王・ルリの地下日誌6

王、バレる

「はい、これルリさんの。こっちはミソルさんに。デブラさんのは作業場で渡すから」


 朝食後のお茶を飲んでいたあたしの前に、ポンとスタンド型のステンドグラスが置かれた。オレンジ色を基調に黄色と赤、差し色に緑が使われた明るい色合いで組み合わせられている。

 ミソルの前に置かれたのはあたしのと逆の配色で、緑を基調に差し色にオレンジだ。


「え、もらっていいの? ありがとう! かわいい! ミソルの方もキレイ」


「タクミ様、ありがとうございます! ルリ様と色違いうれしいです!」


 うれしそうに言うミソルのしっぽがご機嫌にゆらゆらしている。

 タクミも「これはお礼だから」とニコニコしていた。デブラは作っていたところを見ていたのだろう。いっしょに笑っている。


「ルリさんとミソルさんってなんか似てるから、色違いにしてみたんだ」


「え、ミソルと似てる?」


「うん、似てると思う。外見は全然違うのにな。なんだろう、姉弟みたいな感じする。ミソルさんが我慢してルリさんに合わせてるわけじゃないんだよね?」


「……何気に失礼なんだけど……」


「ガマンしてないですー」


「似てるってわかるだっす。ルリ様とミソル様はなんとなく似てるだっす」


 ミソルと目を合わせると、二人で首をかしげた。

 そう、なのかな? 自分じゃよくわからないけど。

 でも……確かに、いっしょにいて違和感はないな。最初っから、実の弟並みに馴染んでいたかもしれない。いても邪魔にならない感?


「……もしかして、生き別れの弟……?!」


「そんなわけあるか! 耳! しっぽ!」


 あははは。とあたしは笑った。冗談ですよ、ジョーダン。

 タクミがいると適切なツッコミが入っていいなぁ。

 ミソルも「弟じゃないですよー。ルリ様、大丈夫です!」とキラッといい顔で笑っている。

 タクミはブホッとむせているし、何が大丈夫なのかナゾなんだけど。


「鑑定」


【魔道具:よいのランプ|ランク:C】

 防御力 10

 *夢路のしるべ

 *精神安定 レベル1


 あれ?! また鑑定項目が少なくなってる!

 前の鑑定レベルに戻ってるんだけど?

 これだと効果がわからないんだよな……。


「ん? ルリさん、鑑定結果どうだった?」


「それが、なんかいつもと違うんだよね……。ちょっと分かりづらい結果に戻ったというか。なんだろう、疲れてるのかな」


「いつもと違うっていえば、今日は髪留めてないんだね。日本にいた時みたいだ」


 タクミの言葉に、はっ。と頭を押さえた。

 そういえば、今朝は寝坊して急いでて髪を留めてなかったんだ。

 動いた時に肩で寝ていたディンが落ちかけたけど、気にせずポケットからラピスのバレッタを取り出し後頭部で前髪を留めた。

 すっかりただのお気に入りヘアアクセ化してたコレ、実は魔道具でナゾ効果が付いていたっけ。ドワーフの目とかいう効果はもしかして……。


「鑑定」


【魔道具:よいのランプ|ランク:C】

 防御力 10

 *夢路のしるべ

 *精神安定 レベル1

 〇材質:すず 〇価値:中

 ※魔力を纏いし職人が作った品

  緩やかに安眠へと誘う


 うわ、やっぱり?! 鑑定のレベルが上がったのかな~なんて思ってたけど違った! この髪飾りのおかげだった!


「……ちゃんと鑑定できた……。髪飾りのおかげだったみたい……」


「そうなんだ? へぇ、かわいいだけじゃなくて役に立つなんて、いいね。ルリさんに似合ってるし」


「そ、そう?」


「うん、色も形も似合ってると思う。っていうか、しっくりし過ぎてるからさ、今日付けてなくて、すぐアレ? って思ったくらいだよ。もうルリさんの一部と化してるんじゃない?」


 いや、もう、ごめん……。口開いたら火吐きそうなんだけど……!

 ミソルが赤い顔でしっぽをクネンクネンさせてるし、もうその辺で勘弁してください……。

 そんなようすを見たタクミは、ちょっと目を細めて「……ふーん……?」とつぶやいた。


「――で、ルリさんは、今日はこれからどうするの?」


「あー、トンネル行ってくる」


「トンネル?」


「うん、魔王国まで繋がってるらしいんだけどさ、そのままにしとくの気持ち悪いから埋めてるんだよね。その続きを……」


 あ! と思った時には遅く。

 驚愕の顔のデブラと、笑顔を貼り付けたままダークな気を放ちだしたミソルがいた。

 あああああ!!

 大きく土界を作る時はミソルがいる時じゃないとダメって言われてるのに!!

 ちょっとだけだからってナイショにしてたのに!!


「ルーリーさーまー……」


 デブラとタクミがこそこそと食堂を出ていくのが見えた。

 裏切者ー!!

 つい椅子から立ち上がると、ミソルが前に立ちはだかりもう一度椅子に座らせる。


「……詳しいお話を聞かせてくださいね……?」


 ぴったりくっついてミソルがとなりに座った。

 ……これは逃げられない。

 あたしは諦めてしんなりとうなだれた。






 悪事(ってほど悪いことはしてないと思う)を吐かされて、ちらりと見上げれば、眉を下げ情けない顔のミソルと目が合った。


「……ルリ様がもし倒れた時に、魔王とか悪いのが来たらどうするんですかぁ……」


 言われながらぎゅうぎゅうと抱きしめられる。

 うぐぅ……。朝ごはん出ちゃう……。「ん”ー……!」と肩からうめき声も聞こえるよ!


「……ど、土界の中で魔力出してるから、倒れた時は土界の中だし大丈夫だよっ……」


「魔王が土界に入ってこれないって言い切れないんですよ……?」


 結界を破れなかったんだから大丈夫と言いたかったけど、そう言われてしまうと「まぁそうかも」とも思ってしまったり。

 ミソルが心配してくれているのはわかる。わかってる。だけど――。

 あたしはミソルをなんとか押し戻した。


「……でも、あのトンネルそのまま放置できないよ。魔族が来るかもしれないって思いながらそのままにできない」


 まっすぐ見てそう言ったあたしに、ミソルはうなずいた。


「オレがいっしょに行きます。役に立つようにがんばりますから。オレは、ルリ様の力になりたいんです。だから――もう一人で行かないでください」


「……でも、土界の中は連れて行っちゃダメなんだよ?」


「いいんです。タクミ様だって通ってるんだから、オレも行きます。絶対にルリ様を離しませんから。ルリ様に何かあった時に近くにいたいんです」


 きゅっと手を取られた。

 繋がった手から、温かさがじんわりと伝わってくる。

 そこまで言われてもう一人で行くなんてできない。

 あたしはちゃんとミソルの顔を見て「わかった」と答えた。





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