研究魔と霊樹の洞


 今まで日向ぼっこするだけだった昼間も、エレメンタルスキルが新生した今、スキルの練習時間になった。

 使いこなしてたエレメンタルスキルに練習が必要な理由としては、操作感が全然違うからだ。


 『意図の糸』を使ったエレメンタルスキルⅡは、車で言えばマニュアル操作。


 神霊石という私の意識直結霊素ブースターがないので、同じ感覚では発動はしてもうまく操作できない。

 オートマからマニュアル操作になった影響は大きく、力の加減やら形の固定など、今まで隠しパラメータだった項目も設定しなきゃいけないのだ。

 そのため、繊細な霊素操作技術が求められる。

 ○○ができたらいいなーしたいな、ではなく、○○をするためにこう操作する、という明確な意図を持って霊素を扱うのだ。


 『意図の糸』と言うのはここから来ていたり。糸は指向性を示すための、私の中のイメージ的妄想です。


 さすがに十組もエレメンタルハンドを作って練習するとむーちゃんに怒られそうなので、一組程度にして五指にしたり四指にしたり三指にしたり、ジャンケンさせたり……といろいろ遊びながら命令系を練習をしている。


 ちなみに、エレメンタルハンドとエレメンタル糸電話(無線式)はすぐに発動できたけど、エレメンタルアイやソナー、複合スキルのエレメンタルパワードスーツEPSは発動していない。

 使い慣れたスキルほど命令が最適化されて発動しやすいのかな、と思って他のスキルも慎重に命令したり、命令数を多くしたりと試してみたのだけど、全滅。

 エレメンタルハンドも手までだったら発動するのに、腕まで入れると発動しなかったり、エレメンタル糸電話(無線式)も五つ発動しようとすると霧散する。


 うーん、霊素の回復も遅いし、そもそも枝の外って霊素自体が少ない?


 でも、目に映る霊素の量は、実家とあんまり変わんないんだよね。

 今の眼はむーちゃんがいないので、霊素の量と流れしか分からないけど、視た情報は正しいはずだ。


 なんというか、霊素自体扱いづらい?


 そう感じたのは、意図の糸の限界数だ。

 意図の糸は三つ指エレメンタルハンド三十手分が限界。操作が難しくなれば倍率ドン、だ。

 五つ指の、前のエレメンタルハンドにすると十五手分しか作れない。

 本来の感覚なら、もっと多く作れていてもおかしくないはず。

 そもそも、意図の糸がエレメンタルスキルの操作限界ならば、それ自体は二ヶ月前と余り変わっていないはず。

 ここから導き出せる仮説……、つまり――霊素自体の性質が違っている可能性。

 それを私はなんとなく『霊素が重い』と感じていた。


 ならば、と私はいつもの二倍以上の感覚で意識を流し、EPSを発動させようとする。


 あらわれろさいきょうのよろい、むーちゃんとのがっさく、さいきょうにしては全く役に立たなかったよろい、結構弱点があるぱわーどすーつ……。


 十分ほど念じてみたけれど、EPSが発動することは無かった。


 ああ、そっか。

 そもそもEPSって私の全エレメンタルスキルを総動員して発動したやつじゃん!

 そりゃ糸が足りないよ!

 うーん、じゃあ、エレメンタルアクティブアーマーをオミットして、エレメンタルバンドだけで構成してっと……よし、発動出来た。

 なんか、エレメンタルドットが基本的に重い気がするんだよね。何故だろう。

 まあ、せっかく発動したので、身体に張り巡らせたエレメンタルバンドを起動。

 慎重に慎重にパワードスーツ側から、私の身体を動かして貰う。


 研究魔、枝の外に立つ!


 おおー、歩けるよ!

 気を抜くと飛んでいっちゃいそうだけど、無事に歩けてます!

 あとはエレメンタルハンドがどれくらい使えるかを確認。

 十手くらいは作れるようだね。

 オミット版EPSは二十手分の意図の糸が必要、っと。

 さてと、立てたことだし、リハビリを兼ねて霊樹の周りを探索しようかな!


 いざゆかん、未知の場所へ!



  *・*・*



 改めて見ると、ここの霊樹も大霊樹様ほどじゃないけど、相当大きかった。

 まず、幅は遠目で見ても三十メートル以上、相当の年月を経ていることが分かる。

 それでいてここの主塔(推算で三十メートル越え、十階建てビルくらい)の大体二倍くらい高いんだから、相当の大きさだ。


 とてとて、とフルコントロール歩行で慎重に太い根を乗り越え、幹に進む。

 もしかしたら、霊樹の精霊がいるかもしれないし、接触できればなにか面白い情報を得られるかも。

 あと、霊素一杯くださいとお願いしたい。

 そんなことを考えながら、私は無事に霊樹の幹まで辿り着いた。

 ちょっと服が破れたけど、無事に。こけてないです。


 その霊樹の幹には、どでかいうろが空いていた。

 大人が一人そのまま通れるほどの穴の大きさの洞なんて、私は見たことがない。

 そして、私が最も目を引いたのは、その中の霊素量だ。

 通常の空気中にある霊素量を1とすると、洞の霊素量は50と言ったところ。なんとごじゅうばい。

 樹の民の眼で分かる霊素の濃さで判定しているから、実際はもっと多いかも。

 くう、空気中の霊素量を測定する装置がほしい! 切実に!


 ……この中で霊素を吸収すれば、早く回復出来るのでは?


 まさしく私のためにあるような場所!

 少し興奮した私は、EPSに力を込めて、霊樹の洞を目指す。

 洞は五メートルほどの高い所にあったけど、エレメンタルハンドを足場にしてずいずいと登っていく。


 そして、やっとこさ洞の縁に立った。

 というか洞の縁に立てるほどのスケールとは、霊樹ってやっぱり規格外なのかな。

 洞の中の霊素量は、すでに先が見えないほどの濃さ。

 樹の民の眼を意識的にオフにして、私は洞の縁に四つん這いになり、その先を覗く。


 なに、あれ?


 洞の中には、とてつもない大きさの、クリスタルで出来た種子のようなモノがあった。


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