王、階段下の会談
がらんとなった階段をしばらく眺めていたけれども、魔族の人は現れなかったのでミソルのところへ戻った。
「みんないなくなっちゃったよ」
「そうなんですかー?」
ミソルがイタチ耳をヒコッと動かして頭を
どうしようかな。
もしかしたら魔族の人たちが戻ってくるかもしれないから、外が見える土界の中にいたいんだけどミソルと話もしたいし。
透明土界に変えれば向こう側が見えて聞こえるけど、こちらの姿もさらすことになるわけで、危険が伴う。
そういうわけで、右半身を土界に入れて左半身を出しておくことにした。五メートルくらい先に階段が見えている。
これなら右目の視界が茶色がかってるだけで、あたしにはちゃんとどっちも見えるからね。
――――わかってる! 見ている方が気持ち悪いのは!
困ったものを見るような目でミソルが見ているのは、気にしちゃダメ!
体を半分めり込ませた状態で床に座り、様子を見ることしばし。
階段の方から音が聞こえた。
「――あ、なんか来たかも」
「なんでしょうねー?」
階段の上り口に姿を見せたのは、先頭に黒い鎧を着たゴツイ大男、その次に昔のバンドの人みたいな長髪で超絶美形の男の人、その後ろにゾロゾロとカラフルな姿が見えている。
あ! きっと、この二番目の人が魔王!
黒っぽい長い髪の横から、長く尖った耳が見えている。切れ長の目に鼻筋の通った彫りの深い顔。背中の黒っぽい羽根が見えなければ、美術館とかで見る彫刻像のような美形さんだ。
ワクワクしながら見ていると、推定魔王が鎧大男を押しのけて、一番前にきた。
「……なんということだ……」
手を口に当て、ふるふると震えている。
そんなに怖がらなくてもいいのに。
あたしは階段前の土界をスライム風に、プルプルっとかわいく揺らしてみた。
「「「「「ギャーーーー!!!!」」」」」
「――――お前たちは、下がってるのだ!! ここは私だけでよい!! 地下の王よ! ……ん? ……何? ……そうか、女王なのか。女王よ! お怒りを鎮めてくれないだろうか!」
えーと、別にお怒りじゃないよ?
境界結壁をフルフルと揺らしてみる。怒ってないよー。
「罰を受けるのは私一人で許してほしい! 他の者たちはどうか許してくれ!」
罰とか言ってるけど、なんのことだろうか。
「……罰ってなんだろう?」
『五百年前のことかもしれないよ』
サークレットのディンが言った。
「ええ? そんなの今言われてもわかんないよ!」
『勝手に地下にトンネルを掘った魔族に、罰を与えにきたノームの王とか思ってるかもね』
「もー、まどろっこしい! 透明土界にする!」
あたしはそう宣言すると、右手を壁にあててそこから先の土界を透明にしてしまった。
五メートルほど先の土界の向こう側で、うおぉぉぉとひそやかに驚きの声が上がった。そして推定魔王も後ろに控えた大男やカラフルたちも目をまん丸にして、こっちを見ている。
「ねぇ、罰って何? 何か悪いことしたの?」
「……い、いや、私にも心当たりはなかったのだが、とりあえず謝っておこうかと思ったのだ」
母ちゃんの機嫌が悪い時の父ちゃんか!
「お前が地下の女王だろうか?」
「うん、まぁそう、かな?」
「このかわいくてかわいいお方が、地下国の大事な王です!」
「「「「「おおおおおぉぉぉ」」」」」
そんな堂々と恥ずかしい紹介しないでほしい。
土界の向こう側では、「闇色の女王だ。王と同じだ」と声が上がっている。
「闇色の女王よ。私が魔国の王、ゾラン・マジャ・ディリータだ。なにゆえにこのトンネルを埋めたのか聞いてもよいか? もしや魔国への侵攻なのか?」
「こっちも聞きたいんだけど、うちの国の方にアースドラゴンがいたの。地下国への宣戦布告なんじゃないの?」
ホントにそう思ってるわけじゃないけどね。
向こう側で驚きの気配が広がった。
その様子を信じるのなら、あれはやっぱり昔放たれたアースドラゴンが生き残っていたということなのかもしれない。
「……すまない、それは五百年前のコッフェリア王国との戦いの時に、使役したものだ。昔の王がアースドラゴンを作り出したと言い伝えられている。それが今まで生きていて迷惑をかけたのなら、大変申し訳ないことをした。だが、決して今の代の我々の意思ではないし、ノームの王が統べる地下国へ向けたものでもないというのを信じてほしい」
美形の魔王はそう言って膝をつき首を垂れた。
きっと昔のだろうなと思ってたし、トンネルは埋めてしまったからいいんだけどね。掘るなら地下国にある特別な道具じゃないと掘れないし。
「……わかった。すぐには信用できないけど、とりあえずはあなたたちがしたことじゃないと思ってあげる」
「感謝する。――――地下の女王がトンネルを埋めた訳は承知したが、慈悲深き闇の女王よ、このトンネルには魔国の大事な地下食糧貯蔵庫があるのだ。そこを埋めるのだけは許してもらえないだろうか」
地下貯蔵庫?
「…ルリ様、あれじゃないですか?」
ミソルが小声で指差した。
その先にはひっそりと目立たない扉がみえている。
あら、それは悪いことをした。
あたしはちょっとだけ魔力を吸い取って、階段からその扉までの通路を作った。
危なく魔国を兵糧攻めにする極悪非道人になるところだったよ。
「ごめんごめん。気付かなかった」
てへ。
とりあげず笑ってごまかしておく。
「助かった…………」
「なんと慈悲深い……!」
「なんという女神……!」
「……ルリ様、かわいい……」
「……地下の王、かわいい……」
「……我が嫁……」
ん?
なんか変なの混ざってたような気が……?
いっしょになってなんか言っていたミソルが前に出て、あたしを背中へ隠した。しっぽがめっちゃけば立ってますけど。地下国の超強い側近さまはお怒りのようですよ? 魔国、滅ぼされちゃいますよ?
あたしはミソルの横からちょっとだけ顔を出して、魔国の人たちに言った。
「――じゃ、そういうわけだから! 地下国へなんかしちゃダメだからね!(滅ぼされちゃうからね!)」
魔王と魔族の人たちに全く締まらない捨て台詞を残して、あたしはミソルの腕を取った。そして、さっさと土界の中へ取って返したのだった。
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