幕間

コッフェリア王国むかしばなし

「おひめさま と あかいゆびわ」


* * *




昔々、あるところに、大きな国がありました。

大きなお城にかわいらしいお姫さまが住んでおり、何不自由なく暮らしていました。


お姫さまは、いつもたくさんの宝石に囲まれています。

ダイヤモンドの首飾り、サファイヤの腕輪、ルビーの耳飾り、エメラルドの王冠、どれも美しく立派です。


でも、お姫さまの一番のお気に入りは、真っ赤なガーネットの指輪でした。

その指輪はお姫さまにとてもよく似合っていました。


「赤くてきれいね。いつもいっしょよ」


お姫さまは赤い指輪をいつも身につけていました。

どこへ行くのもいっしょです。

うれしい時ははなしかけ、かなしい時はその赤色へなみだを落とします。

となりの国の王子さまとけっこんしてからも、いっしょでした。


やがてかわいらしい女の赤ちゃんが生まれ、ガーネットの指輪はその小さいお姫さまへプレゼントされました。

お母さまからもらった指輪を、小さいお姫様も大事にしました。


けれどもいつしか「古くていやなの」「色が好きじゃないわ」と、つけられずに忘れられていきました。


赤い指輪はそんなことを知りません。

いつつけてもらえるんだろう!と、わくわくしながら宝石箱の中で待っています。


長い長い年月が経ちました。

これはおかしい。

赤い指輪は思いました。

ちょっと外のようすを見てこよう。

赤い指輪は、えいっ!と飛び上がると、宝石箱のふたを、するりと通り抜けました。


外はお姫様の部屋ではありませんでした。

古びた椅子やツボなどが並ぶ、見たことがない部屋です。


部屋の外に出て、ふわふわとお城の中を飛んでいきます。

最後に見たお城のようすとは、ちがいます。

どうして誰も人がいないのでしょう。

物がちらばっている部屋もあります。

お姫さまはいったいどこにいるのでしょう。


扉の中から、なにかの音が聞こえたような気がしました。

赤い指輪が入っていくと、たくさんの物を押しこめた奥に、誰かがいます。

奥には小さく丸まったお姫さまが倒れていました。


「ねえ!だいじょうぶ?」


赤い指輪はお姫さまをよびます。

最後に見たお姫さまとはちがうお姫さまだけれども、大好きだったお姫さまと同じにおいがします。

お姫さまはうっすらと目をあけました。


「まぁ、精霊さんが見えるわ。ここは天国かしら」


「ちがうよ。きみは生きているよ。どうしてこんなところにいるの?」


「魔王がせめてきたから、私はここに隠されたの。何日もここにいたわ。でももうだめみたい。最後に精霊さんに会えてよかった」


お姫さまは今にも死んでしまいそうです。


「死んではだめだ!ぼくが助けを呼んであげるから!」


赤い指輪はとてもとても強く願いました。


誰か助けて!

ぼくの大事な人の子どもが死んでしまう!


赤い指輪は、昔、大地から生まれたことを思い出します。


助けて!大地の王!ノーム!

ぼくはどうなってもいいから!!

この子を!!


その時です。


金色の光が辺りを照らしました。


「その願いかなえよう」


金色の光は赤い指輪をつつみこみ、いっしょにすうっと消えてゆきました。



そのすぐあとに、白い馬に乗った王子さまがお城にやってきました。


「やはり間に合わなかったか。姫だけでもお助けしたかった」


悲しむ王子さまに、金色の光が導きます。


さあ、こちらだ。


金色の光は城の奥へ奥へと入っていき、ひとつの扉の中に、すーっと消えました。


王子さまは部屋の扉をあけました。

たくさんの物の奥に姫が倒れているのが見えます。


「姫!」


王子さまがかけよると、お姫さまは目をあけました。


「ああ、王子さま。これは夢でしょうか」


「いいえ、夢ではありませんよ!お助けできてよかった!」



こうしてお姫さまは助け出され、王子さまと結婚して幸せにくらしました。




* * *



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