研究魔、研究に詰まる


 さてさて、どうしようかね?

 真っ暗な空間、むーちゃん空間で考え始めて早三日。

 二時間でテストをし、そのまま強制シャットダウンでテストのまとめと思考実験の繰り返し。


 いやー、完全に詰まってますね。


 さすが年月を重ねた最も基本的な符紋、外霊素供給符紋だよ。

 シンプルイズベスト、余計な図形を排除して『外から霊素を刻紋に供給する』というその一点に特化した符紋。

 というかですね、『<』なんてただの二直線に図形に何の手心を加えればいいんでしょうか!?

 一応変形させてみたりもっと鋭角にしてみたり、直線を曲線にしてみたりとかいろいろしてみましたよ。


 何の成果もありませんでしたがね!

 手詰まり感が半端ないわけです。

 だけど、それがまた楽しいワケですよ!

 ああ、私は今、研究してるぞー! って感じで燃えてますよ。


 生命の充実を感じるね。生きてる!


 だけど、そろそろ別の手猫の手孫の手を考えないと、この研究が頓挫しそう。


「アレも試した、これも試した……」

 脳内で符紋をリストアップし、現実世界で試す。これの繰り返しだけど、符紋を作るって難しい。

 外霊素供給紋に近い図形をあらかた試したけど、思ったような性能はでない。むしろ発動しないことの方が多かった。

 というか、符紋ってどうやって作るのだろうか。

 外霊素供給紋だって、ただの不等号みたいな物だし、これだけで霊素供給が出来るようになるのも怪しい。

 でも、事実として、霊素はこの符紋から刻紋内へと『流れて』いる。


 ん?


 『流れて』いる?


 今まで部屋の窓みたいなイメージだった外霊素供給紋。

 でも、窓が一つだと中が真空でも無い限り、風が起こらないと空気が入ってこないのでは?

 複数配置したときも、風は入り口から出口へとながれるだけで、術図が発動するほどの霊素は集まらないはずだ。


 よく考えてみれば、私はこの外霊素供給紋自体の『特性』を理解していない。

 つまり、私はいままで基礎研究をせずに応用研究をしていたというわけだ。

 足場がぐらぐらだったらそりゃ上に載せた荷物は落ちるよね。

 そりゃ今まで失敗するはずだよね。


 よーし、明日の方針は決まった! 起きたらとことん外霊素供給型を研究するぞ!


 次の日、私はシンプルな刻紋を彫り続け、ひたすら霊素の流れを観察した。

 その結果、この外霊素供給紋は霊素の流れを作るサーキュレーターのような役割を果たしていることが分かった。

 いわゆる換気扇だね。

 ただ、風力(霊素供給圧)は弱い。換気扇が起こす風が弱いから、より強い内霊石型の風が圧倒し、換気扇を止めて、霊素を外に漏らしてしまう。

 まあ、外霊素供給型が弱いというか、霊石から発生する内蔵霊素の量がおかしいのだけど。

 内霊石符紋も調べてみたけど、こっちは霊石から霊素が漏れ出すよう、霊石に一時的な穴を開けているだけの符紋だった。

 霊素供給圧は穴の大きさと霊素誘導符紋でコントロール出来るけど、原理的にはゴム風船に穴を開けるようなものなので、出力の母数は霊石内の霊素内蔵量となる。

 つまり、霊素という水が入ってパンパンに膨れたゴム風船が、霊石なのだ。

 霊石が大きければ大きいほど、霊素供給は持続するし、強い霊素供給圧を得られると言うわけだ。

 逆に言えば、しぼみ始めると一気にしぼむ=使えなくなると言うわけで。

 うーん、今持ってる霊石を大切に使わないとなぁ。なんたって給料一ヶ月分だからね!


 努力の甲斐あって、外霊素供給符紋の特性は理解した。

 じゃあ、その特性を生かしつつ、霊素供給圧を高める方法を研究しよう! 応用研究ってやつだ!

 ふふふふ、実は二つくらいアイディアはあるんだよね。

 一つ目は、複数の外霊素供給符紋を横に並べて、霊素誘導符紋で合流させて圧縮させる方法。

 二つ目は、外霊素供給符紋を重ねる事によって霊素供給速度を上げる方法。

 これらと内霊石型刻紋と力比べをし、拮抗すれば成功だね。


 どんな刻紋を彫るか検討し、むーちゃんに怒られ、私はそのまま意識が落ちた。


 翌日、日課と授業を終えた私は、口ずさみながらエレメンタルハンドに刻紋彫りを指示する。

 なんとエレメンタルハンド八本で刻紋四つを同時並行だ。二時間しかないからね、時間は節約しないと!

 といいつつ、もう二本のエレメンタルハンドで研究ノートを取る。まずは複数の符紋から得た霊素を圧縮させる方法を試す。


 もしかすれば、紋様の形によって結果が違うかも知れないため、いろいろなパターンの霊素誘導符紋を試すことにした。

 今回は、直線放射状、樹状、三つ叉、渦巻きの四パターンだ。


 まずは直線放射状。正六角形の中心に向かって、そこで圧縮、そのまま出口に向かうパターン。

 これは、結果から言うと失敗。中心に集まるまでは良かったけど、霊素供給圧はあがらずにそのまま内霊石型刻紋に押し負けて終了。


 次に、樹状型。神経細胞の樹状突起みたいな、樹の枝のように分岐するパターンだ。

 これはダメダメだった。霊素の速度にムラがありすぎて圧縮したい場所で圧縮できなかった。

 だけれども、お陰で圧縮地点まで誘導距離が多いと、その分霊素が溜まりやすい事が分かった。


 三つ叉は直線放射状より悪い結果に。圧縮のタイミングが合わなくて、いつも通りの外霊素供給型と同じ供給圧で終わってしまった。

 ここから、圧縮地点はどの外霊素供給符紋から同じ位置でないといけないことが分かった。これは良い知見だね。


 そして、最後の大本命、渦巻き型だ。

 これは意図してなかったけど、直線放射状と樹状の合わせ技みたいなパターンになっていた。

 つまり、『圧縮地点は各外霊素供給符紋から同じ位置』であり、『圧縮地点まで誘導距離が多く霊素が溜まりやすい』パターンなのだ!


 これは期待できそう!

 私は心がウキウキワクワクしながら、霊石を内霊石型刻紋にはめて、刻紋を起動する。


 パキッ


 パキ? 聞き慣れぬ音に、私は音の発生源へと目を向ける。


 霊石が、割れていた。そりゃあもうパッカーンと真っ二つ。



 あああああああああ! お給料一ヶ月分がああああああああ!



 私はあんぎゃー! と叫んで、そのまま気絶した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る