幕間・王竜会議にて



「——では、千年期、八回目の【王竜会議】を始める」


 凜とした女性の声が白い部屋に響く。


 窓もなく、明かりもない部屋だが、壁と天井自体が白く発光しているのか、暗くはなかった。

 部屋の真ん中には、黒い石で作られた円卓があり、円卓から上座となる場所に議長席があった。

 円卓には六人、議長席には一人座っている。


 議長席から見て右手から、

 

 頭の左側に白い角が生えた男、【竜国】の王。


 顔の右側が石の仮面に覆われた男、【石国】の王。


 緑の髪に耳が少しとがった男、【木国】の王。


 獣の耳にとがった犬歯を持つ女、【牙国】の女王。


 胸元から紫蛇の鱗に覆われた女、【鱗国】の女王。


 背中から羽毛を持つ翼が見える男、【翼国】の王。


 議長席には、赤い髪を持つ女性の姿をした、これらの国を諫める【樹守の竜】。


 王竜会議とは、島々を治める六つの国の王と、樹守の竜が一堂に会し、世界の諸問題について話し合う、この世界での最高決定会議だ。


「子らよ、【大地】と【神霊樹】から命を賜る王としての責務を全うするがよい」


 樹守の竜が会議の始まりを告げる。


「では、私から」


 木国の王が手を上げる。清廉な顔つきは語り部である【樹の民】の血を受け継いでいる証だ。


「娘が……産まれました!」


 木国の王が声を上げた瞬間、王達から大喝采の拍手が踊った。


「やったじゃねぇか!」

「よろこばしいことですね。命の誕生はいつも素晴らしい」

「近いうちに連れてこいよ! 息子達も喜ぶぜ!」

「今度、聖蛇様の鱗を贈るわぁ」

「では僕は、よい布団を、贈ろう」


 全王からの祝辞を受ける木国の王。


「いやほんと、うちの娘マジかわいい。

 話しかけたらいつもにっこり笑うし、将来美人になるわ。

 それに声をかけたら、あーあーって言って話しかけてくるようでさ。

 すっごい賢いんだよ。天才じゃなかろうか。

 だってまだ三節経ってないのに、ハイハイもするんだせ?」


 そして全力でのろけ出す木国の王。他の王は「親バカだなぁ」と生暖かい笑顔だ。


「木国の王よ、王女の生誕報告ならあとで聴こう。話は以上か?」

「おっと、すまない。娘可愛さにどうにかしてたようだ」


 見かねた樹守の竜の御言葉にはっとした木国の王は、にやけた顔と声に緊張感を取り戻す。


「実は、産まれた娘なんだが……両耳と額に【神霊石】が付いていた」


 白い部屋に、緊張が走る。


「おい、それって……まさか、【古き樹の民】か? だったら、その子は」

 竜国の王が声を上げる。


「ああ、恐らく、最後の【千年の子】だ」

 顔の前に手を組んだまま、木国の王の顔は影を落とし、優れない。


「ついに、出揃ったということですね」

 石国の王はどうしたものかと溜め息を漏らす。


「他の『千年の子』の捜索状況は?」

 樹守の竜が王達に問いかける。


「中枢島は大分終わったんだけどねー、それ以外の島、特に【枝の外郭】から先は難しいわ」

 牙国の女王は肩をすくめた。


「そうねぇ。枝の下はともかく、【霊樹の加護】がない場所へは兵を出すのはねぇ」

 鱗国の女王も目を伏せる。命を預かる王として、慎重になるのは当然のことだ。


「枝の外での捜索は【冒険者】や【探測者】に任せるしかないだろう。クエストへの報奨金を上げるしかない」

「このための千年基金だしねぇ」

「なんにせよ、木国の王家に、最後の子が、生まれたのは、奇跡としか、言い様がない」

「だよなぁ……これで一人目、か」 

 王達が『千年の子』について言葉を交わしていく。


「あ、あと、知っているなら教えて欲しい」

 そんな中、木国の王は王達に尋ねた。


「白い神霊石って、何の【徴術】ができるんだ?」

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