王、ダンジョンのナゾに迫る(3)

 統治管理室を出て、そのまま土界に結界を張りに行こうとしたら、ミソルに止められた。


「ルリ様、今はダメです。その近くまで、土界を掘ってからです」


「え、でも結界を張るくらいすぐ終わるよ」


「ルリ様になにかあった時に助けられないからダメです」


「そうだすよ。それは普通の土界じゃないだっす。その土界も向こうがどうなっているのかも分からないだすよ」


 おおぅ……なんという過保護!

 まぁ、側近二人に引き留められたら従いますけどね……。


「大丈夫です、ルリ様。すぐ掘りますー。場所の確認があるので掘る場所にいっしょに来てもらえますか」


「もちろん」


「じゃ、オレ、掘りおさを呼んで来ます」


 さっと行ってしまう後ろ姿に土界に行ってるよーと声をかけ、デブラといっしょに外境結壁へ向かった。

 広間へ入るとたくさん垂れさがっている水晶シャンデリアが、うっすらと黄色がかっていた。

 そろそろおやつの時間かなと思ったら、お腹がすいてきた。


「ルリ様、おやつを持ってくるだっす。先に行って待っててほしいだっす」


 あ、お腹の音が聞こえたのかも……恥ずかしい。

 あたしはわかったーと答えて、そのへんを見回しながらゆっくりと歩いた。

 降臨輪の今日の作業は終わったみたいで誰もいない。王居住区の前には、見張り役の人たちが二人立っていて、広間の端の方では座り込んでのんびりお茶している人たちが何人かいた。

 広間って部屋というより、公園みたいな感じだなと思った。


 たいまつ前の通路を通り、外境結壁前で待っていると、デブラが手にバスケットを持ってゆさゆさと走って来た。


「今日は焼きイモだすよ!」


 焼きイモ! 料理長、女子のハートを鷲づかみですよ!

 ふたを開けばバスケットからはふんわりと温かい空気が上がっている。

 何本も入っていて、掘り族の人の分までありそうだった。


 こういう時に連絡が取れるといいよね。

 どこにいるとか、おやつアリとか伝えられると便利なのに。


 ミソルたちの姿はまだ見えなくて、悪いなぁと思いつつも空腹には勝てず、おイモをデブラと半分こした。さすがにまるまる一個はちょっと多い。


「ホクホクでおいしいねぇ」


「甘くておいしいだすなぁ」


 食べ終わるころに、ミソルと掘り長のモルドンと掘り族の人たちが来た。

 みんながおやつを食べている間に、一足お先に場所の確認をするために土界へ入る。


 変色した土界の壁を思い出しつつ、東側へジャンプすると、ちょうどその前へ降り立った。


 五百年前に封印された空間。

 話を聞いてしまえば、その濃く変わった土界の壁が怖い気がしてくる。


 あたしはサークレットになっているディンに聞いた。


「ディン、この魔法陣の壁って厚みどのくらいなの?」


「王が納まって余裕があるくらいの厚さかな」


 五十センチくらい?

 案外薄いんだ。

 まぁ物理的なものじゃなく、魔法での封印だから厚さは関係ないんだろうけど。


 壁の前に立ちくるりと振り返れば、左側のずっと向こうに外境結壁の茶色があり、その先のみんながが見えていた。


「方向的にこっちは東側になる?」


『そうだよ。ダンジョンの中心部分から見ると東南東だね』


 壁を背にして中心方向へまっすぐ歩いていくと、ダンジョンの通路へ出た。


「ここからまっすぐ掘ればいいから、なにか目印を……」


 あ、そういえば、最初に魔法で壁を変形させたっけ。

 どんな目印だと分かりやすいかな。ちょっと穴掘っておけば手間も減るか。


 ダンジョンの壁に手をあて、ちょっと押してへこませるイメージを送りこむと、ガボンとショベルカーで大きくかいたような穴が出来た。


『王……』


「……あ、あってる。大丈夫。ここをまっすぐ掘っていけばいいだけだからね」


 掘り族の人たちを連れて穴の開いた現地まで戻って来たら、一瞬みんなが固まったような気がしたけど、きっと気のせい。うん。


 長のモルドンが穴の前で号令をかける。


「お前らはじめるぞ! ここからまっすぐ東へ外境結壁ギリギリまで、しっかり掘るように! 境結壁付近は丁寧に優しく壁を壊さないようにな!」


「「「「「おう!」」」」」


 それぞれつるはしやスコップ、手甲鉤を手に掘り始めると、その様子はまるで豆腐を崩していくがごとく!

 おおおお?!

 掘り族のみなさん、すごい!!


 ミソルもそれに混ざり、掘り出した土界の土をかき出して通路へとよけている。


「これは確かに、すぐ掘り終わりそうだね」


「掘り族はすごいだすなぁ……」


「この道具は作り族が作ってるんだよね?」


「そうだっす。土界用のものはあと王の魔法もかかっているはずだっす」


 へぇ。土界専用の道具なんだ。

 作り族が作り、王が魔法をかけ、掘り族が掘る。

 あたしとデブラはぽーっと通路が掘られていくのを眺めていた。


 しばらくすると掘り族のみなさんがぞろぞろと出て来て、


「王、どうぞお通りください」


 とモルドンが中へ通してくれた。

 ミソルの先導で新しく掘られた通路を行くと、行き止まりに濃い色の外境結壁が見えている。


 この壁の向こう側が、古い土界の壁。

 土界に入ってない状態だと見えなくて確認出来ないな。


「ディン、ここからだと見えないんだけど、大丈夫かな?直接あの古い土界にさわってなくても結界張れる?」


『張れるよ。魔力は通るから大丈夫』


 よっし。じゃ、やるぞ。

 あたしは壁に手をあてた。


『【王の刻印】』


 最初の結界を張った時のように、ディンが頭の中で唱えた。

 手から伝わる力が壁へ流れ、その先に張り巡らされるのがわかった。


『【外魔進防陣】』


 もう一度、力が壁へ流れる。最初のよりも、ダンジョンの入り口の時よりも強い力。

 力が注ぎ込まれれば注ぎ込まれるほど、感覚が鋭くなり、あたしと同調していく。

 外側の土界は、もう古い土界ではなくあたしの魔力の土界になった。


 なんだかすごくイヤな感じがした。

 土界に何かあたっているような、何か大きなものがぶつかってきているような……。


 結界が張り終わりって同調する感覚も切れたけど、そのイヤな感覚だけはずっとあたしの肌をぞわぞわとさせ続けたのだった。







 * 二章完 *


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