浦島太郎

 今回はお伽噺について語ります。きっと皆さんご存じでしょう、『浦島太郎』です。


 おそらく日本では桃太郎についで、知名度の高い昔話なのではないかと思っています。

 絵本やアニメ等で、数多く描かれてきた浦島太郎。ただそのストーリーは、物によって微妙に違いがあるので、まずは確認しておきます。


 今から書くストーリーは、自分が子供の頃に知っていた、おそらくスタンダードと思われる浦島太郎のものです。もしかしたら人によっては、自分の知っている話と少し違うと言う方もいるかもしれませんが、御了承くださいm(_ _)m




 昔、浦島太郎という漁師が、子供たちに虐められていた亀を助けます。すると亀が、お礼に海の中にある竜宮城へと連れていってくれました。

 竜宮城には美しい乙姫様がいて、鯛やヒラメが踊り、毎日楽しい時間を過ごします。

 三年が経った頃、家に帰りたいという浦島太郎に乙姫は、『竜宮城に戻ってくる気があるなら、この箱を開けてはいけない』と言って、玉手箱を渡してきました。

 浦島太郎は家に帰ったものの、竜宮城へ行っている間に三百年の時が流れていたことを知り愕然とすします。

 浦島太郎は玉手箱を開けると、中から煙が出てきてお爺さんになってしまい、その後その姿は鶴へと変わり、どこかへ飛んで行ってしまったということです。




 自分が知っていたのは、こんな感じでした。細かな違いはあるかもしれませんけど、皆さんが知っている浦島太郎も、だいたいこん風なのではないでしょうか。

 子供心に、亀を助けてあげたのに、結果的に不幸になるとはどう言うことかと、首をかしげていましたっけ。

 そういえば前に、このお話の教訓は、『虐められている亀がいようと、関わったりするもんじゃない』って事だったと、書いてあった漫画を読んだことがあります。結末を思うと、激しく同感です。


 しかしこの浦島太郎、何度か思い返しているうちに、「おや?」と思う部分がいくつか出てきます。

 例えば、『竜宮城に戻ってくる気があるなら、この箱を開けてはいけない』と言う部分。お話によってはこの一文はカットされているものも多いような気もしますけど、自分が昔見た浦島太郎には、確かにこんな感じのやり取りがありました。

 これって裏を返せば、戻ってくるつもりが無いのなら、玉手箱を開けろ。つまり、お爺さんになってしまえ、ともとれるのですよね。

 もしかしたら乙姫様は、浦島太郎に対する愛情を拗らせていて、自分のものにならないくらいならいっそのこと老人にして死んでしまえば良い……なんて思っていたのではないのかと勝手に想像して、ゾクッとしていました((゚□゚;))


 ただその後、浦島太郎の原初の物語を調べていくと、少し話が変わってきます。

 玉手箱を開けた浦島太郎は、お爺さんになる過程をすっ飛ばして、鶴になってしまったそうなのです(諸説あります)

 そして乙姫様の正体は実は亀で、『鶴は千年、亀は万年』という言葉通り、両者はとても長生き。浦島太郎を鶴にして、自分の婿として迎え入れ、長きにわたって愛し合おうとしたと言うのです(くどいようですが諸説あります)


 乙姫様にしてみれば、これは浦島太郎を愛するが故の行動だったのでしょうけど、鶴に変えられてしまった浦島太郎は、果たして幸せだったのでしょうか?

 人間と人外の存在ですから、考え方や愛し方に、ズレが出てしまうのはある意味しかたのないこと。だけど本当に愛し合っているのなら、人であることを捨ててでも一緒になるという行為も、アリと言えばアリ……なのかなあ?


 浦島太郎が鶴になって亀と結婚するのは幸せか否か。何も知らされずに鶴にされた浦島太郎は、それで納得がいったのか。ずっと疑問に思っています。これが浦島太郎と乙姫がよく話し合って出した結論だったら、そう言うのもアリだって思えたのでしょうけど。



 昔話には異種婚姻憚が数多くありますが、人間と人外の者で、結婚に対する感覚が違うことは、やはり多いですね。

 日照続きで作物が育たなかったのを助けた変わりに娘を差し出せという蛇がいたり、嫁を拐って、山奥に閉じ込めてしまう妖怪がいたり。

 人間の感覚では、こんなこと考えられません。だけど向こうにしてみれば、別段おかしな事ではないのかもしれませんね。


 自信の作品でも、こんな風に感覚のズレを描いたものがあります。

『卒業式にサヨナラを』では、種族の違いによる感覚のズレを取り入れたホラーを作りたくて、昔聞いた桜の木の怪談を思い出しながら、異種族同士の恋愛を組み込んで、話を作りました。話の内容は全然違いますけどね。現代劇ですし。

 このお話も浦島太郎と同様に、モヤモヤが残るラストになったと思っています。


 鶴になって乙姫と結婚した浦島太郎は、何を思ったのか。自分なりに話を作ってみたら何か分かるかなと思いましたけど……やっぱり無理でした。まだ全然、答えなんて出ていません。

 何が正解で、何が間違いなのか。幸せの形とは何なのか。たくさん悩んで、答えを模索していきたいです。


 ※今回紹介した浦島太郎のお話は、もしかしたら間違っている部分もあるかもしれません。色んな説がありすぎて、調べる度に様々なストーリーのパターンや解釈が見つかっていくのです。

 どれが原初の話でどれが変化した話なのかはハッキリしませんが、今回は自分が影響を受けた話を取り上げました。


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