいるということ。


 例えば、先程おかわりの林檎酒シードルを運んできてくれた店員さんは、スノウとルナールを先祖に持つアルビノルナールだった。


 他にも、これは本当に珍しいけど、ドラゴニュートとスクレットのハーフでうろこが骨のドラゴニュートなど、まだ種族名のないハーフの人たちも沢山いる。


 そんな多種多様な種族の人たちが集うガレリアのねこのしっぽ亭で、僕たちは他の人たちに話し掛けられたり話し掛けたり。


 そんなこんなで、打合せは一先ず置いておいて、まずは食事を楽しんだ。

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