王・ルリの地下日誌3

王、ダンジョンのナゾに迫る(1)

 ミソルと買い物に行き、夜ごはんを食べて王居住区へ戻ってきたら、なんとフリースペースに炉が出来てた!

 金床が二種とバーナーまで設置されていて、道具・材料も各種揃っている!


 そっか、これのために夜ごはんまで外で食べることになってたんだ。

 ミソルが外に連れ出して、デブラが設置作業して。

 二人とも帰っちゃっていてお礼も言えないんだけど……うちの側近たち、ちょっと可愛いすぎませんか。


 じゃ、とりあえずどんな感じか使ってみようか!

 その場で作り始めようとしたら、ポポリにお風呂に放り込まれてしまった。


「ルリ様? もう遅いんですから、早く寝てくださいませ?」


「……はい……」


 服を脱ごうとして、腕にかけっぱなしのサークレットを脱衣かごに置いた。

 ディンは相変わらず無言を貫いている。

 人でいうところの、殻にこもっているってやつなのかな。


「……明日の午後にはラクのとこに話聞きに行くよ?」


 そう言ったけど、結局この日は最後までディンの姿が変わることはなかった。






 朝食の時に側近の二人にお礼を言うと、うれしそうにテレていた。後ろでニヤニヤしているところを見ると、ミソル父で料理長のロイソルも一枚かんでいるみたい。


「作り族からのプレゼントだっす。こんなに作るのが好きな王は珍しいって、みんなルリ様を同族だと思っているだすよ」


 うん。あたしも人の中にいるより、ドワーフの中にいる方がしっくりくると思ってた!


 ミソルもテレているみたいで、「いえ、そんな……」としっぽをくねくねさせている。

 いつもの「似合いますー」とかもなくて、逆にこちらもテレてしまうんだけど。


 後頭部の上の方に留まっているバレッタは、昨日ミソルがプレゼントしてくれたものだ。

 いいなと思って鑑定していたものだったから、ミソルがあれがいいって言った時はびっくりした。


 これ実は魔道具。


【魔道具:ドワーフの髪飾り|ランク:B】

 防御力 5

 *強運

 *ドワーフの目

 *物理防御力強化 レベル3


 なかなかの良いものなのよ。


 ミソルはそういうの知らずにさっと買ってプレゼントしてくれるとか、すごいよね。ナチュラルに物を見る目があるのか、野生のカンなのか。



 朝食の後はさっそくフリースペースへ。

 ……や、もうこれ作業場でしょ。王専用作業場。

 革などの作業が出来る大きなテーブルと、炉や金床の近くにロウ付けが出来る小さめの机。工具は壁につけられた棚に並んでいる。


 ああ、ステキすぎるー!!

 もう日本に帰らなくていいわー!!


 何作ろうかなー。たまにはペンダントトップとか作ってみようかな。

 サイズも選ばないし、曲線に曲げたりしない分早く作れる。宝箱用に作りやすいかも。


「デブラ、金とか銀の鎖ってあるのかな?」


「あるだすよ。持ってくるだすか?」


「やったぁ。お願いするー」


 金、銀、ミスリルそれぞれのトップを作ろうかな。

 お昼までの間、あたしはすっかり作業に没頭してしまったのだった。




 昼食を取ったら。

 そろそろタイムアウトですよ、ディンくん?


 サークレットを腕にかけて、側近を二人従えて、あたしは統治管理室に向かっていた。

 統治管理室は出入り口が二つあり、おさの机が近い方の扉を開けると、真正面にいたラクと目が合った。

 露骨にギクっとした顔をしていて、面白い。あ、しっぽも上がってる。

 遠慮なく入り、ラクの横に立った。


「聞きたいことがあるんですけど」


「な、なんだ」


「ダンジョンの外側に古い土界のようなものがあるんですけど、何か知りませんか」


 ラクは切れ長の細い目を見開いた。


「……それは、アルマンディン様に聞いた方が早いのではないか?」


「そうなんですけどね」


 そう言って、サークレットがかけられた腕を振る。


「どうも言いたくないみたいで」


 ラクは席を立ち、「こっちに」とすぐ近くにあった扉へ向かった。

 統治長の執務室らしい。

 ラクの後について中へ入ると、案外広く本棚がずらりと並ぶ中に机が一つあり、書斎のようになっていた。


 部屋へ入ってからしばらく、ラクは考え込んでいるように口を開かなかった。


「……外境結壁の外側に土界のようなものが見えると言ったか」


「はい。古そうな、色が違う土界がありました」


「……正直な話、私には土界の中が見えないから、それが何なのかは分からない。そして、そういったものがあるという話も聞いたことがない」


「……あたしの話がウソだと?」


「歴代の王からの報告もなければ、記録も残っていない」


「だから信じられないということですね」


「……そうではない……そうではないのだ……」


 ラクは目をつぶり指でこめかみを押さえていた。


「……大きさはどうだ。この部屋の天井よりも高いか?」


「もう少し高いかも。幅も同じくらい」


「……そうか……」


 机の引き出しから、ラクは地図を取り出した。


 北を上に描かれた地図の右上から左下にかけて長い山脈が連なっている。

 中央には地下国と書いてある山の絵があり、その北には狭い平地、さらに北には山地がある。

 そして山脈より上の北東にはコッフェリア王国、南西にはロイターム国が描かれている。

 山脈の南側には何の文字も書かれていない。


「……地下国前の平地がどこの国にも属さない、空白地帯なのは知っているな。だが、昔からそうだったわけではない。元々はコッフェリア王国の土地で、五百年ほど前の魔王との戦いがあった場所なのだ。王国は防衛線と国境を王都まで下げ、戦地となった土地を放棄した」


 あっ。と、あたしはあの童話を思い出した。

 もしかして、そのころはこの山のすぐ前のあたりに町があった……?

 あたしも側近二人も、じっとラクの話を聞いていた。


「その戦いに関する記録は地下国にはあまりない。なぜならばほとんど関わらなかったからだ。その時代、コッフェリア王国をはじめ人族が暮らす国々とは交流がなかった。人族の来ない山深いところに出入り口があり、ドワーフと地下に住まう獣人は山奥でひっそりと暮らしていたのだ」


「だから」と、一旦切って、ラクはあたしたちを見回した。


「魔王たちは山を越えて来たわけではないということだ。空白地帯は元々コッフェリア王国であり、山には私たちの祖先が暮らしていた。とすると、魔族の軍はどこから来たのか」


 まさか。

 南側に何も書いていない土地。その土地はもしかして……


「……私はずっと疑っていたのだ。この山にはそういったものがあるのではないかと」


 ラクはそこまで言って、サークレットを見た。


「アルマンディン様、トンネルがあるのではないですか? コッフェリア王国と魔族の戦いに使われたトンネルが」



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