研究魔と新スキル開発
ハローこんにちは! レポーターのリンカです!
私は木国の首都カティアの、燃えるように紅い木の葉が咲き誇る町並みを一望しています!
いやあ、綺麗ですね、私の新しい故郷は。時間があれば、もっとゆっくり眺めたいものですね。
え、なんでゆっくり眺めないのかって?
それは! 私が! 現在進行形で! 誘拐されてるから! だよ!
テンション高めに言ってみたけど、心の中ではかなり切羽詰まってます。
人生初誘拐ですよ? 前世にもなかったよこんな経験! 未遂は結構あったらしいけど。
ちなみに、私を脇に抱えた誘拐犯は、木々の天辺を足蹴にしてかなりの速度で走っています。
まるで忍者だよ。というか、人の足って、自動車並の速度出せたっけ?
そのせいで景色がびゅんびゅん流れていくから、都の落ち着いてみれないんだよね。
いやー、困った困った。犯人にも風流ってものを教えないといけないなー。
『……はぁ』
ちょっとむーちゃん、いきなり出てきて溜め息だけつかないでよ。
『誘拐されているっていうのに、ずいぶんと余裕だね』
軽口言わなきゃ精神安定できないくらいに動揺してるよ?
『本当に?』
城から出るときにギリギリお兄様に糸電話で知らせることができて安心したのも、ちょっとだけあります。
ってあれ? 何で私、いーちゃんから疑われてるの? セルフ査問会とかおかしくない?
『そんなことはどうでもいい』
どうでもいいってひどくない?!
『それより、誘拐された原因がほぼいーちゃんのせいだった気がするんだけど』
酷い言いがかりだよ!
誘拐犯がひゃくぱー悪いに決まってるし!
そりゃちょっと、私も不注意だった気がしますが?
『新しいスキルを作って浮かれてたくせに』
……そりゃちょっと、浮かれていた気がしますが?
『絶対にこの状況、誘拐した子も本意じゃないし』
あっはっは、そんなばかなー。誘拐犯の目的が誘拐じゃないって?
さすがにそれは犯人側に肩入れしすぎじゃないですかね、むーちゃん。
『……』
無言の圧力反対!
『……はぁ』
あーはいはい、分かりましたよ。
じゃあちょっとエレメンタル糸電話で思考を読んでみますかねー。
エレメンタル糸電話の読み取り思考深度を最大、つまり相手の深層意識で言語化できる部分までを読み取れるようにしてっと。
そのまま、誘拐犯である女の子の額に、額のにある『眼』を避けながら、ピトッと糸の端を着けた。
『どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう——』
ごめんなさい。私が悪いみたいです。
……とりあえず、状況整理のために、本日の朝からプレイバック。
―――あれは、私が充実感に満ちあふれた朝のことでした――――
*・*・*
起きてから私は上機嫌だった。正しくは、昨日の夜から上機嫌だった。
先生と結託した後の二週間で試していた、新しいエレメンタルスキルが完成したのだ。
しかも二つ!
ふんふんふん、と私は上機嫌でくるくると育児部屋を歩き回る。
そうそう、たゆまぬ努力の成果として私は遂に歩けるようになったのです!
私の知識で最適化された特訓メニューにより、赤ん坊のたどたどしい歩き方ではなく、背筋がピンと伸びたモデルのような歩き方を会得!
その結果、零歳児の身体でしゃなりしゃなりと歩くという不気味な外見を得てしまったわけ。
むーちゃんから『もっと子供らしく歩いて。気持ち悪い』と言われて、今までの努力が報われない形となりましたとさ。
まあそんなことはどうでもよくて。
『どうでもよくないんだけど』
どうでもよくて。
しかし、子供のようなたどたどしい歩き方をするなら足下が心許ない。
こけないようにするにはどうしたらいいのか。
エレメンタルハンドはモノを掴んだり細かい操作をするには便利だけど、私の身体を固定すると私が気持ち悪くなるんだよね。
これの理由もよくわからないんだけど、今のところは、用途を間違えているんだと仮説を立てておく。
と、ここで一つ天啓をいただきました。
エレメンタルスキルに『手』があるなら、『足』があっても良いんじゃない、と。
なんでそうなるの、とむーちゃんから呆れられたけど、思いついたからしかたない。
しかし、足を模倣するには結構骨が折れました。
手なら簡単にまねできたけど、足って意外と意識の外にある機能なのか、霊素を集めてもうまくいかない。
しかも自分の足が未発達というのもあり、全然参考にならない。
ならば、と回りの大人達——侍女さんたちを観察しようとしたんだけど、
全員、スカートの、丈が、長い!
観察するにも足自体が見えないとどうしようもないじゃん!
ぐぬぬぬ、と恨めしそうにスカートを凝視していたら、後日、裁縫の師匠でもあるイザドラさんが、私の丈に合わせた手作りの侍女服をプレゼントしてくれた。
さすが師匠、細やかな縫い目に頑丈な作りで、レースの外縁に彩った銀糸が控えめながら豪華さを演出。
……うれしいけど、すごくうれしいけど、そうじゃないの。
あなたたちの姫はメイド服のミニスカ化をご所望です。
ってこれじゃタダの変態だよ!
どうにかして、足を観察したい。男性の足はダメなんだよ、女性の足じゃないと私の参考にならないから! 成人女性の足を見たいの!
しかたない、と私は禁断の方法で解決することにした。
見えないなら見えるようにすればいいのだ。
つまり、スカートの中に入って足を見ればいいのだ。
だけど、直接スカートの下にもぐると言う行為は、私の理性が許さない。
なので、私はそれも研究のテーマにした。
題して、エレメンタルスキルで遠隔操作可能な『眼』は作れるのか!
……泥沼化してるのは分かってますよーだ。
『つまり、盗撮』
いいえ、これは研究に必要な観察です。
『……はあ』とむーちゃんの呆れ溜め息が聞こえた。
でもでも、刻紋の研究も一息ついてた所だし、自分の能力を研究してもいいと思わない?
『研究を休むという思考はないの』
ないです。
『むう』
ということで、私はエレメンタルスキルの新しい可能性を求めて、『足』と『眼』の開発に入ったのだった。
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