第4歩 新界ってどんなところ?

「それで、どこまで行ってきたんだ?」

「三島です。四島に繋がるゲート周辺で三日ほど滞在してきました」


 それから少しの世間話を挟んでヴェグルさんがした質問に、やっと顔色の落ち着いてきたニコルが答えた。


「そうかそうか。滞在日数に見合った量を採取できたみたいで何よりだ」


 そう言って満足そうに頷くヴェグルさんだったけど、


「今回は採取が目的じゃなかったんですけどね」

「ん?そうなのか?」


 ニコル同様やっと熱が冷めた頬を掻きながら返した僕の言葉に、今度は首を傾げた。


「四島の森林地帯に入ってもやっていけるかの確認が目的だったんですよ」

「おっ!そうだったのか!」

「それでも採取はしないと。生活できないんで」

「がははははっ!そりゃそうだ!」


 苦笑いする僕たちに、ヴェグルさんはまた豪快に笑った。


 新界は、空中に浮かぶ島々がゲートで繋がれる形で存在している。


 今僕たちが探索しているのは第一新界だいいちしんかい

 通称【エアル】と呼ばれており、人界と繋がるゲートの存在する一島を始めとして、五つの島で形成されている。


 第一新界の五つ目の島、五島のゲートを進むと次は第二新界で、現在人族は第五新界まで到達している。


 因みに、何故第一や第二といった括りで分類されているかというと、理由は二つある。


 まず一つ目は、島の特徴がガラッと変わること。


 第一新界は平野部も山間部も自然が豊かな島で形成されているのに対し、第二新界は平野部は荒地で山間部は岩山といった島で形成されているらしい。


 そして二つ目は、第一新界と同様に第二新界から第五新界の一島にも人界と繋がるゲートが存在するということ。


 このゲートのお陰で、人界と目的地とを行き来する度に態々わざわざ下位の新界を経由するといった必要がない。


 ただ、第一新界以外のゲートを通って人界から新界に進むには、一度はそのゲートを新界から人界に通っておく必要がある。

 なので、第一新界を攻略中の僕たちはまだ、人界からゲートを通って直接第二新界より上位の新界に進むことはできない。


 例え、第二新界より上位の新界に繋がるゲートを人界で潜ったとしても、ゲート裏側に出るだけだ。


 あと、魔物は第一新界以外のゲートを通って人界に来ることができるのか?という疑問については、ゲート裏側に出るだけで来ることはできないという結論で落ち着いている。


 もし、魔物が人界と繋がる全てのゲートを行き来できるなんてことになっていたら……人族は既に滅んでいたかもしれない。


「四島の森林地帯でもやっていけそうか?」


 ヴェグルさんが一頻ひとしきり笑った後に、咳払いを一つしてから僕たちに尋ねる。


 ヴェグルさんの問いに「そうですね」と答えたザックは、そこで一息入れた後、


「次の野営探索では挑戦できると思います」


 と、笑顔で答えた。


 そして、ザックのその言葉に、


「細かいことは、今回の探索をしっかり振り返った後で、周りの人にも相談しながら決めていくつもりです」


 と、ニコルも笑顔で言葉を続けた。


「ならいい。まぁその調子で頑張ってくれや。エアルを抜けるって頃になっても良いセクトが見つかってねぇって時は、俺に声掛けろよ!」

「わかりました!」

「おう!じゃあ、またな!」


 そう言って軽く手を挙げるヴェグルさんに、お礼を言って軽く頭を下げた後、僕たちは再びゲートへと歩き始めた。




 ヴェグルさんと別れてからゲートに着くまでにも、ヴェグルさんと同じエンブレムを身に付けたシードル数人とすれ違った。


 熊の頭上に星が描かれたエンブレム。

 ヴェグルさんが所属するセクト【ポラリス】のエンブレムだ。


 ポラリスは、所属するシードルの数こそ中規模だけど、数少ない一流と呼ばれるセクトの一つ。

 勿論もちろん、誰もが簡単に加入できる訳ではなくて、その条件の一つがランクⅡセカンド以上のシードルというものだ。


 シードルのランクは人界と新界とを繋ぐゲートを幾つ通ったかによって決まる。

 なので、僕たちのような駆け出しのシードルはランクⅠファースト


 ポラリスが加入を申し込む為の条件としてランクⅡセカンド以上であることを明示しているということは、基本的に期待値のある新人シードルをスカウトするか、他のセクトからヘッドハントするかでシードルを集めているということだろう。


 そう考えると、スカウトされた訳ではないけど、ヴェグルさんに『声を掛けろ』と言って貰えたことは、とても励みになった。


 僕たちは一先ず探索系セクトへの加入を目指してはいるけど、まだ何処どこのセクトに入るかは決めていない。

 これを機に加入するセクトについて三人で真剣に考えてみるのも悪くないのかもしれない。


 と、僕がそんなことを考えているうちに。


 僕たちはゲートのある建物の前まで歩いてきていた。

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