側近、王にはナイショ(3)

 買い物が楽しくなってしまったらしいルリ様は、お茶菓子もさっさと自分で買ってしまい、お好みのテーブル飾りを探しています。このままではこれも手出しが出来ずに買われてしまいそうです……。


「これにしようかな。ミソル、これどう? キャンドルスタンドと花器の下に敷いて映えそうかな?」


 いろんな色の織物が並ぶ店内で、真剣に選んでいたルリ様は深緑色に黄色の線が入ったテーブル飾りを手に持って振り向いた。


「すてきです! ルリ様に合ってます!」


「ち、ちがう! あたしじゃなくてテーブル!」


 顔を赤くして口をとがらせているのもかわいいです!

 ぽーっと見ている間に、ルリ様はさっさとお金を払ってしまった。


 オレが買うはずだったのにー。

 となりで笑っているルリ様がかわいいのでつい流されてしまうけど、髪飾りこそはオレが買うんだ。


 お茶菓子とテーブル飾りを抱えてルリ様の後ろを歩くと、賑やかな中央通がもっと楽しいドキドキする通りになった。

 いつもなら通りすぎてしまう古物の雑貨屋も、いっしょにガラス窓の中の棚を見るときらきらして見えた。

 ランプや宝石箱と並んで、腕輪や髪飾りも並んでいる。


「……鑑定」


 ルリ様は鑑定しているみたいだ。

 好きなのがあったのかな。


 たくさん並ぶ中で、紺色の石が入った髪飾りが目に留まった。

 金色の長い四角の台に飾り彫りがされていて、真ん中に石が入っている。

 紺色の中に金色がちらちらと見えていて、夜空のような石だった。


「ルリ様、あの、紺色の石の髪飾り、どうですか?」


 そう言うとルリ様はおどろいた顔でオレを見上げた。


「あの紺の石はラピスラズリっていう石なんだよ。あたしたちの国の言葉では瑠璃ルリって言うの」


「ルリ様のお名前の石ですか?」


「そう。そこから付けられてるんだよね」


 それは初めて聞いた! ルリ様の石すてきです! オレが欲しい!


「中で見ませんか? あれ、きれいです」


「あたしもいいなと思ったんだ。でもミソルが欲しいなら譲るよ。ちょっとお高いし」


「はい! オレが買います」


 中でお金を払って包んでもらうと、ルリ様が聞いてきた。


「ミソルがつけるの?」


「オレはつけないです。これはルリ様のですー。ルリ様の石はきれいだったから欲しいけど、今度髪飾りじゃないものを探します」


 あ、なんか固まってる。


「おつかいにありましたよね。ルリ様の髪飾り」


「えっ、ないない! なかったよ?」


「あれ? そうでしたっけ?」


「うん」


「……それなら、おつかいじゃなくて、オレからのプレゼントに出来るってことですね!」


「えっ」


「ルリ様にプレゼント出来るなんてうれしいです! あの、よかったらつけてみてください」


 オレは小さな包みを、ぽかんとしたルリ様に手渡した。


「ありがとう……。いいの?」


「はい! オレがつけましょうか?」


「だ、大丈夫、自分でつけられるよ」


 指で髪を上げて髪飾りをつけるルリ様を見ていると、うれしいけどくすぐったいようなはずかしいような、なんか落ち着かない気持ちになった。

 頭の上の方に納まった髪飾りは、金色も紺色の石もその黒髪にとってもよく似合っていた。




 通りの天井から連なって下がっている日水晶ひすいしょうはもうオレンジ色も静まってきて、代わりにその周りの燐光石が光を帯びているのが分かる。

 夕方の中央通は、昼行性の仕事終わりの人や夜行性のこれから仕事へ行く人でますます賑わっていた。

 そんな中、


「あれ?ルリ様!こんばんはっ」


 そう言って声をかけてきたのは、統治管理室でラク様の補佐のような仕事をしているイーミアだった。じつは家が近所のお姉さん。


「あれ、ミソルもいっしょですかぁ。デートですねっ?!」


「はいっ!」


 オレがそう返事をすると、ルリ様は、


「えっ、おつかいじゃないの?!」


 と言うので、説明をする。


「ルリ様、好きな人といっしょにおでかけするのがデートっていうんですよ。だからデートしながらおつかいであってます」


「いやいや、ミソル。好きどうしじゃないとダメなんだぞぅ。片方が好きなだけじゃダメ」


「あれ? そうだっけ? じゃ、半デート?」


 横を見ると、ルリ様は片手で顔をおおっていた。


「……ルリ様、お察ししますぅ」


 イーミアはそう言うと、ルリ様の手をつかんだ。


「今度、いっしょにごはん食べに行きましょう。ミソルの子どもの時のおもしろい話がいっぱいありますよぅ」


「え、楽しそう! 行きたい! 侍女の子たちもいっしょに来れるといいんだけど」


「女子会っすね! いいですねぇ! 楽しみになってきましたっ! いつにします?」


 ルリ様とイーミアはすっかり盛り上がっている。

 あぁー、オレのおバカな過去がルリ様に明かされてしまうー。

 すごいはずかしいけど、ルリ様が楽しそうだからいいか……。


 力が抜けた素の笑顔の上に、髪飾りが光っていた。


 そうだ、オレが小さかった時に、いろんなことを教えてくれた王が言ってたっけ。

『好きな女が笑っていればそれでいいんだ』

 って。


 こういうことですか王。

 なんかちょっと違う気もするけど、いいことにする!

 だって、どんなことでも、ルリ様が笑っていてくれるとうれしいから。

 うれしくてうれしくて、わー好きー!! ってなるから。


 だから、ルリ様。

 その笑顔、ずっとオレに守らせてくださいね。



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