王、再度挑戦

「ルリ様ー」


 遠くから声が聞こえる。あたしは土界からアースドラゴン型のトンネルにひょいと出た。うん、よしよし。間に合った。

 トンネルの中の土界拡張計画は順調に進んでいる。あとはバレないようにしないとね。


「ルリ様ー、こちらですかー?」


 ミソルが掘ったトンネルから妙に響いた声が聞こえる。

 狭い空間で音が反響してるのかなと何気なく思った。音は空気の振動によって聞こえるんだよな。と。


 ……そうだ。音は空気や水でできた振動を伝える場がないと、届かないってことだ――――!


 首から下げているペンダントトップを握りしめる。

 デブラと試していたあの時、意味をなさない音は聞こえていた。あれは例えば、出口をふさがれたメガホンのようなものだったかも……。あとは出口としての空気の場を作れば通信できるんじゃ?!


 ピコーン! とひらめいたあたしは走り出して、トンネルから出てきたミソルとぶつかりそうになった。


「ルリ様?」


「戻るよ! 作らなきゃ!」


「え? 何をですか? 夕食の時間ですって知らせに……あー! ルリ様ー! 待ってくださいー!」


 作らなきゃ! 作らなきゃ! 通信できそうな気がする!!


 慌てて王居住区に戻ったものの、夕食です! と侍女側近に怒られて作業場入りを断念させられました……。王ってあんまし偉くない……。




 円すい円すい……小さい円すいの型になるようなものってあるっけ……?

 指輪のサイズ直しの棒があれば使えそうなのになぁ。指輪を作らない地下国にはないし。あ、コッフェリアの「ノームの知恵」に行って借りようか。

 ぼーっと考え事しながら、夕食のポテトグラタンを口にした。


「ぁ……あづ……!」


「ルリ様、グラタンは熱いですから、フーフーしないとだめですよ」


 あたしは子どもか!


「ルリ様はなんか考えごとしてるだすな。どうかしただすか?」


「ぁぅ……えんふい……円すいの型がないかなーって。指くらいの大きさになるやつ」


「金属製のランス[刃無し槍]の型ならあるだすが、ちょっと大きいだすかね」


「ああ、ランスって鋳造ちゅうぞうで作るんだ」


「そうだすな。スピア[槍]だすとの刃の部分は叩いて鍛造たんぞうで作るだすが、ランスは溶かした金属を型に流して鋳造で作るだっす」


「ランスかぁ……」


 先がとんがっているだけの槍。ものにもよるけど、先の方は鉛筆みたいになってるよね……?


「それだ!」


 よし! 食べて作ろう!

 あたしは急いでポテトグラタンを口に運んだ。


「……あづぅぅ……!」


 気もそぞろで全く学習しないあたしは、側近たちからかわいそうな子を見る目で見られました……。


「……ルリ様。オレがフーフーしましょうか?」


 ごめんなさい! もうごはんの時は違うこと考えません!




 夕食後、ディンを肩に乗せていそいそと作業場へ向かった。後ろには武器庫からランスを取り出してきたミソルがいる。


「ミソルありがとう。それ作業場に置いたら、帰って休んでいいよ」


「大丈夫です。ルリ様の作業を見たいです」


「……いいけどさー、仕事じゃない時間はちゃんと帰って休んだらいいと思うんだよね。デブラも帰ってるんだし」


「ルリ様、デブラはいつも作り族の作業場へ行ってるんですよ」


「え、家に帰ってないの?!」


「はい。作らないと腕が鈍るって言ってました。ルリ様を見ていると作り族の血が騒ぐらしいです」


 なんと働き過ぎな地下国の住人達よ……! ワーカホリックなの?! 日本人も真っ青だよ!


「仕事じゃなくて、好きなことをやっているだけです。オレもこのあとはすぐそこで寝るだけですから」


「……すぐそこ……?」


 まさか毎日通路で寝てるわけじゃないよね……? と聞けば、指さしたのは作業場の前で食堂のとなりの側近控室。


「布団もありますし、小さいけど湯浴み場もあるんですよ」


 ミソルはニコニコと答えた。

 マジか……!

 出入り口に扉もないとこで寝てるんか!

 もうそれって寝てる間も仕事しているようなものじゃ……?


 初めて知る衝撃の事実の連続に、あたしは動揺しながらもミスリルをに入れて炉にかけた。

 ディンが身を乗り出して見ている。ディンは作業見るの好きだよね。あたしとしては炉に落ちないでよって心配なんだけど。


 素材はやっぱりミスリル。魔法っぽいもの作るならミスリルで作っておけばだいたい間違いない。

 魔法と金属は相性が悪いと言われている唯一の例外がミスリルって、ファンタジーにはよく書かれてるもんね。


 溶けてひとまとまりになった銀色の地金を金床に置き、叩いて薄く冷えたらバーナーで熱くしてまた叩いて、薄くひらたくひらたく扇形にしていく。

 で、ここでランス。ランスを作る型の方じゃなく、武器そのもののランスの先にひらたくした扇形のミスリルの板を叩いて沿わしていった。


 ちっちゃい金属の三角帽子(切れ目あり)ができたので、これをこの間作ったペンダントトップにロウ付けする。

 模様の入ってない裏面に親指くらいの三角帽子をぴたっと張り付けると、デザイン的にはビミョーになった。もう一つ作って、ミソルのペンダントトップも改造してしまう。


「これでどうかな。鑑定!」


【魔道具:ノームの王の通信具|ランク:A】

 防御力 5

 *言霊のお使い

 *精霊のささやき

 *ノームの守護

 *魔法防御力強化 レベル4

 *魔法攻撃力強化 レベル3

 〇材質:ミスリル(極上) 〇材質:水晶(極上) 〇価値:高

 ※ノームの王が手ずから作り上げた品

  離れた相手に言葉を伝えることができる。


 おお?! これはいいんじゃない?!


「ちょっとこっち持ってて!」


 ミソルに一つ渡して、あたしは部屋の外へ飛び出した。


 どうかどうか! 成功していますようにー!!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る