王、経営戦略について語る
「――――それで、魔王とかいう
統治長ラクの氷点下の視線が、あたしとミソルを刺している。
冷える……冷えるよ……。地獄には八寒地獄があるらしいけど、もしかしたらここはその中の一つかもしれない……。統治管理室のみなさん、寒くて申し訳ない……。
正直、姿を見せたあたしが悪い自覚はあるし、いろいろやりすぎた。反省もしてる。
だから、極寒の視線も甘んじて受けるけどさ?!
こうなるだろうと思っていてもちゃんと報告にきたあたしエライ!
「それどころじゃないです、ラク様! 我が嫁って! あの魔王、ルリ様を我が嫁って言ったんですよ?! 倒さないと! オレが滅ぼしてきます!!」
いっしょに怒られてくれるのかと思ってたのに、ミソルはそう言い放った。
怖いもの知らず過ぎる。
そうか、あれは魔王のセリフだったんだ。
なんでそんなウカツなことを言った? 魔王よ。わけわからないし、ややこしいことになるじゃないの。ホントに滅ぼされちゃうよ?
重痛く感じるこめかみを揉んで頭を上げると、目の前にそっくり同じポーズをしたラクがいたのだった。
こんな時は作るに限る!
あたしは昼食の後、王居住区の作業場で地金をトントン叩いていた。
側近たちは二人とも見回りに出ている。
もうたいがいのアクセサリーは作ってみんなにあげたから、空いている部位もほとんどないんだよね。
侍女のポポリは特にすごい。かわいいのをつけさせたくていろいろ贈ったせいで、耳から首から手首足首まで満員御礼大漁豊作状態だ。
タクミは「自由言語化」エメラルドリング、「安眠」お守りタグペンダント、革の「荒風」ブレスレットを付けている。あとは耳くらいしか空いてない。指は十本あるから指輪ならまだまだ付けられるかな。
デブラは「通信」ペンダント、革の「突風」ブレスレットの他に、自作のバングルを重ねてたり、指輪も二、三本付けていたりとタクミ以上に空きがない。
ミソルはもともと付けていたユリの紋章みたいなペンダントに、「通信」ペンダント、革の「突風」ブレスレットだけだから、割と空いている方。
耳は人耳と獣耳の四つが空いているけど、やっぱり男の人はイヤリングとかピアスとか抵抗ある人が多いよね。
指輪は全部の指に可能。指輪、指輪ねぇ……。あげたらきっと付けてくれるだろうけど、邪魔になるかなぁとか考えたり。でも、あたしが作るアクセサリーは、ほぼ防具だからたくさん付けるといいよ! とかも思ったり。
シンプルな指輪なら、邪魔にならなくていいのかなぁ。結婚指輪っぽいやつとか?
――――――――ほわぁうえっ?! 結婚指輪?!
慌てて思わず変なところを叩いてしまう。
や! なし! 指輪はなしで!! そういうのはダメだから! いくら防具でもそういうイミシンなヤツはダメ!
というわけで、無難にチャームを作ることにした。
ブレスレットに付ければまだまだ付くし!
ハートは恋愛、四つ葉のクローバーは幸運とそれぞれモチーフに意味があって、良いことを呼び込むお守りにするんだよね。
ノームの王のマークにしている、ブリリアントカットのダイヤ型で作ってみることにする。簡単な直線だけで形が作れるから。
叩いていた地金を平たくしてから、
これに
いつもお世話になっている側近侍女のみんなにあげようと思って、五個作ったんだよね。
悪いものからみんなを守ってくれるお守りになってるといいな。
「鑑定」
【魔道具:ノームの王のおまもり|ランク:A】
防御力 1
*ノームの目
*ノームの指先
*ノームの守護
*物理防御力強化 レベル1
*魔法防御力強化 レベル2
〇材質:ミスリル(極上) 〇価値:高
※ノームの王が
金を見つけ増やす力が上がる。強力金運上昇のおまもり。
…………みんなを思う気持ちは、なぜか欲深いお守りになったよ……。解せぬ……。
でも、まぁ、いいよね! お金は大事!
「――というわけで、ダイヤモンド型チャームいる?」
「どういうわけだか全然わからなかったけど、もちろんいる。いいの? 俺がもらっても。側近でも侍女でもないけど?」
イモプリンが置かれたテーブルの向こうで、タクミが首をかしげる。
「うん、似たようなものかと思って」
「大変遺憾だけど否定できない」
あたしは持参した
「ありがとう、ルリさん。ノームの王のお守りって、鉱石使った仕事のご利益ありそう。立派な職人になるためのお守りにするよ」
金運アップお守りって言わないでおこう……。
お金がたくさん入ってくるくらい立派な職人になれるお守り。ってことで間違ってないよ! 多分!
「っていうか、こっちで職人になる前提になってるけど、タクミは向こうに戻りたくないの? や、あたしたちに決定権はないけどさ」
「そうだね。今はこっちがいい。作り族の仕事が楽しくて仕方がないんだ。戻ったら戻ったで高校にまた行って、家業継いで大工になってで、それなりに楽しいんだとは思うんだけどさ。こっちの世界にはもっとすごい何かがあるんじゃないかって、可能性を感じるんだよ」
「それ、わかる気がする。あたしも、やらないとならない仕事もあるし、やりたいこといっぱいある。家に帰ってる場合じゃないんだよなぁ。ダンジョンをせっかく整えてるのに、勇者が来ないと誰も来ないんだよね。今のままじゃもったいなくて」
「う、それは大変申し訳ない……」
「だから、集客についても考えてて、ロイタームの町から駅馬車の直通便開通させたいの。ダンジョン攻略の冒険者にいっぱい来てもらって、最終的には麓の町にジャンジャンお金を落としてもらいたい!」
「なんか、ダンジョンっていうより、テーマパーク?」
「それよ。魅力的なアトラクションの他は、おもしろい飲食店増やして、土産物屋を作りたい」
「土産物屋! 俺の作った物も置いてくれる?!」
「置く置く。木刀と言わず、真剣も置こう。あとは『
「ヤバい、絶対いらない」
「ダンジョンまんじゅうも作らなきゃ!」
二人で盛り上がった。
あたしたちだけが抱えている未来の不確定さ。その不安を吹き飛ばすように、夢とか目標とかをイモプリン片手に大いに語ったのだった。
***
11月1日までに完結します。(予告を一か月間違えてました!)
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