王、鈍感なりに

 革の端もきれいになったところで、革を編んでいく。

 今日作ろうと思っているブレスレットはちょっと変わっているやつ。


 革紐を組んで作ると端の処理が結ぶとか留めるとか悩ましいから、一枚の革の中に切れ目を入れて端はつながったまま作るもの。

 端がつながったまま三つ編みとかちょっと不思議で、だからマジック編みとかトリック編みとか呼ばれてるんだよね。


 まず、右から真ん中に、左から真ん中に、右から真ん中に。

 紐を三回交差させて、右に一本左に二本になっているその間に、つながったままねじれている革の下側を、手前から奥へくるんと一回返す。


 次に、左から真ん中に、右から真ん中に、左から真ん中に。

 三回交差させて、左に一本、右に二本になっている間に、下側をくるんと返す。

 これで、下側に出来ていたねじれがなくなる。


 これを一セットにして、好みのキツさまで編んでいき、最後に目が均等になるようにゆるめて揃えて出来上がり。

 最初にキツく編むのがポイント。その方が、最後の方で編みやすいんだよね。


 横で見ていたドレンチとデブラが、不思議さに感心している。


「それで本当に編めるのね。不思議ねぇ」


「不思議だすなぁ。すっきりしたいいデザインだっす」


「これで五つ編みも出来るんだよ。やったことないけど、七つ編みも出来るらしいよ」


 腕に合わせて左右の端に穴を開け、パチっと留めるジャンパーホックをコンコンコンと打ち棒と木づちで叩いて付けて出来上がり。


「鑑定」


【魔道具:ノームの王の腕輪|ランク:B】

 防御力 10

 *清風の使い手

 *ノームの守護

 *魔法攻撃力強化 レベル2

 *魔法防御力強化 レベル2

 *敏捷性上昇 レベル2



 ふうん、Bランクか。


「アタシ鑑定ないから分からないけど、どんな感じ?」


 見えたものを紙に書くと、ドレンチがランクの決められ方を教えてくれた。

 魔道具のランクというのは、物の価値ではなく、付加効果の盛り具合で変わってくるのだそうだ。

 特殊効果は一つ20ptポイントで、これの場合は「清風の使い手」「ノームの守護」の二つ。あとは一般効果のレベルを数字通りに足して、合計46ptになる。ちなみに召喚などの珍しい効果は1レベルに対して10ptつくそうだ。

 40ptから59ptまでがBランクとなるらしい。AAAは100pt以上だって。


「ちょっと革で作っただけでBランクの物になるって、アンタの手どうなってんの?」


 どうなってるんでしょうねぇ。

 デブラの腕に付けてもう一度鑑定。


【道具:革の腕輪|ランク:E】


 やっぱりこうなるんだ。

 あたしの指輪もはめるとこんな感じになる。

 どうもノームの守護っていう効果は、身に付けると付加効果を隠すみたい。

 ノームは宝を隠し持つものってことかな。

 あたしの指輪とか、外で効果見られるとマズイもん。よく出来た効果だよ。


「清風の使い手ってなんだろ」


「わからないわね。今度安全な広いところで使ってみなさいよ。だいたいその効果名を言えば使えることが多いから」


「わかった。じゃ、それはデブラにあげる。今度試してみて」


「いいだっすか?! 喜んで試すだすよ!!」


 ひゃっほーとデブラが小躍りしている。


 効果がどう変わるのか知りたくて、あと二枚革を準備した。

 五本編み用と七本編み用。

 片方はミソルにあげよう。別名試してもらうとも言うけど。

 すっかりひざの上というか太ももの上で寝てしまっているディンをすくい上げる。

 サイズが分からないと、ジャンパーホック付ける場所が決まらないので、道具を借りてあたしたちは居住区へ戻ることにした。




 夜ごはんも食べて、武器庫横の作業場にしているフリースペースで、革と道具を開げていた。

 ジャンパーホックの金具が気になるのか、ディンがいじってあっちにやったりこっちにやったりしている。

 あたしはミソルの手首回りに革を巻きつけて、革の長さを確認した。これが一割短くなるから……うん、間に合いそう。


「側近の仕事の時間終わっているのに、ごめんね」


「あ、オレは、ルリ様といられてうれしいです」


 はぅ……っ……。

 ミソルってそういうの平気で言う。ホント油断ならない。ドキっ!! ってなっちゃうんだけど!

 顔は見れないけど、目の隅に入ってくるミソルのしっぽはくねくねしている。

 あれ、もしかして、言った本人も照れてる?


 マジック編みで五つ編みをしていく。一番外側から真ん中に、逆の外側を真ん中にを五回繰り返して、下の革をくるりん。同じことをもう一回やると革のねじれがなくなって、一セットになる。


「……あ、そうだ。昼にデブラの年を聞いたんだけど、ミソルも三十歳くらい?もうちょっと上?」


「三二歳です。ルリ様も同じくらいですよね」


「うーん、倍にすれば三四歳だけど、ホントは十七歳だからね」


「ああ、そうだった。成長が早いんですよね。生まれてからまだ十七年なのに、ルリ様はいろいろ出来てすごいです」


「あたしはゆっくり成長出来るミソルたちがうらやましいかな」


「そういえば、前の前の王が、地下世界にいると年を取るのがゆっくりな気がするって言ってました。ルリ様も、もしかしたらゆっくりかもしれないですよ……だから、あの、ずっと……」


 え。加齢というか老化の速度が変わるってこと?これ、日本に帰ったら、浦島太郎状態になる事案?

 倍くらいならそんなに大変なことにならない……かな。

 でも、帰ったら弟の琥珀の方がおっちゃんになってたらどうするよ……ええええ?

 あー、イカンー!! 気にしないようにしようと思ったけど、こういうの聞くとやっぱり気になっちゃうよ!

 はあ……と息をついて目を上げると、ディンとミソルがこっちを見ていた。


「え、な、なに?」


「……王は聞いてなかったみたいだね」


「そうみたいです……」


「あ、ごめん、ちょっとびっくりして、聞いてなかったかも……? 何か言った?」


「いえ……あの、なんでもないです……」


 ミソルの様子はなんでもないっていう感じじゃない。顔は赤いし、しっぽとイタチ耳はしんなりしてる。


「えっと、ミソル、五つ編みのと七つ編みのとどっちがいい? どっちも同じ長さだから、好きな方いいよ」


 どちらのブレスレットもミソルの腕に合わせ、金具の位置を決めて取り付けた。


 残った方は宝箱行きね。

 鑑定してみると三つ編みとほとんど同じ付加効果で、特殊効果の「清風の使い手」がそれぞれ「突風の使い手」と「荒風の使い手」となっていた。

 どっちも物騒な気配。


「……ありがとうございます、ルリ様! 五つ編みの方でお願いします!」


 あ、笑った。

 よかった。

 あたしは五つ編みのブレスレットを、ミソルの左手につけてあげた。

 赤い顔のまますごくうれしそうな顔をするから、あたしも笑ってしまった。


 キミが笑っていると、うれしい。

 なんか、うれしい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る