王、失敗作を持ってダンジョンへ行く

「戻りましたー。……あれ? ルリ様、どうかしたんですか?」


 ちょうど戻ってきたミソルが作業場に顔を出した。

 こうこうこうで……と説明すると、ミソルは「すごいです!! 便利ですね!」と言った。


「え、でも、話できないし、失敗作だよ?」


「でも、ブルブルしたら、用事があるから呼ばれてるんだってわかりますよね! 便利です! すごいです!」


「そうだすな! ルリ様と離れていてもこれがあればちょっと安心だっす!」


 なるほど。

 そう考えれば便利かもしれない。

 それならそのまま使ってみようかということで、タグ風のプレート型ペンダントトップにバチカンを付けて鎖へ通した。

 三つとも仕上げてそれぞれあたしとミソルとデブラが持つ。


「水晶が素敵ですー」


「かっこいいだすよ!」


 首に付けて喜んでいる二人を見ながら、確かにペンダントトップのデザイン自体は悪くないのになぁ……とちょっとだけ自画自賛なことを思っていると、肩に乗っていたディンがポツリとつぶやいた。


「……キミは思いもしないことをする」


「五百歳の精霊もびっくりする?」


「今までの王も驚くようなことはあったけど、キミはさらに上をいく。ラクが若い王を嫌がるのがわかる気がするよ」


「変化を嫌うってこと?」


ぎょせないってことさ」


 あたしは肩のディンを手で持って、顔の前に連れてくる。つぶらな瞳がこっちを見ている。


「思い通りにしようとしてたってこと? かわいい姿して腹黒精霊ね」


「違うよ。ラクが……」


「ラクのせいにして悪いリスめ。コチョコチョの刑に処す!」


 お腹のフワフワをコショコショすると「ヤメテー!」と体をくねらせているけど、さすが五百年も生きる精霊、なかなか侮れないよね。代々の王もうまく操ってきたのかもしれない。このかわいい姿とモフモフにだまされないようにしないと!

 あたしはそう簡単にはいかないからね?






 夕食までちょっと時間があったので、ダンジョンに魔法陣を敷きに行くことにした。

 まぁ、準備したところで、絶賛閑古鳥中だけどね。

 勇者たちはそれどころじゃないっぽいし、他の冒険者たちも来ないし。

 口コミのサクラでも用意した方がいいんじゃないのとか思っちゃう。


 第四層はなかなか広くて、一気に魔法陣を敷くには魔力不足の心配もあって、時間がある午後とかにちょっとずつ描きにきていた。

 核さえ入れなければ稼働はしないのでそんなに危険はないけど、お供にミソルが付いてきていて地図を見てくれている。

 第三層からは魔法陣の計画を描いた地図を見ながら、作業をしているんだ。広くてどこになにを置くか覚えられないからね。


 淡く発光している土界の通路は、この先で行き止まりになっていた。


「ここは突き当たりだから……宝箱の魔法陣で、手前がダンジョンモンスターです」


「奥に宝箱ね」


 王笏セプターの杖の先を床にトンと置くと、サークレットになっているディンが『【宝物生成陣】』と頭の中で唱えた。

 杖の先から床に直径一メートルほどの黒い魔法陣が浮かび上がる。

 もう一つ【魔物生成陣】も敷いてしまう。


 本来ならばここに核を入れて魔法陣が消え稼働が始まるんだけど、核を入れないので魔法陣は見えたままになっていた。

 通って来た通路のあちこちに黒い魔法陣が描かれているのが見える。

 土界の壁がぼんやりと光って薄明るいダンジョンに浮かぶ黒い模様は、なかなか幻想的だった。


「ルリ様、これで二番通路は終わりですー。あと一番通路だけですけど、またにしましょうか」


 手にした地図から目を離してミソルが言った。


「うーん、魔力はまだ大丈夫そうなんだけどなぁ」


「倒れてもオレがいるから大丈夫ですけど……無理してほしくないです」


 心配そうな顔を向けられる。

 相変わらず、過保護です!

 あたしはなぜか顔が熱くなるのを感じて背を向けた。


「……大丈夫だよ。でも、続きはまた今度にしようかな」


「……はい! 戻りましょう」


 通路を歩いているところで、ペンダントトップが振動した。

 そろそろ夕食になるころにデブラが知らせてくれることになっていたから、きっとソレ。


「ちょうどよかったね」


「やっぱり便利です! こんなの作るなんてルリ様すごいです!」


 確かに、これはこれでちょっと便利になったかも。

 えへへとミソルと顔を見合わせて笑った。


「そうだ、ミソル。麓の町はどうだった? コッフェリア国の人とか来てた?」


「いえ、今日はいないみたいでした。でもみんな不安そうにしていたので、明日は掘り長が見回りに行ってくれることになってます」


「そっか、それならちょっと安心かな」


「はい。……でも、勇者様が心配ですよね」


「あー、うん。そう、だね。ちょっとだけ心配かも」


 となりを歩くミソルを見上げると、困ったような顔をしている。


「……あのね、薄情かもしれないけど、心配だけどほっとしてる方が大きいんだ。だってもう魔王との戦いとか考えなくていいから」


 あたしがそう言うと、ミソルは首を振った。


「……薄情じゃないです。オレはルリ様が楽になったならうれしいです」


 そう言ってちょっとだけ笑ったミソルの方が、よっぽどタクミを心配してるよなぁと思った。





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