だから私はキューピッドになりたい

 今回紹介するのはビーズログ文庫アリスの『だから私はキューピッドになりたい』です。

 元々は◯ろうに掲載されていたお話で、今でも◯ろうで読むことができます。


 内容は、乙女ゲーム転生もの。今流行りの、主人公が前世で大好きだった乙女ゲームの世界に転生するというお話ですね。


 主人公の宮下紫緒は、名門篠宮家の跡継である篠宮斎、通称『斎様』に仕える女の子。宮下の家は代々篠宮家に仕えていて、幼い頃に二人は出会います。

 そしてこの斎様と言うのが、前世で大好きだった乙女ゲームに出てきた一押しキャラ。容姿端麗、文武両道の完璧超人の攻略対象キャラクターなのでした。

 紫緒は前世で、斎様のことを信望していると言って良いほど大好きでした。ゲーム画面を見ながら顔をほころばせ、何度も何度もゲームを繰り返しては、斎様ルートを攻略していました。

 一方紫緒は、ゲームでは登場しなかった名も無きキャラ。だけど斎様に、仕えるという美味しいポジションです。そして紫緒は思うのです。前世の記憶を持ってこの世界に転生したからにはそのアドバンテージを生かして、斎様と乙女ゲームのヒロインの女の子をくっつけてやろうと!


 自分が斎様とくっつこうとは思わないわけです。斎様は信望の対象ですから、自分がくっつくなんて恐れ多い。ヒロインの女の子とくっつけて幸せにさせることが自分の使命だと、紫緒は思うのでした。


 しかし斎様とヒロインが出会うのは、高校生になってからなのです。

 ヒロインと出会う前は、孤独を抱えていて誰にも心を開かなかった斎様。それはこの世界でも変わりません。ですが紫緒は、斎様がそんな寂しい思いをするのに耐えられず、少しでも元気になってもらおうと、毎日優しい言葉をかけていきます。


「紫緒が、斎様を幸せにしてあげますから」

「私は斎様のことが大好きです!」


 事ある毎にこんな事を言って、斎様が孤独にならないよう支えます。それと同時に、大変モテる斎様が、ヒロイン以外の女の毒牙にかからないよう動いたりもします。


「斎様、浮気はダメですよ!」


 そう言って釘を指しては、斎様に言い寄ってくる他の女の子を退けていきます。そうしていくうちに、斎様にはある変化が。ゲームではいつもどこか寂しそうにしていたのに、紫緒には心を開いて、笑うことも多くなっていったのです。

 しかし、高校に入学した日に状況が一転。斎様にはヒロインとくっついてほしいと願っている紫緒は、素敵な恋をしてほしいと、斎様に言います。恋人を作って、幸せになってほしいと。その瞬間、斎様の中で信じていた何かが崩れた事にも気づかずに。


 実は斎様、ゲームとは違って長年にわかって側にいてくれた紫緒の事が好きになっていたのです。しかもその紫緒が「浮気はダメですよ」なんて言ってたものだから、両想いだと思い込んでいたのでした。しかしここに来てそれが勘違いだった、紫緒は自分に、別の女の子と恋をしてほしいと願っていた事を聞かされたのです。斎様のショックは相当なものだったでしょう。


 その後も紫緒は斎様の想いに気づくことなく、無自覚に彼を傷つけていきます。例えばようやく出会えたヒロインに、斎様との仲を誤解された時は……


「違うよ!有り得ない!絶対絶対絶対斎様だけは有り得ないから!」


 ……酷いですね。

 こんな感じでいったいどれだけ、斎様の事を傷つけていったことか。ネットでは紫緒の仕打ちに対して、様々なコメントがありました。『これが人間のやることかー!』『私はこれほどまでに、ヒロインが手ごめにされれば良いと思った話を読んだことが無い』等々。

 同感です。自分は鈍感ヒロインと、振り回される男の子といった組み合わせが好きなのですが、この話は特に紫緒のやる事が酷いです。手ごめにされたくらいでは、この子の罪は消えませんよ。


 この作品のお陰で、自分は鈍感ヒロインを書くならこれくらいパワフルに書かなきゃいけないのかと思うようになりました。

『シンデレラとカボチャの煮付け』や『乙女ゲームの攻略対象キャラのポジションに転生しました。って、アタシ女の子なんだけど!?』は、その影響を色濃く受けています。それでも紫緒に勝てるとは到底思いませんけど。



 この作品を読んでからは、乙女ゲームにも興味を持つようになり、乙女ゲームをやるようになりました。おかげで更に、書く話の幅が広がっていきましたね。

 とても楽しめて、尚且つ視野を広げてくれた作品です。


 最後にこの作品の影響を受けて、鈍感ヒロインに振り回されることとなった自分のキャラクター達、ごめんね(m´・ω・`)m

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