『君を愛した一人の僕へ』『僕が愛したすべての君へ』

 皆さんは『並行世界』と言う言葉を知っていますか? パラレルワールドとも言い、もしもあの時こうしていればと言う、あったかもしれない可能性の世界の事を言います。

 SFやオカルトで使われる事の多いこの並行世界ですが、今回紹介する作品は、無限にある並行世界に恋愛を絡めたお話。タイトルは、『君を愛した一人の僕へ』。そして、『僕の愛したすべての君へ』。この二作品を紹介していきます。


 表紙の絵が大変綺麗で、本屋で見て強く印象に残ったこの二冊。似たようなタイトルの作品ですが、内容はしっかりとリンクしています。ただしこれは、どちらかが上巻で、どちらかが下巻と言うわけではなくて、どちらかがどちらかのスピンオフ作品と言うわけでもありません。

 この二つの作品の主人公は、高崎暦と言う名前の男の子。それぞれ別の並行世界の高崎暦が、全く別の人生を歩む姿が描かれているのです。


 世界観は少し特殊で、並行世界が無限に存在していると言う事が科学的に証明されていると言う、ちょっと変わった現在。主人公の暦は二つの作品で、それぞれ違った女性と恋に落ちますが、その恋と並行世界の絡ませ方が、非常に見事なのです。


 まず『君を愛した一人の僕へ』では、暦には栞と言う恋人がいるのですが。ある理由でこの世界では、栞は仮死状態になってしまうのです。治療法も無く、本来ならどうする事もできない状況。だけど暦は諦めません。栞を助けられる可能性を、並行世界に求めました。

 無限に存在する並行世界のどこかには、栞が助かっている世界もあるはず。その世界に行って、どうやって助かったのかを調べれば、この世界の栞を助けられる。そう思った暦は、あまたの並行世界を行き来して、栞を助ける方法を探していくのでした。


 そしてもう一つ。『僕が愛したすべての君へ』では、暦の恋人は栞ではなく、和音と言う別の女の子。こちらでは大きな悲劇が起こると言うわけではなく、順調に交際を重ねていくのですが、暦はある悩みを持つようになります。それは、自分が愛しているのはこの世界の和音なのか、それとも数多の並行世界に存在するすべての和音の事も、自分は愛しているのかという事です。

 同じ人物でも、もし別の人生を歩んでいたら、きっと性格や考え方が変わったりするはず。それはもう、別人と言っていいのかもしれない。だけどそれでも、元は同じなのだから、全ての和音を愛するべきなのか。それとも、自分が好きなのはこの和音だけだと、一つの愛を貫くのが正しい在り方なのか。

 何だか哲学的な考えですね。どっちが正解なのかは、おそらく人によって判断が分かれるのではないかと思います。



 いかがだったでしょうか?

 同じ暦を主人公とした、並行世界と恋愛をテーマにした二つの作品ですけど、この通りストーリーは全く違います。だけどこの二つ、細かいところで内容がリンクしていたりするのですよ。

 ストーリーの大筋とは関係ないけど、解けずに終わっていたちょっとした謎が、もう一冊を読む事で解けたり。一冊の後日談とも言える内容が、もう一冊に書かれていたり。一冊を読んだだけでは分からなかった面白さが、二冊とも読む事で味わえるようになるのですよ。

 一作品だけ読んでも、もちろん楽しむことができます。だけどやっぱり、二作品合わせて読む事をお勧めしますね。


 そして、どっちから先に読んだ方が良いかですけど、正直これは、どっちからでもいいと思っています。

 この二つの作品は続編でもスピンオフでもなく、並行して存在する物語。どちらを先に読んでも、問題無く楽しむことができるでしょう。


 それでもアドバイスできるとすれば、『君を愛した一人の僕へ』を先に読んだ方が、物語に長く謎を残しておくことなく、すんなりと読み進めることができると思います。

 ただ自分は、『僕が愛したすべての君へ』の方を先に読みました。こっちを先に読んだ場合は、全ての謎が解くためには二冊目を読まなければならなくなりますけど、「なるほど、アレはこう言う事だったのか」と思えるような回答が後々待っていて。まるで解けなかったパズルが解けたみたいな楽しさがありました。


 説明がヘタで申し訳ございません。ですがこの感覚は、読んでみないと分からないと思います。



 新感覚のSF恋愛小説、『君を愛したひとりの僕へ』と、『僕が愛したすべての君へ』。SFが好き、変わった恋愛モノを読みたいと言う方は、きっと楽しめると思います!(^^)!

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