研究魔、異世界ギャップを体感する
『それで、枝の賢者って結局何者なんです? ヴィーヴ先生の見解として』
話の流れが大分飛んだ気がしたので枝の賢者に話を戻す。
『そうだな……枝の賢者は、おそらく、『純人種』だ』
先生の見解は、意外な内容だった。
『純人種? 樹の獣でもなく、霊人種でもなく、純人種ですか?』
『そうだ』
『偉業が只人の範疇じゃない気がするんですけど……』
霧払いの武具やら術精霊を作った人が、ファンタジィな力を持たないただの純人種だった、ってあんまり信じられないなぁ。
『言わんとしてることは分からんでもないが、純人種である俺の前で言うことか、それは』
ひっ、そういえば先生も純人種だったよ。ここは素直に謝らないと。
『ごめんなさい』
『素直なことはいいことだ、俺は許そう。あんまり他の同胞には言うなよ』
腕を組み、うむと頷く先生。偉そうだけど似合う、その事実がだんだんむかついてくるのは何でだろう。
『確かに純人種は『か弱い、術を使えない、身体に霊素を持てない』という、今の時代には合わない種族だ』
『自虐過ぎません?!』
そこまで言ってもないよ私!?
『だが、故に純人種は知恵を使い研究し、克服する』
『……おお』
なんかかっこいいこと言ってるよ、先生。
そうだよね、生きるために知恵が生まれ、その積み重ねが科学を育む。
これこそ人類の真骨頂だよね!
『この特徴が、枝の賢者の正体が純人種だと言った根拠だ。
彼は歴史に登場した短期間で様々な発明をしたからな。
それはきっと、激動の英雄時代を純人種として抗った結果なんだろう』
もちろん、推測じゃなく調査で出した結論だがな。と先生は締めくくる。
『なるほど……』
『ちなみに、霊人種でも同じ事ができる。だが』
『だが?』
『霊人種は生物として強すぎるんだ。
霊素で強化された大地の肉体に、術精霊による圧倒的な力を持つ、霧魔を屠ることができる生物種。
それが霊人種、それ故に安定してしまう』
私の頭の中で、安定——静止——止まる、と連想ゲームを続ける。
つまり、停滞?
『そこから進まなくなるってことですか?』
『そうだ。安定した生物や文明というものは、進化をしなくなる、進歩を望まなくなる』
えー、そういうものかなぁ。
確かにこの世界は、技術革新を促す戦争とか起こりにくいし、資源の取り合いもほぼないけどさ。
進歩や進化がなければ、赤の女王にひき殺されるよ?
『より便利な、進んだ世の中にしようとか思わないんですか?』
『生存が脅かされ、立ちゆかないほどならば、進歩はするだろう。
しかし、生きるのに不便がなければ、メリットよりもコストを見るようになる。
[確かに便利になるが、それは果たして労力を割くほどの物か? 今のままでいいのではないか?]
といった具合にな。
それに、英雄時代で術の革新が起きすぎたと言うのもある』
『うーん、納得しづらいです』
ライフワークが研究の私にとってはあまり理解できない。
進歩、最高じゃない。技術が進歩すればまた新しい研究ができるし、世の中便利になって引きこもりやすくなるし。
私は研究で引きこもり過ぎて死んだけどね!
あれ、進歩に殺されてない、私ってば。
あ、なんかむーちゃんに『いーちゃんが死んだのは自業自得だから』って怒られそうな気がする。
『その結果が、探記時代の前期、【安寧期】だ。
英雄時代の後始末をこの五○○年でしていた事になっているが、この間に新しい術精霊が生まれてもいなければ、技術体系も一つしか生まれていない。
俺から言わせれば停滞期だな』
『辛辣だー』
『王族としては、耳が痛い話です』
希少人種である先生から霊人種に対する批判にしか聞こえない言葉に、さすがのお兄様も少し辛そうな顔をしつつ、苦笑する。
『別に王族や霊人種を責めている訳ではないが。
これは世界全体が戦争のあとの平和、安寧を求めた結果だ。時勢には逆らえんよ』
そんなお兄様にフォローを入れる先生。出来る上司ですかあなた!
『それで、安寧期の最後に精霊破局が起こったんですか?』
『そうだ。精霊破局は安寧期に育った霊人種の驕りや慢心を砕いていった。
術精霊作成技術や精霊契約術が形骸化していたのも原因だな。
術精霊に覚えさせていない技術の大半は失われ、術に頼りきりだった文明も崩壊しかけたんだ。
その後、文明が恢復するまでに一世代掛かったという話もある』
『ひえー。やっぱり怖いですね、精霊破局』
『そのお陰で人々は技術進歩に邁進したってのも皮肉だがな』
生活の基盤が崩れて、精霊にずっと頼れなくなったから、なりふり構ってられなくなったんだろうね。
私って生活能力皆無だから、前世で全自動洗濯折り畳み機がなかったら生きていける自信ないもん。
当時の人々の苦労が忍ばれるよ。ほんと。
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