君とワンダーランド

 前回の『三毛猫ホームズ』に続き、今回も動物が出てくるお話を紹介します。

 別冊マーガレットに連載していた渡辺カナ先生の漫画、『君とワンダーランド』です。



 自分がこの作品と出会ったのは2018年の春。当時カクヨムではプライベートコンテストVol.01という運営公式の企画があり、「もふもふ」または「民俗学」という二つの部門で募集を行っていました。


 当初は話が浮かばなくて参加をやめておこうかと思っていたのですが、丁度その時に『君とワンダーランド』を読んで、やっぱり何か書いてみたいと思い、『ハチミツ色の日々』という作品を書きました。結果、喜ばしい賞を頂く事できたのですが、『君とワンダーランド』を読んでいなかったら参加すらしていなかったでしょう。そういった意味でも、非常に思い出深い作品です。



 そんな『君とワンダーランド』ですが、あらすじはこうです。


 主人公は高校生の、「のばら」と言う名前の女の子。彼女は小学生の頃、事故で崖から落ちて以来、耳が少し不自由になっていました。


 人の声や音が完全に聞こえないわけではないのですが、近くで話をしていても、まるでその人との間にガラスの壁があるような聞き取り難さがあり、上手く聞こえません。


 しかしのばらはこの耳を、単に事故で怪我したせいで悪くなったとはどうしても思えません。実は事故以来、人の声が聞こえ難くなった代わりに、何故か動物の声がハッキリ聞こえるようになっていたのです。


「ワンワン」とか、「ニャーニャー」とか言う声とは違います。犬や猫も、鳥やハムスターも、普通に喋っているのです。もちろん他の人にはそんな風には聞こえませんけど、のばら聞こえます。しかしだからといって、のばらは何をするわけでもなくて。


 耳が不自由なせいもあり、人と接することが苦手で、学校では一人でいる事が多いのばらでした。


 しかしそんなある日、接近してくる車に気づかず、危うく事故になりそうだったところを、同年代くらいの男の子に助けられたことで物語は動き出します。どういうわけか、その男の子の声だけはハッキリ聞き取れたのです。


 そしてその理由は、すぐに明らかになりました。

 男の子は自分のことを、昔のばらが崖から落ちた時、巻き込まれて一緒に落ちた狼だと言うのです。そしてそれ以来、どういうわけか人間の姿に変身してしまうという、悩みを抱えていました。


 事故をきっかけに、耳が不自由になったかわりに動物の声が聞こえるようになった女の子と、時々人間の姿に変身してしまう狼。

 二人の症状を何とかする方法を探すため、狼はのばらに、自分のことを飼うようお願いしてきます。こうして二人の、デコボココンビが誕生したのです。


 動物の声が聞こえたり、主人公の相方が実は動物と言うだけあって、動物に関するエピソードが多いこの作品。ご主人様の風船が木に引っ掛かったのを取ってくれないかとお願いしてくる老犬がいたり、捨て猫の飼い主を探してあげたりと、多くの動物達とふれあっていきます。


 そして狼と一緒にいることで、のばらにも変化が生まれて、今まで馴染めなかった高校でも、少しずつ友達ができていく。そんな暖かな物語です。



 特に最終巻である3巻は、感動的なエピソードが多かったです。年老いた犬と、その犬の事が大好きな飼い主の話や、一度は家族と離れ離れになった犬が、その家族と再会する話など、いったい何回泣きそうになったか。


 3巻を読んだのは『ハチミツ色の日々』を書き終わった後でしたけど、もし先に読んでいたら間違いなく話しに大きく影響が出ていたことでしょう。もしかしたら内容が『君とワンダーランド』に引っ張られそうになって、かえって書けなくなっていたかもしれません。これだけ素敵な物語を見せられては、「何を書けばいいの?」って気持ちになってもおかしくないですもの。



 たくさんのモフモフと暖かな感動の詰まった『君とワンダーランド』。全部で3巻と巻数は少な目なので、読みやすいです。


 興味のある方は、是非読んでみてください。

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