研究魔、霊素脚を没にする
足の構造と挙動のサンプリングを取り終えた私は、『足』の開発を始めた。
と進んでもいいんだけど、ちょっと侍女さんたちに一言申したい。
スカートの下に、物騒なモノを隠しすぎ!
短剣ならまだかわいい。小型のボウガンとか小型の杖とか、小型拳銃みたいな装備を全員がスカートの中に隠していたのだ。
つまり全員、暗器持ち! 歩く武器庫か!
それが常に見えてるもんだから、気が気でなかったよ!
あ、下着についてはとても参考になりました。皆さん派手なのを履きますね。
あれかな、裾の長い文化だから、下着に力を入れるのかな。粋ってやつ?
『多分違うと思う』
違うの?
まあいっか。それよりも『足』の開発だ。
とは言っても、『足』の場合は簡単だね。何せ足を生やせばいいだけだから。
難しいことを言えば、生やす際に物理接触を発生させるようにしたり、骨と筋肉の役割を持たせたりとかあるんだけど、そんなモノはエレメンタルハンドで実装済みだ。
にょきにょき、と私と床を絶妙なバランスで支える大人の足が『頭の神霊石』から生えた。
『……』
『足』は某二足歩行ロボットのヒザの動きよろしく、絶妙な挙動で身体を支えてくれる。
つまり、ぴくんぴくんしてる。その姿はまるで、人の足だけを集めた怪物のよう。
『耳の神霊石』からも生やしてみた。状況は悪化した。SAN値が5d10削れそうな勢いだ。
絵面ぁぁぁー!!
『いーちゃん、立派なクリーチャーだね』
くそう! その通り、誰がどう見たってクリーチャーだよ!
エレメンタルスキルの、神霊石からしかスキルの実体化ができないっていう制限を忘れてた!
『最近この展開多い』
言わないで! というかそれ言っちゃうと、私が前世で死んだ理由もうっかりだから!
恥ずかしさで頭をぶんぶん振ると、それに合わせて『足』達がすささささ! と動き回る。
うわああ、挙動は完璧だけどこわいよ! 不気味の谷がマリアナ海溝よりも深くなってるよ!
『この案は没。精神衛生上よくない』
……そうだね。
白と黒、満場一致で没が決定した。
私は再び頭を抱えた。まさか絵面で没になるなんて……!
その夜、私はむーちゃん空間にて、むーちゃんと二人でうんうんと【エレメンタルレッグ】について話し合った。
そして、ある結論に至った。
『もしかして……足を生やす必要がない?』
私は崩れ落ちた。
いや、研究にもよくよくあることですけどね?
研究題目が目的と離れてたり、研究してた内容が他の研究のついでに証明されたり、とか。
『たどたどしい足運びが不安だからつっかえ棒的に足を作る、というのがそもそもの間違い』
ぐふっ。むーちゃんが今までの話をつらつらと復唱しているだけなのに胸が痛い。
確かに、こけそうなときに突然止まったりすれば自然じゃないよね。
『こけて怪我をすることが問題』
そう、根本的な問題はそこだったのだ。
つまり、解決方法は『こけても怪我をしなければいい』。
『そして、怪我をしないほうがいいのは、私も同じ』
おお?
『だから、今回は私も協力する』
おおおお!
ここから、意識と無意識、白と黒、いーちゃんとむーちゃんの共同研究が始まった。
*・*・*
結果からいいましょう。
やりすぎました。
『……満足』
むーちゃんやりきった声が脳内に響く。むふー、と鼻息も荒い。
このむーちゃん、存外にこだわり派だった。
たとえて言うなら、砂場での遊びでダムを作る事になったとき、私とはこう違う。
私はダムという機能を作って満足。他の遊びをしにいく。
むーちゃんはひたすらリアルなダムを作りつづける。
最初にそんな違いが分かったので、機能自体は私がちゃちゃっと決めて、むーちゃんがひたすらこだわるという分業制を導入。
その間に他の追加機能を私が作っていく。
その結果、【エレメンタルパワードスーツ】とも呼べる、強化外骨格が出来たのだった。
アーマーと言っても、霊素の帯【エレメンタルバンド】をボディペイントのように身体に這わせているんだけど、そのシンプルな造形から想像も付かないくらいの機能が仕組まれている。
まず、パワードスーツの代名詞である身体強化機能。これは身体に這わせた霊素が『擬似的な硬度を持ちながら伸縮』することにより、外骨格としての強度とパワーを両立している。
硬くて柔らかくて伸縮するってどういう素材なの。霊素こわい。
次に、耐衝撃性能。エレメンタルバンド自体硬いんだけど、それだけではない。
こだわり抜いた上に生まれた、最強装甲。その名も【エレメンタルリアクティブアーマー】を実装しているのだ。
リアクティブアーマーとは、外部からの攻撃に対してなんらかの反応をする装甲のことだ。
爆発反応装甲とかいい例だね。あれは指向性の爆発がきたら爆発で分散させるんだけど。
今回はその考えを応用した。エレメンタルバンドの表面に、機能制限したエレメンタルドットを埋め込むことにしたのだ。
外部の攻撃(衝撃)をエレメンタルドットが感知すれば、小さめのエレメンタルハンドが起動するように設定。
あとは自動迎撃機能を搭載したエレメンタルハンドが、攻撃や衝撃を掴んだり押し込んで無効化するだけだ。
しかも、エレメンタルドットの反応範囲が広いので、全身を霊素で覆う必要がない。
そのお陰で、エレメンタルハンドは筋肉と骨格にあわせて最低限配置するだけで良くなり、常時発動も可能になった。
もちろん、エレメンタルハンドが扱える物理エネルギーの限界があるので完全無効はできないし、熱はまだつかめないので熱耐性は無理。
ただ、『こけても怪我をしなければいい』レベルは楽勝で耐えきれる性能になった。
つまり、簡単に言えば、『硬くて強くて大体の攻撃を防御できる』スキルができたってわけ。
って、明らかなオーバースペックだよ!
『いーちゃん』
出来たエレメンタルパワードスーツ、略して【EPS】を見つつ、少し呆然としている私にむーちゃんが話しかけてくる。
『試してみよ、これ』
いつもと立場が逆ですよね?!
……やるけど!
私は全身にEPSを張り巡らせる。
うーん気分はスーパーヒーロー。
そして、軽くジャンプした。
天井に頭がめり込んだ。
『……身体強化レベルは調整の余地あり、と』
むーちゃん、真面目に分析しないで。
というか、エレメンタルハンドが縁を掴んで、抜けないんだけど。
『解除は?』
真っ逆さまに落ちるじゃん!? 再発動の猶予もないよ?!
その後、私は慌てふためいた侍女さんたちに救出され、お兄様と先生とイザドラさんに怒られた。
お母様は壁に手を突いて肩をふるわせていた。大ウケだ。ぐぬぬ。
ともあれ、二つのエレメンタルスキルは完成したのだった。
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