暴走研究王女、誕生
研究魔、異世界に産まれる
産まれてから六ヶ月……。
なんと、ハイハイできるようになりました! パチパチパチ!
すごくない? 早くない? 地球ならあと二ヶ月くらいかかってるよ!
それに、なんと言っても移動できる素晴らしさよ!
前世で『動きたくない』って言ってごめんなさい!
やっぱり、移動できないと何も出来ないって事が分かりました!
今世はフィールドワークも積極的にやっていきたい所存です!
ということで、今までの近況報告。
私、王女でした。ロイヤル。プリンセス。しかも第二子。
脳内でブーイングが聞こえる気がするよ。私も知ったとき、えーって思ったもん。
いや、いいんだけどね?
ほら、こういう転生物語って、前世の知識を使ったり、妙に世界のシステムに理解度を示して最底辺から成り上がりするじゃない?
いきなりチートレベルの地位から始まったら、そういう気って起こらないよね?
少なくとも、私はしたくない。
資金は潤沢、飢えることもない、王家としての公務さえしていれえばずっと王宮で引きこもれる。
しかも、第二子なので王位を継ぐ必要ナッシング。
=研究し放題!
産まれたときから私、勝者。勝ち組。転生ガチャに大勝利。
社会変革とか努力友情勝利とかしなくても、我が望みは果たされる状態。
前世の私がいた日本も、皇太子はばりっばりの生物学研究者だしね。研究仲間でメッセ友だったし。
ロイヤルバリューはつかわせて頂く所存です。ぐへへ。
あとね。転生先の世界、かなりファンタジーでした。いわゆるハイファンタジー。
そのことを認識したのは、初めて部屋を出たときのこと。
この世界の赤ちゃんの生育が良いのか、それとも私の身体が特別なのか、生後四ヶ月ほどで周りがかなりはっきり見えるようになった。
それを知っていたのか、セツカ、つまり今世のお母様は私を抱いて、バルコニーに出た。
初めて当たる、窓越しじゃない、樹の光。そう、樹の光ってのがポイント。
ほどよい眩しさで閉じていた眼を開いて、初めて外の空を見る。
世界は、白い枝に覆われていた。
雲より高い空の先には、マスクメロンの編み目のように、白く輝く枝が張り巡っていて、この世界を覆っていた。
しかもなんと、太陽がなかった。その代わり、白い枝が光を供給しているらしく、眩しすぎない明かりが世界を照らしていた。
白い枝の合間に青い空が見える。そんな不思議で綺麗な風景を見つつ、私は上を見ていた顔を、その枝の太い方を追うように倒していく。
枝の太い方に、樹はあった。
視界の半分を覆うほどの、白く太い幹がそこにあった。
大気のせいで輪郭がはっきりしないその幹は、太さはそのままで遙か上まで延びている。軌道エレベータみたいな規模の高さまでだ。
私は驚愕と好奇心で眼を満開まで見開いた。
なにあれ、なにあれ! 私は、必死に教えてとお母様に声をあげる。あーうーしか言えないけど。
「やっぱり見えているのね。すごいわ」
お母様がふふふ、と笑いながら私の顔を覗く。
「あれが、【神霊樹】様よ。世界を照らして、【霊素】を満たしてくれる、神様が遺した樹」
何度も聞いたことのある神霊樹という単語。
そうかぁ、あれが神の如く崇められる樹なんだ。
納得した私は、再び外の世界を見渡す。
神霊樹の上の幹から根のあたりまで見下ろしていくと、私のいる国の全景が見えてきた。
私が住んでいる城は小高い台地の上に立地していて、城の中も城下町も木々が生い茂っていた。
城壁は台地を囲むような形で一重しかないけど、その代わり、敷地面積は広い。
なんたって森一つ抱えてるからね。スケールがおっきい。日本じゃ無理だよ。
その森の合間を縫うようにして、石造りやレンガ造りの居館や塔などの重要そうな施設が建っている。
城の造形はゴシックデザインが一番近いけど、所々見たこともない樹を模した造形や彫刻が入っててちょっと面白い。
歩けるようになったら探索したいなぁ。
城下町は、一見、森のように見えるけど、その中に人々は住居を構え、市場を作り、街を作っていた。
石畳も最低限、道路と広場ぐらいだ。あっちの世界でいえば、公園そのものが街になった感じといえばいいだろうか。
ただ、これだけ豊富に木材があるのに、建材として木材が使用されていない。大体は石かレンガが主体だった。何か理由があるのかな。
私が住む国の全景を見ながら、街の港、その先にある遙か海の向こうまで視線を伸ばす。おぼろげに見えるその樹は、海から天へ白い幹を伸ばしていた。
そう、大地ではなく、海から生えていたのだ。
大きいだとかスケールが分からないだとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
そりゃあ、みんな神様みたいに崇めますよね。
神様がいるかいないか分からなかった私も今世は崇めていきたい所存です。
はー、すごい世界に転生したなぁ。
私はその世界の美しさに感嘆しつつ、ここで生きていくことに嬉しさを覚えていた。
何故かって? そりゃあ、研究対象がいっぱいなんですもの。
神霊樹とか研究したくなるじゃない!
異世界での文化様式とか、生物とか研究したいじゃない!
ああ、早く自分で動けるようになりたいなあ!
そういう想いから、わたしはハイハイにのめり込んだ。
その成果が、六ヶ月でハイハイマスターという今の私。
ええ、めちゃがんばりました。ほめてほめて。
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