研究魔、時詠とお話する
『つまり、……その、リンカティア姫殿下は、うちの心が読めていて、うちの過去まで全部知ってしまわれた、と』
『その通り! 理解が早くて助かるよ〜』
エンエちゃんが起きてから、私はエレメンタル糸電話について説明した。
理解力は高いらしく、すぐに納得してくれた。
さっき、何かしらで通信してたからかな? 似た技術があると説明しやすいね。
ああ、通信機器らしきモノ、見たかったなぁ。コートに包まれてたから見れなかったんだよね。
『……ということはあんなこともこんなことも? うわあああ!』
あ、顔が真っ赤になってる。無口キャラの赤面いただきました!
『安心して、恥ずかしい場面はちょっとしかなかったよ! 子供だもん、おねしょは仕方ないよね!』
『あああああああ! 忘れてくださいいいい!』
そういえば、エンエちゃんは表と裏で口調を使い分けてるんだね。
心の声の方が実年齢に近くて圧倒的にかわいい。ギャップ萌えでイケる。
ただ、その胸も合わせてギャップ萌えするのは変態さんだよね。分かってるよ。
いーちゃんは精神年齢と胸が一致してるねって? うるさいよ!
『何も言ってないんだけど』
被害妄想の結果なので気にしないで。
それにしても、毎回リンカティア姫殿下って言うの面倒だよね。
『そういえば、『リンカティア姫殿下』って長いし、みんなにもリンカって呼ばれてるから、そう呼んでね』
『めめめめめ、滅相もない、です!』
うわ、すごい恐縮してるよ。うーん、そういうものなのかな?
周りは普通にリンカ様とかリンカとかこの研究バカ、とか呼んでるけど。
『いーちゃん、時々王族ってこと忘れてるよね』
『忘れてはないよ、意識してないだけ』
『余計に酷い、身分差考慮しない押し付けテロだよ、それ』
『押し付けテロ!?』
むーちゃんのテロリスト発言にびっくりしたけど、確かに。
身分差なんか気にしないでーって美談のように見えるけど、相手からすれば確かに押し付けにすぎないよね。
こういう時、身分ってめんどくさい。
これからは気を付けなきゃ……と思ったけど、あれ、ヴィーヴ先生は普通に呼び捨てしてない? してたよね?
しかも、最近は二人の時、研究バカ呼ばわりが普通だし。違うもん、研究魔だもん。
ということは、もしかして、これが一般人的思考……?
『やっぱり二人分の声が聞こえるよ……』
カルチャーショックを受けていると、エンエちゃんが小さく脳内で喋った。
口が軽く開いて涙目になってるエンエちゃん。保護欲をかき立てられますね。
……ってなんで聞こえてるの?
『いーちゃん、私たちの繋げる深度が深い。もう少し浅く』
あ、なるほど。
エンエちゃんに接続する思考深度を調整した時、私に繋いでいる方もないしょ話レベルの深度にしちゃってたのね。
失敗失敗。
『今から繋ぎ直すの面倒だからそのままでいい?』
『何言ってるの……。この子に私の存在知られていいの?』
『いいんじゃないかな。私もこの子の事情を知っちゃったし、イーブンってことで』
『……はあ、わかった。その代わり、絶対この子を引き入れてね。……逃がしちゃダメだよ』
『まっかせて!』
心の中でサムズアップ。白と黒の意見が一致した。
『すごく怖い話を聞いた気がします……』
『怖くないよ、怖くないよ。あ、この声はむーちゃんって言って、もう一人の私ね』
『もう一人の姫殿下?!』
あ、涙増えた。うるうる涙目の少女ってかわいいよね。
『そして、この秘密を知ったからには、あなたは組織に帰れない』
『すごい理不尽?!』
そして、むーちゃんのトドメが炸裂。遂にエンエちゃんの涙が決壊した。
『どうして……うちはただ調査しに来ただけなのに……そんな』
『落ち着いて、エンエちゃん。別に捕って食おうってわけじゃないから』
『お姫様攫っちゃうし、そのお姫様が赤ちゃんなのに喋ってくるし、しかも逆にうちが誘われてるし』
『うんうん、運命ってのは理不尽だよね、わかるわかる』
『運命というよりもいーちゃんが理不尽の原因では』
ええい、むーちゃん、茶々入れないで。
『そんなエンエちゃんに、私から提案があります』
『な、なんでしょう』
『今回の件、私の権限をフルに使って不問にするよ!』
『……えええええ!?』
『もちろん、エンエちゃんの協力も必要だよ。『施設』とか『組織』について話して貰ったりね』
あと、私に仕えることが前提条件ね。と私は念を押して追加する。
そこまで話して、エンエちゃんはぽつり、と呟いた。
『……なぜ、ですか?』
顔が私の方に向きつつも、伏せ気味な瞼に、横に逸らした目。
私はその顔を見て既視感を覚えた。
『なぜって?』
『うちの過去、もう知っているんですよね? どうして、うちなんですか?』
『あーなるほど』
その顔は前世で私が同僚を研究所に誘うとき、自分の力に自信の無い同僚が見せた顔と同じだった。
何故、俺を選んだのか。
そして、私はその解決法を知っている。
それは——
『ならば、教えて進ぜよう! 私が知ってるエンエちゃんのすごいところを!』
相手を褒め倒すことだ!
『まずはやっぱり、その徴と徴術ね。珍しいどころか特異といってもいい! もうそれだけで欲しい人材なのに、その年で隠密ができるほどの能力とか、光と陰という相反属性の適正を使った独自の応用術、ほんと六輪なの? さすが、第一世代の霊人種よね。やっぱりスペックは英雄並み? ああ、研究したいなぁ! いやいや、決して研究目的に誘ってるワケじゃ無いよ? ほんとだよ? その上、すっごい家族思い! 自己犠牲はちょっと危ないけど、自分の家族を守るっていう信念がすごい! そういうところも私たちが選んだポイントね!』
突然褒め倒されるエンエちゃんは混乱したのか赤面しながら目を回している。第三眼もグルグルと回っていて面白い。
私は、そんな彼女の眼をみたくて、エレメンタルハンドで私とエンエちゃんの顔を近づける。
『それに、あなたが嫌いって言ったその眼、『星空』みたいでとっても好き。初めて見たときから思ってたんだ』
『ホシゾラ?』
『そう、星空。闇の中に瞬く強い光を宿した綺麗な眼。きっと、いるかいないか分からない神さまの贈り物だね』
そういって、不思議そうな顔をするエンエちゃんに私は微笑んだ。
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