王、全力で逃げる


「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


 ああああああああ!!!!!!


「待って……! ルリ様ーーーー!!」


 頭真っ白になって全力疾走で逃げたあたしは、曲がってきた通路の入り口まで戻ったところで、正気に返った。

 後から追いかけてきたミソルの腕を掴んで揺らす。


「ム、ムシ! ダンゴムシいたよ?! でかいやつ!」


 手が震える。その手をミソルがぎゅっと押さえた。


「大丈夫です、ルリ様。こっちには来ないです」


『王、大丈夫。あれは虫じゃないよ』


「え、ムシじゃない……?」


『あれは、アースドラゴンだよ』


 は……? いやいやいや、どうみてもダンゴムシだったよ!


「……ミソル。ディンが、アースドラゴンとか言ってるんだけど……」


 ミソルは目を丸くした。


「あれがアースドラゴンなんですか。たしかにダンゴムシにしては大きいなと思いました」


 にっこり。

 のんきな答えに、気が抜けました……。

 ええ? だってダンゴムシだったよ。まぁちょっとダンゴムシにしては長いかなぁとかうしろの方がしっぽみたいだったような気もしないでもないけど……。


 あれがアースドラゴンだったとして、なんであんなところにいるんだろう。


『……本当のところはわからないけど、五百年前の魔物かもしれない』


 ……ええ……?


『魔物はさ、殺さない限り死なないからね』


 そういえば魔物は魔王の作った人形って言ってた。だから、普通の生き物のように食べるものがなくなれば死ぬとかがないってことなのか。


「魔王って、五百年生きてるの?」


『さすがにそれはないと思うよ』


「魔族はオレたちと同じくらい生きると聞いてます」


「あれが五百年生きているなら、魔物を作った魔王が死んでも魔物は死なないってことか」


『そうさ。還元するマスターがいなくなればもっと元気になる。動くために少しFPファイトポイントや魔力を必要とするけどね。あのアースドラゴンはきっと結界に込められた魔力を吸っていたんだよ』


 うぁぁああ、気持ち悪い!!!

 あたしが使った魔力を吸われてるの?!

 そしてまた結界が劣化してくるってことかぁ……。


「……あそこに戻る……」


「大丈夫ですか……?」


「……あんまり見ないように薄目開けて行くよ」


「オレが連れて行きますから、目をつぶっていてもいいですよ」


 今は抱っこもおんぶもナシ!

 あたしは薄目を開けて、ミソルの腕を掴みながらまた結封印の結界までの通路を戻っていた。


 さっきと同じく透明になったままの土界の向こうに、ボヤボヤーっと大きいものが見えていた。よく見えないのはまつげでセルフモザイクかけているからだけど。


「ミソル、ごめんね。あとよろしく」


「ルリ様……?」


 すっごいイヤだけどその近くの壁に手を当てた。

 ガサリとした感触と大きい姿が思い浮かぶ。


 あああああ、もう! ホント、ムシはだいっキライだぁ!!!!!!!!


 あたしはありったけの魔力をトンネルの空間に叩き込んだ。






 パチ。と目を開ければ、見慣れた天井が目に入った。

 あー……まぁそうだよね。倒れる前提で魔力使ったもんね……。

 すごく寝たような気がする。


 横を向けばディンが丸まって寝ていた。起き上がれば、ベッドの下でミソルが丸まっている。

 ?! いちおう、女子の部屋なんですけど?!


「ルリ様、おはようございます」


 テーブルセットで作業をしていたらしいポポリが顔を上げた。


「お体はいかがですか?」


「……うん、特におかしいところはないっぽい。今、何時くらいかな?」


「もうすぐいつもの起床の時間ですわ」


 おぅ……二十時間近く寝たのか。

 そのおかげか妙にすっきりとしていた。


「ルリ様、私が夜の守り番につくまでは、統治管理室のイーミアがいてくれたんですよ。ミソルがお願いしたらしいですわ」


「え、そうなんだ。今度お礼しないと」


「やはりあと一人侍女が必要ですよね」


「……うう、ごめん。今回みたいなことはないようにする。なるべく魔力を使い切るのは夜にするよ。だから、そんなにあたしの周りに人を割かなくていいからね」


 ポポリはそれを聞いて苦笑した。

 側近二人に侍女二人とか、贅沢過ぎるでしょ!

 男の王だったら側近が二人つくだけって聞いたよ。だから、今のままで大丈夫なように努力します!


 顔洗ってさっぱりしてこよう。ミソルを起こさないようによけて通り、着替えを用意して「お風呂入って来るね」と部屋を出た。




 目を覚ましたミソルとデブラと朝食時に合流してから、昨日のその後の話を聞いた。


「ルリ様が土界をトンネルに作ったのですけど、そちらは透明ではなかったので中がどうなっているかはわからないです」


「アレ、どうなったと思う? 死んだかな?」


 肩の上にうとうとしながら乗っていたディンが、


「……たぶんね。大丈夫だと思うよ……」


 と答える。

 気になるけど、まだ生きてたらヤだから、もうちょっとしたら見に行こう……。


「オレたち側近や掘り族は、土界に取り残されたら死ぬから、よっぽどのことがない限り王について行ってはいけないときつく言われています。だから、あのアースドラゴンも生きてはいられないと思います」


「そうだっすな。それにしてもアースドラゴンがそんなすぐ近くにいただすか。どんな核を使っているだすかね。ルリ様のダンジョンモンスターでも作れるんではないだすか?」


 なるほど、その核を使えばうちのダンジョンでも作りだせるのか。

 でも、アレはダメダメ。却下。ムシなんていたらゼッタイに行かないもん。

 あたしはぶんぶんと無言で頭を振った。





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