王、都を存分に楽しむ(3)

「ちょっとトイレ……」


 とかなんとか小さい声で言いながら席を立つと、前に座っていたミソルも立ち上がった。


「オレも行きます」


「ミソル、あの……」


「大丈夫です。護衛させてください」


 まっすぐに見つめてくる優しい顔に、ちょっと胸がきゅっとなった。


「ありがと……」


 ミソルはわかってて、ついてきてくれるんだ。

 勇者と会うのはあんまりよくないって言われてるけど、放っておけないんだもん。


 タクミを見ると店の端の方に向かって歩いていて、それをゆっくりと追った。

 トイレ前のフロアから見えない場所には階段があり、そこを上っていく後ろ姿について上がると二階は個室が並ぶフロアだった。

 今は誰もいないようで薄暗く、階下の音だけが聞こえている。

 タクミは下からは見えないところまで進んで、


「ルリさん、なんでここにいるんだよ!」


 と笑って振り返り、後ろについているミソルに軽く頭を下げた。

 あたしがいっしょになって振り向くと、ミソルもおじぎをしていた。そして、その後くるりと背を向け階段下を見張る体勢に入っていた。


「……あー、えっと、おのぼりさんしてたよー。さすが王都は都会だね」


「まぁ、あっちに比べたらな。俺たちが来る店までわかったんだ」


「最初は知らなかったんだよ。けど、よく来る店って聞いたから張ってたというか? 勇者様のウワサはよくされているみたいだね」


「あー、そういうの、あんまりうれしくないよな。俺、あんま目立ちたくんだよ。――っていうか、それよりこの間もらった山のお守りが!」


 山のお守り?

 ああ、あの金銀ミスリルのタグかな。

【魔道具:ノームの王のおまもり|ランク:A】

 のやつ。

「大地の守り」って効果があったから、山のお守りって呼んでるのかな。

 それがどうしたんだろう。


「鑑定してもらったらお守りだって言うから、チョーカーにしてつけてたんだ。そしたら、夜、寝ている時にパン!! って破裂して!」


「ええ?! ごめん!! ケガは?!」


「いや、俺は全然なんともない。すごい音でびっくりして起きたけど、なにもなかったからまたすぐ寝たんだ。とにかく寝不足だったし」


 それまではさ、くせ者が忍び込んできたら、襲われないようにトイレの個室に鍵かけて中で寝てたんだよ。とタクミは続けた。


 ……ええ?! 勇者をトイレの個室で寝かせるって、一体どうなってんの?


「それが、おとといの晩は朝までベッドでぐっすり寝れたんだ。けど、起きたらお守りはかけらも残らずなくなってるし、部屋の扉を開いたら人だかりができてて、扉が開かなかったとか女の人が倒れてたとか言ってて」


 …………。

 その話は聞いたことがアリマス……。


「昨日の晩も全く同じことがおこって、今朝にはまたお守りがなくなってたんだ。ぐっすり寝れてるからありがたいけど、ルリさん、アレ、なに……?」


 多分、アレだ――。


  ※ノームの王がずから作り上げた品

  


「……一回だけ身を守ってくれるお守りって感じ?」


「……そういえばさ、身を守ってくれるお札って、昔話であったよな」


 ああ!


「「三枚のお札」」


 チガウ! ヒドイ! かっこいいIDタグみたいなのを作ったはずなのに!

 昔話の和尚のお札ってどういうこと?!


 あたしが軽くショックを受けていると、タクミは眉間にしわを寄せて悲壮感あふれる顔で言った。


「……これが、最後の一枚だ」


 首元からひっぱりだして見せてくれたのは、黒い革紐につけられたミスリルのタグ。

 あの和尚のように、最後には小さくなった刺客をぱくんと食べて、めでたしめでたしってわけにはいかない。

 このタグが仕事をしたら、また刺客との戦いの日々に戻るってわけだ。


 そうだ。

 アレ、鞄に入れていたハズ……。

 ダンジョンの宝箱に入れようと思ってたのに、まだ入れてなかったっけ。


 鞄に手を入れ、出したのは七つ編みの革のブレスレットだった。


「これ、あげる。荒風っていう特殊効果がついているから、使う時は腕を突き出して「荒風」って強く念じながら言って」


 あたしは、ブレスレットをタクミの腕につけてあげながら説明した。


「コウフウ? どんな効果?」


「使ってないからわからないけど、荒れる風のコウフウだから。一度使うと魔力が溜まるまで使えないからね」


「わ、わかった。……ルリさん、ありがとう」


 ブレスレットをじっと見ながらうなずくタクミに、人には向けない方がいいかもしれないと付け加えた。脅しにくらいは使えるかもしれない。

 あたしの道具で死人は出したくないもんね。どんな効果かわからないけど、用心しておくに越したことはない。


 今、渡せるのはこれくらいしかないんだけど……あ! お屋敷に戻ってなにか作らせてもらおう! そうしよう!




 その後、階下に戻ったあたしとミソルは、また酔っ払いたちを置いてお屋敷へ帰ってきてしまった。


「なに作ろうかなー!」


 ウキウキとお屋敷の裏庭に面した作業場へ向かうと、ミソルがニコニコしながらついてくる。


「ルリ様は、作っている時が一番楽しそうです」


「本当にそうだね。当代の王は作業場にいる時が一番魔力が強い」


 少しあきれたようにディンも言う。

 ん? 今、大事なことを聞いたような気がする。


「あたし、作ってると魔力強くなってるの?」


「正しくは、結構な魔力を放出している。かな。知らずに作っているものに魔力を込めているってことだろうね」


 うーん、自覚ないなぁ。

 土界で使ってる時はなんとなくわかるけど、作ってる時にも出てるのは気付かなかった。

 勝手に出ちゃうって、魔力ってよくわかんないや。


 作業場へやってくると、鍛冶族のベテランドワーフが槍の刃を研いでいるところだった。お城の衛兵用のを修理していたんだって。細工族はその柄に革を巻いている。こんな風にお直しされるとキレイで新品みたい。


 道具を確認すると、ここの炉は地下のほど高温高性能ではないみたい。でも全然問題ない。地下国のが高性能すぎるんだよ。

 そして地下にはなかった指輪用の金床があった。指輪のお直しも依頼を受けられるように、近年導入したのだそうだ。

 やっぱり人を相手に商売するならそうなるよね。指輪って装飾品の花形だもん!


 炉や金床、地金と道具を使わせてもらい、またペンダントトップを作ることにした。

「ノームの知恵」は修理がメインだからか石は置いてないみたいで、ミスリルと金のコンビネーションでまたタグ風のペンダントトップにすることにした。

 できれば一回で効果がなくなるやつじゃなく、もうちょっと頑丈なのができてほしい!


「王、また山のお守りを作るの?」


 ディンが肩の上から聞いてくるから、不思議に思って聞いてみた。


「タクミも言ってたけど、ディンもそう言うんだね。なんで山のお守り?」


「だって、真ん中に山の模様が入っていたじゃないか」


 ――――!!


 あれ、鳥ですけど!!


 *大地の守り


 って、魔道具判定のなにかですら、山って思ったってことか!!!!


 あー、そうかいそうかい!! 昔から個性的な絵だとかピカソの絵に似ているだとか画伯呼ばわりされていたけど、彫金ですらそうだとは……!!

 それなら最初から、山だと思って作ってやる! 三角形の小さな金をミスリルの台に付けて――。




 そしてあたしが我を忘れて作り込んだペンダントトップがこちらになります!


【魔道具:ノームの王のおまもり|ランク:A】

 防御力 3

 *厄災除け

 *大地のゆりかご

 *ノームの守護

 *物理攻撃力強化 レベル3

 *物理防御力強化 レベル3

 *魔法攻撃力強化 レベル3

 *魔法防御力強化 レベル3

 〇材質:ミスリル(極上)金(極上) 〇価値:高

 ※ノームの王がずから作り上げた品

  厄災から身を守り、装備者が正常に眠る時、半径一メートル以内に入った者はみな安眠状態になる。


 必要な効果がしっかり現れてるけど、なんか屈した気持ちになるのはなんでだろう……。





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