王、ドキドキのダンジョン清掃(2)
ダンジョン入り口を思い出しつつそこへジャンプする感覚で、転移。
手足を動かすようにできてしまう。
こんなあやしいことに慣れつつあるのがコワイです!
境結璧から出ると、入り口からの光が差し込むダンジョン通路へ出た。
外は緑豊かで木が生い茂っている。入り口の手前部分だけがぽっかりと空いて、日が差し込んでいた。
やっぱりずっと地下にいると、日の光がちょっとうれしいと思ってしまう。
あたしはうーんと伸びをした。
のどかな気分でいると、奥の方からギャーギャーと鳴き声が聞こえくる。
「ルリ様、ルリ様、なんかゴブリンが埋まってますー」
カーブの奥からのんびりとした声が聞こえ、ミソルが歩いて来た。
「あ、それ昨日あたしがやったやつ」
「ルリ様、初日からすごいです! では、あれは殺っちゃっていいですか?」
無邪気に首を傾げながら、物騒なことを言う。
「あのまま放っておく訳には……いかないんだよね?」
「そうですねぇ。では、王のダンジョンに入り込んだ罪として辛い辛い朽ち果てるまで放置の罰を与えましょうか?」
「いやいやいやいや! そういうことじゃなくてね!」
魔物。
きっと悪いモノなのだろうけど、あたしはそれを身を持って知らない。なのに、すぐ殺せとかそういうのは、言いづらいものがある。
「ええと、魔物って悪い?」
「魔物自体は悪くはないです。あのゴブリンは王のダンジョンの中に入り込んだので万死に値します」
「ぉぅ……奥にあと3匹いたりする……」
「皆殺しですね」
「あ、や、もし、ここから追い出したらどうなるのかな」
「この山の麓には地上の獣人たちの町があるんですけど、そこで襲うと思います」
じゃ、ダメだ。
やっぱり死んでもらうしかない。
「……ごめん、ミソル。
下を向くあたしに、ミソルが優しい声で言った。
「あの、ルリ様。魔物は人形なので、悪いと思わなくていいんですよ?」
「……え? 人形?」
「魔物は魔王の作りし人形です。ノームの王が人形を作りダンジョンモンスターとするように、魔王の作った人形は魔物となります。本当はこんな所にいるものではないんですが、はぐれというか野良というか迷子ですかね」
そう続けるミソルの説明をまとめると、人形たちは戦うことによって、相手が発する戦意成分を核の中に吸い取る。その一部を自分の動力の糧にし、残りは人形を作ったマスターの魔力へ還元するということだった。
なので、魔王は力を得る為にも魔物を作ると。
「……わかった。じゃあたしも魔物は殺れるようにがんばる」
「はい、ルリ様。でもオレがいる時はオレがやりますから、ルリ様の出番はありませんよ?」
ミソルはそう言って首を傾げて笑った。
その言葉通り、あとはミソル劇場だった。
まずは半分埋まったゴブリン。
為す術もなくギャーギャーと鳴く姿の前にミソルは立った。瞬間、手甲鈎が閃き、サクっとその頭にくい込んだ。
サラサラサラ……とゴブリンが黒い砂へ崩れていく。
ミソルは膝をつき穴の中に手を入れて何か調べている。と思ったらすぐに立ち、先へと進む。
通路は土界と同じようにふんわりと明るく、時々緩くカーブを描きながら奥へと続いていた。
大分進んだ所でガチャガチャと石がこすれるような音と、ギャギャという声が聞こえてきた。
その先の部屋みたいな所にいるようだった。
ミソルは立ち止まり、小さい声で
「もしオレがゴブリンを取り逃したら、土界の中に隠れてください」
と言った。
あたしが頷くと、ミソルはひらりと身を翻し、部屋の中へ飛び込んだ。
驚いて固まるゴブリンたち。
入り口の一番近くにいたのから黒い爪の餌食になった。
胸へ一撃。
そのまますぐ横のゴブリンの首を真横に薙ぐ。
最後に残ったゴブリンは二匹が殺られている間に我に返り、ミソルの方へ向かって来た。が、避けるまでもなく、長い手甲鈎の爪は下から掬うように胸へ吸い込まれていった。
三匹ともあっという間に黒い砂へと変わってしまった。
あたしはただポカンとして見ていただけだった。
ミソルは三匹の砂の辺りから何かを拾い上げると、手を差し出した。
「ルリ様、これが核です。人形を作る時に芯となったもので、動力になります」
手渡されたのは、うずらの卵大の石が四つ。
「これは鉱石?鑑定とか出来……ん?!」
鑑定と口にした途端、石の横に文字が浮かび上がった!
『鑑定出来た?王の中には稀に鑑定の能力を持った者がいるよ』
ディンが言うように、鑑定出来てしまった。
あたし、稀な方の王らしい。
【鉱物:コーディエライト】
*魔が抜けて無垢な状態
*通常の物より魔を帯びやすい
コーディエライトってことはアイオライトだ。
紫っぽい石に見えるけど、研磨してカットしたら青色の綺麗な宝石になるのだろう。
「アイオライトだったよ。鉱石を核にするんだね」
「ルリ様すごいですよ! 鑑定の能力は
ミソルがしっぽをバタバタ振って興奮している。
鑑定、あると便利だもんね。ふふふ。石が鑑定出来るのうれしい!
アイオライトといえばバイキングが方向を見る時に使ったと言われる石だ。道しるべのお守りにされることもあるのに、それを核にした魔物が迷子になるとか皮肉なものだよね。
その後あたし達は、ダンジョン一階を端まで見て回り、他には魔物が入り込んでいないことを確認した。通路は所々崩れ落ちていて、本来ならあるはずの下へ続く階段は見つからなかった。
「これは明日以降にでも直しましょう。罠ももう作動するものはないみたいだし、危険はないと思います」
状態としては壁の崩れはひどいものの、もう崩れてくる気配はなかったのでそのまま戻ることにした。
「ルリ様、土界から先に戻りますか? もしよかったら地下世界の出入り口の場所を教えますけど……」
「じゃ、一緒に戻ろうかな」
そう言うと、ミソルはしっぽをパタパタと振った。
「結構戻りますけど、大丈夫ですか? 疲れてないですか?」
「まだ大丈夫だよ」
非力とはいえ若いですから! ちょっとは体力あるのよ。
でもミソルは優しいというか気が利くよね。そんなことを気にしてくれるなんて。
「じゃ、疲れたら言ってくださいね。抱っこでもおんぶでもしますから」
!?
冗談でも言わなくてヨカッタ!
そういうね、男子にさわるとか恥ずかしくてムリだから!
「だ、大丈夫。もう元気あり余ってるから……あはは」
「先代の王をよくおんぶしたんですよー。だからルリ様も遠慮しないでくださいー」
土いじりが好きでよくおんぶされたって……先代の王ってお爺ちゃん……?
もしかして、あたし、お爺ちゃん扱いってこと? それはそれでフクザツです……。
カーブでうねりながら長々と続く一本道を戻る途中、ゴブリン穴の近くでミソルが壁を指した。
「あの壁が周りと少し違うの分かりますか?」
「ちょっとだけ暗い気がする」
「あれが大壁と繋がる扉です。光を発する土界の壁が薄いので暗いんですよ。一つの階層に二つずつあって、奥のくずれてしまった向こう側にもう一つあるはずです」
扉だという壁をミソルがぐっと押すと、壁は奥へとずれた。横へスライドさせて開ければ通路が先に伸びている。
両脇には土界があり壁の厚み分だけ歩くと、ひらけた吹き抜けの場所に出た。
見下ろせばたいまつの通路が遠く斜め下の方に見えている。なかなかの高さだ。
今立っている手すり付きの細い通路は下にもいくつか通っていて、それをはしごが繋いでいた。
「この壁の面は外境結壁といって、中の配置を変える時も変化しない壁なんですよ」
「……大きいね」
「そうですねぇ。山が丸々一つ分、王のダンジョンですから」
「これを整備して管理すればいいんだよね」
「そうですー。冒険者に来てもらえば、麓の町が潤ってオレたちもいっぱい美味しいものが食べられます」
ああっ、食べ物のことを言われると弱い。
おいしい物はあたしも食べたいし、誰にもひもじい思いはさせたくないよ。
「よし、がんばる! 美味しいものいっぱい食べようね!」
「はい、ルリ様! オレもがんばります!」
ちょっと動機は不純かもしれないけど、いいよね!
王の仕事、がんばってみる!
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