似鳥鶏先生 市立高校シリーズ

 自分は小学校の頃から推理小説が好きでした。いくら読んでも推理力が身に付くわけではありませんけど、殺人事件を鮮やかに解決したり、探偵と怪盗が知恵比べをする様は、何度読んでも飽きませんでした(^^♪


 そして近年、推理小説の内容が、だんだんと変わってきたような気がします。殺人事件が起きるわけでも、怪盗が現れるわけでもありません。それなら一体、どんな事件が起きると言うのでしょう? 答えは、日常で起こるちょっとした事件です。

 皆さんは日常生活の中で、置いていたはずの物が見つからなくて、どこへ行ったのだろうと疑問に思った事はありませんか? そんな感じの、事件と言うほど大事でもなく、だけど謎と言えば謎。そんなレベルの些細な出来事の真相を突き止めていく。そう言った日常系ミステリーが、最近増えているような気がします。


 スケールは決して大きくはなくても、もしかしたら自分の周りでも起こるかもしれない日常の謎。探偵役も刑事や探偵じゃなく、会社員だったり高校生だったりと、良くも悪くも普通の人である事が多いです。凄惨な殺人事件を起こす必要のない、日常系ミステリー。残酷描写や暴力描写のタグを使う必要もなく、しかしだからこそ変に身構える必要も無くて、軽い気持ちで読むことができ、多くの人に受け入れられるのかもしれません。

 初野晴先生の『ハルチカシリーズ』や、米澤穂信先生の『古典部シリーズ』は、アニメ化や実写映画化もされました。


 さて、そんな日常系ミステリーの中で、今回紹介したいのはこれ。似鳥鶏先生の、『市立高校シリーズ』です。

 タイトルでも分かるように、物語の舞台はとある高校。主人公の葉山君が、不可解な事件に巻き込まれて、仲間と共にそれを解決していくと言うのが、毎回の大まかな流れになっています。

 ただ、『市立高校シリーズ』と聞いても、聞いたことが無いと言う人も多いと思います。実はこのシリーズ、本のタイトルには、どこにも『市立高校』なんて言葉は出てこないのです。

 シリーズ第一作目のタイトルは、『理由わけあって冬に出る』。二作目のタイトルは、『さよならの次にくる』。他にも、『いわゆる天使の文化際』や、『昨日までの不思議校舎』など、たくさんのタイトルがありますが……タイトルに共通点が無いのですよ。


 ですからあらすじ紹介や本文を読むまで、同じシリーズだとは分からないかもしれません。キャラクターも同じですし、舞台となる高校も同じですけど、ぱっと見それが分からない。そのため自分はこのシリーズにハマっても、全巻制覇したか読み残しがあるか、ネットで調べるまで判断がつきませんでした。新刊が発売されても、気づかずにスルーしかけた事もあります(;^_^A



 おっと、タイトルの話はこれくらいにしておきましょう。肝心なのは内容ですからね。で、その内容ですけど、ここはやはり一作目の、『理由わけあって冬に出る』を紹介していきましょう。

 主人公の葉山君は、学校で唯一の美術部員。今日も学校の芸術棟で、一人作品制作に勤しみますが、そんな彼の元にやってきたのが、吹奏楽部の面々。実は最近、この校舎にフルートを吹く幽霊が出ると言う噂が流れていて、怖がった部員が練習に来れずに困っているとの事。

 それで噂の真相を確かめようとしているのですが、吹奏楽部ではない第三者の証言もあった方が、説得力があると言う事で、真相解明に狩りだされてしまうのです。

 幽霊なんているわけが無い。そう思って夜の校舎へと足を運ぶわけですが、そこで待っていたのは……


 とまあこんな話です。学校に現れると言う幽霊の謎を解き明かそうと言う、ホラーでもありそうな展開ですけど、先に上げた通りこの作品は日常系ミステリー。過度な残酷描写なんて起きないのでご安心を。事件は起きても、学校の仲間達でわいわい騒ぎながら解決していくと言った感じです。


 そして、この作品が日常系ミステリーとして面白い理由は、個性豊かなキャラクターにあります。ライトノベルのキャラクターにも似たコミカルな所があり、作品の雰囲気を明るくしてくれる愉快な仲間達が、たくさん登場するのですよ。


 例えば、本シリーズのヒロイン、柳瀬沙織さん。

 演劇部部長の彼女は、後輩である葉山君の事を気に入っていて、よく演劇部に勧誘してきます。人懐っこくてよくスキンシップを取ってくる柳瀬さん。その為周りの生徒達は、二人は付き合っているものと……思っていないのですよね。押しの強い柳瀬さんと、振り回されがちな葉山君。そのため葉山君は、柳瀬先輩のペットだとか愛妾だとか、おかしな認識をされてしまっているのでした(;^_^A

 だけど柳瀬さん、ただの愉快なだけの先輩ではありません。彼女の特技は、演劇部で鍛えた七色の声。老若男女問わず、幅広い声を出せる彼女は、電話で別人になりすまし、情報を聞き出すなどして、事件解決に貢献してくれるのです。

 なりすましなんてして良いのかって? その辺は触れてはいけません( ̄▽ ̄)


 そしてミステリーものには欠かせない探偵役。実はこのシリーズ、推理をするのは主人公の葉山君では無いのですよ。彼はどちらかと言うと、探偵の助手のようなポジション。そして探偵役を担うのは、葉山君の二つ上の先輩。文芸部員の伊神先輩です。

 人並外れた推理力の持ち主である伊神先輩は、ミステリーや謎解きが大好き。不可解な出来事が起きたと聞きつけては自ら首を突っ込み、あっと言う間に謎を解いていきます。時には別に解かなくていいと言う謎も、既に真相がわかっている出来事も、自分で謎を解きたいから黙っててくれと周りに口止めをした後に、推理を始めると言う生粋の推理マニアです。

 しかしその実力は折り紙付き。何せこの伊神さんが事件に首を突っ込んで来たら、本当にあっと言う間に事件が解決してしまうのです。

 ただ、遠く離れた場所にいて連絡が取れない事もが多く、伊神さんが出て来るまでは葉山君達で謎を解こうとするパターンも多いのですけど、これは伊神さんを出してしまうと、早く解決しすぎてしまうから、登場を遅らせているのではと自分は考えています。


 例えばドラゴンボールで、悟空が遠くにいるから今いるメンバーだけで敵と戦わざるを得なかったりするじゃないですか。強キャラを早めに出してしまうと、他のキャラの見せ場が無くなってしまいますし、尺も稼げないから登場を遅らせる。そしてピンチになった時に駆けつけて、美味しい所を持っていく。伊神さんはまさに、そんな感じの探偵なのです。


 彼が刑事もののミステリーではなく、日常系ミステリーのキャラである理由も分かる気がします。もしこの有能すぎる名探偵に刑事ものの主役なんてやらせたら、事件が起きる端からすぐに現場に駆けつけて解決していってしまうので、話としての面白みが無くなってしまう恐れもあります。

 警察とは違ってすぐに連絡は取れない。どこへでもすぐに飛んでいけるわけではなく、捜査できる範囲がどうしても限られてくる。そんな日常系ミステリーの探偵だからこそ、丁度いいのかもしれませんね。


 愉快な先輩や、有能すぎる名探偵に振り回されながら、事件に挑んでいく葉山君。先ほど挙げた二人に比べて、主人公である彼は何だか地味な印象を与えてしまっているかもしれません。ですがこれは、自分のプレゼン能力が低いせいだけではありません。実際に周りのメンバーの方が濃すぎるのです。

 だけど読んでみると、このシリーズの主役は葉山君しかいないって思えてくるから不思議です。事件解決のために必要な捜査をするのは彼。個性豊かな面々のかじ取りをするのも、葉山君なのです。


 毎回事件に巻き込まれ、周りに振り回されながらも、律義に最後まで謎に挑んでいく葉山君。否応無しに謎解きに掛けていく彼の青春。興味のある方は、ぜひご覧ください(^^♪

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