王、出会う
土界の最下層。
さっき入って来た場所へ戻って来ると、境結壁の向こう側に誰かいた。
向こうからは見えていないはずなのに、こっちを向いて正座している。
「……何かいるんですけど……」
『ああ、あれは王の側近のミソル。あやしい者じゃないから大丈夫だよ』
「いやいやいやいや、頭の上に耳付いてるよ?! よく見たら背中の方にふさふさの長いしっぽがゆらゆらしてますけど?!」
『彼はイタチ族の獣人なんだ』
「獣人……」
『獣人というのはその獣の神から力をもらった人の一種だから、キミとそんなに変わらないよ』
そういうもんなの?
向こうを見ると、正座の獣人は期待を顔に浮かべてじーっとこっちを見ている。
年は同じ位かな。茶色の髪の間から控えめな耳が見えているのと、しっぽがあるのを除けば、確かにあたしたちと同じ普通の子のようだった。
……でも、イタチというより散歩を待っているワンコね。
黒い大きな瞳をじーっと壁に向けているひたむきさに負けて、あたしはそちら側に出ることにした。
「王!」
ピカーっと輝いた顔の後ろでしっぽがパタパタと振れている。
これどう見てもワンコでしょ。犬族。
「えーっと……こんにちは」
とりあえず挨拶してみた。
正座をしたままの彼は一瞬ポケーっとなり、顔を赤くして話しだした。
「あっ、あのぉ、オレ、ミソルっていいます。王の側近です」
「えーと……ミソルくん?」
「いえ! ミソルで! みんなもそのまま呼んでください。あの、こんな可愛い王は初めてで、ちょっと緊張してて……」
可愛いはまぁ社交辞令だとして、獣人じゃない人が珍しいのかもしれないなぁと、大きな目の優しげな顔立ちが赤く染まっているのを見ていた。
「……うん、あたしもどうしたものかと戸惑ってるんだけど」
首を傾げると、ミソルは慌てて顔を振った。
「ごめんなさい! こんな知らない所に来て、王は不安ですよね。オレたち側近がついてます。ちゃんと守りますから、安心してください」
丸っこい耳がピンと立ち真剣な顔で見上げている。
とてもまっすぐな目だった。
そこへお腹をゆさゆささせながら走って来たのは、あたしよりも背の低い小太りの男の子だった。
「王! こちらの
上気したほっぺをつやつやとさせ、ミソルの横に片膝をついて座る。そして王笏を捧げたまま
「側近のデブラと申すだっす。若輩者だすが、よろしくお願いするだっす!」
『デブラはドワーフだよ』
獣人にドワーフ。もうドワーフぐらいじゃびっくりしないね。小さい普通の人に見えるもん。
デブラから差し出されたのは腕ほどの長さの銀色の棒だった。先には鋭く尖らせた黒い石が付いている。
手に持ってみると、しっかりと心地よい重さ。
頭の黒い石は
王笏を手にしたあたしを、二人は感極まるといった感じで瞳をうるうるさせながら見上げている。
あああぁ、そんな、大層なモンじゃないんだけど……
期待されると困ってしまう。
あたし、ホントにただの女子高生だし。
『今回は王がなかなか見つからなくてね。みんな不安の中で待っていたんだ。だからキミが来てくれて本当にとても喜んでいるんだよ』
ディンの声もどこかしみじみとして聞こえる。
王の不在っていうのが不安だったのかな。きっと大事な存在なのだろうし。
だけど、あたしがホントに王かどうかも分からないと思うの。
もしそうだったとしても、その役割をちゃんと出来るのかどうかも分からないし。
なんであたし? って誰かに聞いたら答えてくれるのかな。
あ、ノームのしるべが選んだんだっけ。今、どこにいるのよ。
まぁ、でもしばらく帰れそうもないし。
何か意味があって、出来ることがあって、呼ばれたのかもしれないなら。
ちょっとでもやってみようか。
あたしは王笏をぎゅっと握りしめた。
「あたしの名前は
上手く笑えたかどうかは分からないけど、二人はそれぞれ笑顔で応えてくれた。
「はい、ルリ様! なんでも聞いてください!」
「もちろんだっす! もうすぐ王を歓迎する宴が始まるだすよ。さあ、どうぞだっす!」
この通路にまで賑わう声と音が聞こえている。
聞こえてくるのは元々の世界と変わらない喧騒だけど。
地下世界。獣人とドワーフがいる世界。どんな暮らしになるんだろう。
不安もあるけどわくわくした気持ちも大きくて、あたしはドキドキしながら二人の後についたのだった。
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