王、見つけてしまう

 あたしは土界の中からダンジョンを見ていた。

 現在、第三層までを公開していて、四層五層は通路は出来上がっているけど、まだ魔法陣の準備が終わっていない状態。

 どのくらい準備しておけばいいんだろう。


「ねぇ、ディン。ダンジョン、広く出来ないのかな?」


『出来ないことはないよ』


 山に作られているダンジョンなので、下の階層に行くほど広い。

 第三層もその上よりは広く、まだまだ攻略されてはいないけど、五層までで足りるのかよく分からない。


『空間に土界を詰めることが出来るから、掘り族に下にでも横にでも土を掘ってもらって、そこに王の魔力で土界を詰めていけばいいよ』


 なるほど。じゃ、掘り族の長モルドンに相談してみようかな。


 四層五層の魔法陣の設置の計画を立てながら土界を飛んで歩いていて、あたしは一部おかしな部分があることに気付いた。

 土界は外境結壁の南側の一部が、地下の町と繋がって階段と通路が設置されている。

 残りの外境結壁は山の土に面しているんだけど、その東南方向の一部だけ土ではない何かに面していた。


 この向こう側、古びたように変色しているけど、土界……?

 土界の向こうにも土界が見える気がする。大きさは両開きの扉よりも大きいだろうか。

 あたしがその前に立ってじっと見ていると、サークレットから震える気配があった。


「……もしかして、ディンはその先が何か知ってる?」


『……王、お願いがあるんだ。そこだけは触らないでほしい』


「理由に納得出来れば、約束するよ」


『………』


 ほう、黙秘ね。

 まぁいいでしょう。


 あたしはくるりと反対を向き、目の前に広がる土界を見渡す。

 透明な土界は茶色の境結壁で区切られた通路を抱き、巨大迷路の姿を見せている。


 境結壁の外から見ればただの土壁にしか見えないのに、中からはこんなにもよく見えるマジックミラーのような不思議な世界。

 他の人もあたしにくっついていれば土界の中に入れるけれども、視界はなくなるらしいから、これが見えるのはあたしだけ。

 ノームの王はアミューズメント施設の管理人のようだよね。


 そのお客さん、勇者たちは、あれ以来まだ来ていない。


 もう初心者レベルも脱するかというくらいの強さだから、来たからといって見に行くこともないんだけどね。

 今のところ罠もパーティごとテレポートするタイプしか設置されていないし、ダンジョンモンスターも脅威のあるものはいない。

 だから好きな時に来て遊んで……じゃなかった、攻略していけばいいんだけど。


 この間の、勇者の深沢くんのね、アレがあるからね、いつ来るのかなって気になるっていうか……。


 たいまつ通路前の土界へ転移すると、外でミソルが正座して待っているのが見えた。

 外境結壁から出ていくと、ミソルがほっとしたように眉を緩めた。


「おかえりなさい、ルリ様」


「ただいま。待っててくれなくても大丈夫だよ」


「本当はいっしょに行きたいです」


 こんな言葉もちょっと慣れてきた。ミソルはこういういい方をするんだって。

 けど、やっぱりまだちょっと鼻の上あたりがムズムズする。


「……次は、魔法陣設置するから、いっしょに来てもらうね」


「はい」


 にっこりと笑う顔に自然と笑い返して、あたしたちは食堂へ向かった。




 昼食の後はすっかり作業場と化してるフリースペースで、魔法陣の人形用の紐輪作り。

 麻紐だけじゃなくカラフルな絹糸や綿糸なども三つ編み四つ編み五つ編みにしていく。あとで革紐ももらってこよう。

 そこそこ作って「この後、中央執務区へ行ってくるね」と側近二人に言うと、ミソルが眉を下げながら口を開いた。


「ルリ様、お願いがあるんですけど……おつかいをにいっしょに行ってもらえませんか?」


「おつかい?」


「買い物を頼まれているんですけど、オレ、買うもの忘れちゃうから……」


 ああ、なるほど。

 ミソルが情けない顔で言うので、あたしはうなづいた。


「わかった。いっしょに行くよ」


「ルリ様、すまないだっす。俺っちが行ければよかっただすが、細工長に呼ばれてるだっす」


「そんな気にしないで大丈夫だよ。買い物行ってみたかったんだ」


 ふふふと笑うと、二人もほっとしたように笑った。

 立ち上がってテーブルに置いておいたサークレットを腕にかける。


 とっくに外してるんだけど、かたくなに戻らないのがいるんだよね。

 よっぽど聞かれたくない何かがあるみたい。

 ホントはこの後、中央執務区でラクに聞くか、歴史を調べてみようかと思ってたんだけど。

 まぁちょっと放っておこう。


 あたしはなんにも言わないサークレットを、ちょんちょんとつついた。





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