研究魔、脱走する
あと、この世界、エスラトウスについて分かったことについても話さないとね。
この世界、魔法があります。
この魔法、この世界では【術】と呼ばれるそれは、霊素と呼ばれる、大気中の不思議物質を利用して、物理現象を発動させる——ものらしい。
らしい、というのは今まで見聞きしたものだからね。確証は、これから。
なにせ今の私はやっと動き始めることが出来たこの世界初心者ですから! 知らないこといっぱい!
話は戻して。
この世界に満たされている霊素は特に重要なファクターらしい。
ファンタジー世界では恐らくマナとか呼ばれるものだと思うんだけど、その用途範囲は前世で使われていた電気をも超える。
なにせ、世界中に満ちていて、それを術として使うだけで物理現象を起こすのだ。
お気軽すぎてニコラ・テスラもエジソンも真っ青だよ!
模様をなぞるだけでお湯が湧き出すポットなんてすごすぎるでしょ。
前世でもインスタントコーヒー用に欲しかった!
なので、この世界には送電線なんてものは無かったりする。すごい便利。
ただし、空気中の霊素は術として消費されれば減っていく。それを補うのが、【霊樹】だ。
霊樹は神霊樹のコピーみたいな存在で、神霊樹ほどではないけど霊素を発生してくれるありがたい存在だ。
自家発霊素樹みたいな存在なのかな? ともかく、霊素を利用して人々は生活をしているようだった。
電気社会でなく、霊素社会といえばいいのかな。
ただ、私自身が術を使っている所を見たことがないから、又聞きしたようなものなんだけどねー。
さてさて、次は私自身の話。さっき王女といったけど、さらに私は王家でも特別な存在らしい。
ええと、先に言っておくけど、私は前世で言う、いわゆるヒトじゃありません。
あっちだと亜人、っていえば良いのだろうか。
この木国の王家は、代々樹の民と呼ばれる整った顔立ちにとがった耳をした種族の血を受け継いでいる。
樹の民は術の才能に優れている種族らしく、代々有名な術使いを輩出している、とか。
ちょっとエルフっぽいと思った? 私もそう思ったから安心して。というかエルフだわ。エルフに転生したわ私。
しかも、その中でも私は古き樹の民という特殊種族の特徴を持っているらしい。
その特徴というのが、額と両耳に付いている神霊石だ。
私の場合、額に円く、両耳の耳殻のとがった部分に、乳白色の石が付いていた。
光の当たりようによっては真珠みたいな虹色の光沢が見える、そんな石(さっき鏡で確認しました)。
いやー、びっくりしましたよ。初めて気づいたときは「なんかついてるー!」って叫んだもん。オギャーしか言えなかったけど。
でも、この石、意識しなければ全く気にならない。
爪みたいなものといえばわかりやすいかな。
普段は気にならないけど、爪を叩いたり、伸びた爪が物に当たると硬い爪があることを自覚する感じ。
で、この神霊石を持って産まれたのは初代女王以来らしく、現王であるお父様は大層お喜びになっていた。
国王なのに子供みたいなはしゃぎよう。産まれて喜んでいるのか神霊石で喜んでいるのかはっきりしてくれ。
そして直後に「どうしよう」とも言っていた。なんのことだろう。
さらに、石の色を見て「白色……何の徴術ができるんだ?」とも言っていた。
こっちが聞きたい。
でも、胎内にいたときの謎が一つ解けたよ。
ソナースキルのぶわっとでる何かの発生元がこの神霊石だった。
神霊石はどうやら、霊素を操ることが出来るらしい。
以前、ソナースキルはコウモリの超音波ソナーみたいなもの、と解釈してたけど、あれ、間違い。
よく考えたら指向性の超音波みたいなものが、障害物に隠れたモノまで分かるはず無いしね。
正解は、神霊石で霊素を微小な手のように操り、そこからの触覚のような情報のフィードバックを得ていたからでしたー!
わかるかッ!
ともかく、今までソナースキルと言っていた技は、私が全方向に霊素を飛ばしていたからだと判明した。
そして、原理が分かれば、応用が利く。
指向性、霊素を操る濃度、神霊石に込める思考力などをパラメータとして認識し、試行することで私は一つのスキルを習得した。
名付けて、エレメンタルハンド!
いわゆる、念動力みたいなスキルで、私がイメージする手を霊素が再現し、モノを動かしたり、掴んで保持してくれたり、触った感触を教えてくれる万能の手だ。
これのお陰で、私は部屋にあるハイハイ隔離用の柵の扉を開けて、部屋の重い扉を開けて、さらには私自身を掴むことで登り階段の補助を行うという、生後六ヶ月ではあり得ない行動が可能となったのだ!
ちなみに私自身を掴んで空中浮遊とかは出来なかったです。
これは私が重いせいだと思うけど、気持ち悪くなるのはなんでだろう?
今後の課題にしておこっと。
そして、なんとか辿りつきました、目的の場所。
書斎っぽい部屋!
そう、私は、本というか文字を欲しているのだ!
他の部屋と比べて狭めの部屋の中には、本がずらっと並んだ本棚が部屋の側面を埋め尽くしていた。
扉と対面の壁側には、事務仕事が出来そうな広めの机、そして椅子。机は石材、椅子はどうやら金属製のようだった。
天井には、シャンデリアに似た灯りの術具が置いてあり、私が来たことを感知して自動で点灯した。
おおお、ちゃんと革張りで装丁されている本だ! ファンタジーって感じがする!
前世は電子書籍がメインになった時代だったから、物理書籍は大学の図書館ぐらいでしか見たことないんだよね。
さて、エレメンタルハンドを本棚に伸ばし、おもむろに本を抜き取る。
重ッ!?
え、なに、この本重い。なんで? 紙の本ならこんなに重くないでしょ?
A5判の300ページくらいの本がなんで私の体重の半分ぐらいあるの?!
ってよく見たら本棚も金属製だ! どんだけ重いのこの本!
予想外の重さに驚きながら、落とさないようにゆっくりと本をエレメンタルハンドで私の近くに持ってきて……目の前に置いた。
はー、びっくりした。
やっぱりここは異世界。前世の常識で行動したら大変な目に遭うなぁ。
ともかく、これで文字が読める。あとはパターンを研究すれば、言語解析出来るはず!
よっし、やるぞー!
「リンカ! ここにいたのか!」
私がやる気を出したその時、男の子の声が後ろから響く。
びくっ! と私の身体が緊張した時だった。
——ブチン
まるでブレーカーが落ちたかのように、私の視界は暗転した。
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