側近のひとりごと2

側近、指輪を作る


 ルリ様がいなくなった。


 ある日の朝、ルリ様の部屋へ行ったポポリが「ルリ様がいない……!」と食堂へ駈け込んできたのだ。


 うそだ、早すぎる――――。

 オレはぞわりとする胸を押さえて、デブラとルリ様の部屋へ走った。

 ベッドは空で、使われていたらしい上掛けのしわを見て、胸がぎゅうと痛かった。


 王はいつも朝にいなくなる。

 前の王も、前の前の王も、朝オレが部屋へ来たらいなかったんだ。

 三回目だけど、全然慣れない。全然慣れないよ、ルリ様!


 ただ、いつもと違うところもあった。

 それはベッドの前で動けないで立っていたオレたちと同じように、枕の横でアルマンディン様がピクリともせず座っていたことだ。


 いつもは、王がいなくなった時に、アルマンディン様もいなくなっていた。なのに、今回はアルマンディン様は残っていたんだ。


「……アルマンディン様、ルリ様はどこにいるだすか……?」


 デブラの言葉に、アルマンディン様はやっとこっちを見た。


「……王の気配がない……しるべはボクを……どうして……」


 なにかつぶやいた後、首を振った。


「わからない」


「もしかしたら……ルリ様はまだ王なのかも」


「その可能性はあるだすな。しるべ様が俺っちたちを試しているのかもしれないだっす。作戦会議を開くだっす!」


 ベッドの横の小さなテーブルには、いつもルリ様がつけていた髪飾りがぽつんと置いてあった。

 オレがプレゼントした髪飾り。ルリ様の名前のキレイな石。手に取って、ぎゅっと抱えた。なんか胸が、苦しい。


 ――――そうだ、ルリ様と約束したんだ。絶対に迎えにいくって。ぼーっと立っている場合じゃない。


 オレはアルマンディン様も抱えて、歩き出した。






 がっくりと座り込んでいたポポリを休ませて、タクミ様を呼んで、オレたちは側近控室で作戦会議を開いていた。


「「指輪?」」


 途中で思い出してそう言うと、デブラとタクミ様が変な顔をしている。

 うん、指輪。指輪作ってほしいんだけど。


「ルリ様を迎えにいくから、えっとプラチナで、アップルで、お丸でダイヤが入っているのがいいってルリ様が言ってたから」


 ルリ様のための指輪。け、結婚指輪って……。はぅー、けけ結婚……。


「内側に、二人の……なんだっけ。い……イフリート? インゴット? 入れるって」


「なんのことだかさっぱりわからないだっす」


「――ええと、ようするに、ミソルさんはルリさんを迎えにいくのに、指輪を持って行きたいってことですね? で、それがプラチナにダイヤの指輪で……アップルとお丸がわからないな……。デザインかな? 内側に入れるのは、多分、イニシャルとかだと思うんだけど」


「それです! タクミ様、すごいですー!」


「……あ、うん、ありがとう……。内側にイニシャルって、もしかして、結婚指輪……?」


 !!

 タクミ様にバレてしまいました!


「あ、えっとー、そのー……ハイ……」


「……ふうん……。ルリさん、案外乙女な趣味だな……」


 少し不機嫌そうだけど、オレとしては引くわけにはいかない。迎えにいった時にルリ様を喜ばせたいんだ。オレはぺこりと頭を下げた。


「指輪、作ってください! お金はいっぱいあります!」


 デブラはぴっと親指を立て、ニヤッと笑った。


「わかっただっす。お金は地金代だけ頼むだっす。俺っちが指輪を作って、タクミ様が箱を作るだすね? デザインもタクミ様にお願いするだすかね」


「いいよ。指輪のデザインと指輪ケースね。……ちょっとシャクだけど、ルリさんのためだしな……」


 よかった! ルリ様喜んでくれるかな?!


 その後は、麓の町まで見回りに行った。アルマンディン様もいっしょに。もしかしたら、ルリ様がいるかもしれないし、何か手掛かりがあるかもって。


 あと、ダンジョンにも行った。

 王がいなくなると閉じてしまう地下国からの出入り口は、今も開いていた。

 ということは、王は今もいるってことで、ルリ様が王ってことだよね。


 ルリ様、ルリ様、どうやって迎えにいこう。

 どんなに遠くても歩いて行けるなら、たどり着けるのに。

 ルリ様、会いたいです。




 夜は作戦通り、タクミ様の部屋で寝た。

 抱っこして寝ようと思ったのに、絶対にイヤだって言うから、アルマンディン様だけ抱っこした。タクミ様とは、ひもでオレの足とタクミ様の足を結んで繋げておく。

 でも、ちょっと心配だ。やっぱりタクミ様が寝ちゃったら抱っこしよう……。あ……眠くなってきた……先に寝ないようにしないと……。


 ルリ様……絶対に迎えにいきます……。待っててください…………むにゃむにゃ…………。










 * * * * *


 次回、最終話。 月末までに更新します!




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