王、作業部屋に入り浸る
作り族の作業部屋に入り浸るのもどうかと思うんだけど、今日も元気に入り浸ってまーす!
午前中はダンジョンの見回りをして、午後は作り族の作業部屋。
午前中は資料室で本を読み、午後は作り族の作業部屋。
午後の定位置になりつつあるな。
側近たちと約束していたブレスレットは、もう作った。
紐の端が邪魔にならないように細めの紐を四つ編みで作ったら、ミソルもデブラも喜んだけどあたし的にはちょっと物足りない出来だった。男子の腕にはちょっと
侍女たちにも作った。
細く柔らかい革紐で平結びにして作ったの長いブレスレットで、巻いて三連にしてつける感じ。
留め具は作り族が作った飾りボタンを使わせてもらった。
平結びは中二本を芯にして、左右から真ん中の芯を結んで左右に出してを繰り返していくという作り方。
これ、麻紐や刺繡糸で色を変えて作るとまたおもしろいんだよね。
左右の耳みたいな所にメタルビーズを入れると、レースっぽくなったり民族調になったりする。
最初に作ったの、小学生の時だったっけ。簡単なのに凝ると本格的なアクセサリーになるのが、紐を編んだり組んだりするハンドクラフトの魅力だと思う。
ちなみに側近たちに作ったものも、侍女たちに作ったものも、ちょっとだけ護身力のあるランクBのものだった。
守り大事、安全第一よ。
そろそろ勇者パーティもちょっと強くなってきたところで、宝箱に装備を入れたいなーと、あたしは今日も革細工のスペースにいた。
「ルリ様! ……いや、もう様なんてつけないわよっ! ルリ! アンタ、あたしの革をどんだけ使う気なのよ?! 革紐だけならともかく、革にまで手を出して!!」
「ええと……ちょっとだけ?」
てへっ。と笑っても、ドレンチの顔は全く変わらなかった。まつげパッチリのおめめを見開いてブルブルしている。
「だって、ここの革、裏がすごくキレイに磨いてあって使いやすそうだし」
「そりゃぁ、そこの専門の職人が丹精込めて磨いてるんだから」
ちらりと見ると、聞こえたていたのかニコニコとしたおじさんドワーフがこっちを見ている。
「裏キレイですね、これブレスレットにしたら素敵ですね。って言ったら、好きなだけ使っていいよって」
「コラ! 何勝手に使わせてるのよ!!」
くるりと振り向いたドレンチが怒るけど、おじさんドワーフは磨きに使うガラス板を手にして、ニコニコしたままだ。
「ドレンチ様、まだいくらでも磨いてやっから、その嬢ちゃんに使わせてやんなよ」
「ルリ! アンタ、うちの職人たぶらかして悪いオンナね!!」
ニマニマしながら革置き場の前にいると、ドレンチはとうとうあきらめてため息をついた。
「……もう、ほんっとしょうがない王ね……そこの、ハギレのところのは好きに使っていいわよ。大きいのが欲しい時はいいなさいよ」
「やったー! ドレンチすてき! ありがとうー!」
「まったく、調子がいいんだから」
ハギレ入れには、ハギレと言ってしまうには立派な大きさの革が何種類も入っていた。
このケバケバして柔らかいのは、スエードね。豚サン。
あとは、なんだろ。この柔らかいのは鹿かな。印伝の革に似ているような気がする。
「これは鹿。そっちのは、牛よ。その向こうのも牛。
「オイルレザーの方が柔らかくてしっかりしている気がする」
「そうね。柔軟性があるわね。水にも強くなるし扱いやすいわよ」
なるほどー!
いつも何も考えずにその場にある革を使って作ってたけど、ちゃんと種類と加工を考えて使った方がいいんだね。
ブレスレットだと水にぬれたりしそうだから、オイルレザーにしようかな。
「ルリ様、ジャンパーホック持ってきただっす。金と銀とあるっだすよ」
お供で来ていたデブラが、パチンと留める金具を持ってきてくれた。
ふうん、シンプルね。作り族、デザイン的にはシンプル好きなんだろうな。革も染めたりしないし。
デブラの手首を借りて長さを測る。編んで短くなる一割分をプラスした長さにして、幅は12ミリで革を切る。地下世界もメートル法でよかった。
12ミリを4ミリずつの幅で二本切れ目を入れ、三本の革ひもを間に作るようにして、左右を5センチずつは切らずに残しておく。
この後の作業は、革の切り口の処理。ちょっとしたことで耐久性とか触り心地とかが変わるんだよね。
革の四つ角を丸く落として、切り口もヘリ落としで角を落としていく。
断面にクリームを塗って、木の棒で磨いて。
そんなことをしていると、横で見ていたドレンチがため息まじりに言った。
「……そういう所、ちゃんとやるのはいいわね。だから、つい甘い顔しちゃうのよねぇ……。ああ、ニクイわっ」
「あはは……」
「時々、いるのよぉ。革好きな王。そして大量に革を消費していくの。男の王ばかりだったから油断してたけど、まさか女の王でもいるとは夢にも思わなかったわよ」
もう笑ってごまかす以外にないな。
「あ、女の王も結構いたの?」
「少ないけどいたわよ。あたしが知ってる限りで二人いたかしら」
地下と関わりがあるのって男の人の方が多いんだ。
仕事的に関わっていそうなのは、確かに男の人の方が多そう。畑とか土木関係とか。
「前の王たちって、どのくらいでいなくなっていたの?」
「そうねぇ……バラバラかしら。半年でいなくなった王もいれば、10年くらいいた王もいたわね」
「ホントにバラバラなんだね」
平均で5年くらいな感じかな。
おとこの人の方が多いとして例えば、男五人、女二人、5年ずつで計算すると三十五年。少なく見積もって三十五年ということは、ドレンチっていくつなんだろ。三十くらいに見えるのに。
「こっちの世界って、年齢聞いたら失礼だったりする?」
「そんなことないわよ。なぁに、アタシの年?」
こくこくとうなずくと、ドレンチはちょっと得意気な顔をした。
「アタシは六九歳よ。脂がのったいい頃合いでしょ?」
……あ?
えええええぇぇ?! 六九歳?!
「待って待って! デブラは……?!」
「俺っちは三一だっす。まだまだヒゲも生えないひよっこってやつだすな」
「そぉなのっ?! えええええ?! 獣人族の人たちもそんな感じ?!」
「そんな感じがどんな感じか分からないけど、普通にアタシたちと同じだけど?寿命も同じくらいよ」
ぉぅ……今まで何の疑問も持たなかったけど、こんな種族間の溝があったとは……。
デブラはお兄さんでドレンチはおじい……。
「人族は成長が早いのよぅ。アタシたちの倍の速さで成長するから寿命も短いし。もっとゆっくり生きればいいのにねぇ」
倍の速度で成長ってことは、人族換算でデブラは十五歳、ドレンチは三四歳ってことだ。これならすっきりする。いや、でもびっくりだわ!
ゆっくり生きる。かぁ。
せわしない日本の生活を思い出す。
のんきに見えたって、勉強はがっつりやってた。学校行って勉強してが生活の大半で。新学期からは受験生だし、部活も引退して息抜きのハンクラ時間も減るだろう。
それに対して、何の疑問も持ってなかったんだけどねぇ……。
ちょっとぼんやりしてしまったあたしの頭を、ドレンチはポンポンと軽くはたいた。
「こっちでゆっくりしていけばいいわよ。いずれ帰っちゃうんでしょうけど、それまでのんびり王やってなさいな。王たちは働きすぎよねぇ? デブラ?」
「そうだっす。ルリ様も働きすぎだっす。たまにはお菓子食べてゴロゴロするのがいいだすよ」
ふくふくしたデブラがお菓子とか言うの似合いすぎです。
平均、5年。
漠然と考えていたより、短かった。
王の仕事でみっちり働いていたら、あっという間に過ぎてしまいそう。
せっかくこんな所に来たんだし、いろいろ見ておきたい。お菓子もいろいろ味わっていこう。街も遊びに行こう。
いつ帰れるか分かんないんだから、受験も勉強も一旦休み。帰ってから考える。
第一、時間の流れが同じかどうかも分かんないんだから、それはもう、考えるだけムダってもんよ。
気になっちゃうけど、気にしないようにする。
さぁ、とりあえず、革のブレスレットを作ろう。
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