第四章 完全犯罪

王・ルリの地下日誌5

王、都へ舞い戻る

 コッフェリア王国から帰ってきた三日後。

 あたしはベリアの荷物を持って転移し、「ノームの知恵」の地下室前の土界から出た。

 勝手しったるで階段を上がっていきお店に「こんにちはー」と顔を出すと、店番をしていたらしいベリアがポカンとした後「王様ーーーーー?!」と大声をあげた。


「あ、ベリア! いてよかった! 荷物持ってきたよ!」


「え、あ、ありがとうございます……って違います、王ルーリィ! なんでここにいるんですか?! 馬車は?!」


「転移してきたよ。ほら、地下室前に土界で穴を埋めたでしょ、あそこに」


「えっ、土界が一続ひとつづきじゃなくても転移というのができるのですか?」


「うん、できちゃった」


「……まさか、それを見越してあそこに土界を……」


「うん?」


「いえ、なんでもありません……」


 ベリアの声にドワーフの職人さんたちも集まってきて、みんなすごいびっくりしていた。まぁそりゃそうだよね。帰ったと思ったらまたいるとか。

 説明したらみんな笑ってくれてよかった。

 また時々遊びにくるのでよろしくお願いしまっす!


 お店の応接スペースに案内されてベリアがいれてくれた紅茶をいただく。やっぱりコッフェリアのお茶は香りがいいなぁ。

 お店には他に人影がなかった。今日は前統治長のマディリオ様はいないらしい。営業かな?

 「そうそう」と前のソファーに座ったベリアが体を乗り出した。


「お城で大変なことがあったのですよ」


「大変? あの壁穴事件じゃなくて?」


「ええ、まぁあれも大変なことでしたけど、その後勇者さまが行方不明らしいのです」


「……え」


 今のところ、外部には公表されていないみたいだけど、城内ではちょっとした騒ぎになっているらしい。


 まぁ、ずいぶん苦労していたみたいだからね。よかったのかな。

 なんのあてもなくは飛び出さないだろうし。


 あ、ということは、もう魔王も気にしなくていいってことか。それはいい! 心配ごとが一つ減ったよ。

 それにしてもどこでなにしてるのかな。

 タクミは結構しっかりしているから大丈夫な気はするんだけど、やっぱりちょっとだけ心配……。


「王子殿下が大慌てみたいですよ」


「それは、自業自得だよねぇ。お城で働いてるお姉さんたちも言ってたよね。勇者にも王位にも逃げられちゃうって」


「本当にそれなんです。今、必死に探しているみたいですけどね」


 あ、そういえば、昨日報告があった。

 麓の町にコッフェリア王国軍らしい人影があったって。

 そっか。タクミが行方不明で探しにきた人たちなのか。


「そうなんだ……勇者がどうなったか気になるから、また近々来てもいい?」


「ええ。いつでもいらしてください。また情報を入れておきますし、マディリオ様もルーリィに会いたいと思いますからね」


 そう言ってもらえるとまた来やすくてうれしいな。

 料理人のタヌキ族のおじさんにお昼ごはん食べていくかい?と言われたけど、遠慮して地下国へ帰って来た。

 今日はこっちのお昼ごはんもステキごはんなのだ!

 土界から王居住区に向かいつつサークレットを外すと、ディンがリス姿に戻る。


「王、ごきげんだね」


「ふふふ~。ディンもごはんが食べられたらよかったのにね」


 肩に乗ったディンからは「ふうん、別に」なんて返ってきたけど、キニシナイ!

 ただいまーと食堂へ入っていくと、側近たちとロイソルが昼食の準備をしていた。


「ルリ様、あのレシピを作ってみましたよ。ちゃんと再現出来ているか心配ですが」


 ロイソルがそう言って厨房から持ってきたのは、丸くてふんわりこんがり焼けたお好み焼き!


 コッフェリアからのお土産に小麦粉が入っていたので、料理長ロイソルにお好み焼きを頼んだの。ホントは自分で作ろうかと思ってたんだけど、「王に料理をさせるなんて、料理長として許されません!」とお許しが出ず。


 キャベツは地下国にないので、千切りにした葉物野菜と鶏ひき肉と卵と山芋をすったもので作ってもらった。キャベツはなくても大丈夫。もやしでもおいしいし、細切りのじゃがいももいけるんだよね。


 側近たちと三人でテーブルについて、「いただきます」と手を合わせる。代々の王たちがやってきたとかでここも日本と同じ風習。


 野菜と香辛料を煮詰めたソースと新鮮卵のマヨネーズをかけて一口ぱくりと食べれば、違うけどなつかしい味がした。


「おいしい……」


 外はカリっと、中はふっくら。山芋いっぱい入っているのかな。手作りソースと鶏肉だからか優しい味になっている。いい感じー、ウマ=。


「おいしいだっす!」


「すごくおいしいですー。ルリ様のおうちで食べられている料理なんですか?」


 側近たちにも好評の模様。二人ともパクパクと美味しそうに食べている。


「うん。家でもお店でも食べられるよ。でもこっちの方がふっくらしてるー」


 あたしがそう言うと、初料理の評価が気になって珍しく食堂に残っていたロイソルがニコニコしている。


「外側はフライパンで焼いて、オーブンで仕上げてあります」


「そうなんだ。すごいおいしい! 料理長ありがとう」


 これで午後からの作業もますますがんばれるよ!

 この後は久しぶりに作り族の作業場へ行って、ちょっといろいろ細工長ドレンチに相談することもあるし。相談っていうか、ワガママ言いにいくとも言う。

 あたしだけこんなおいしいものを食べて悪いなぁとは思うんだけど、モリモリしっかり食べて働かないとね。


 タクミもどこかでちゃんと食べているといいんだけど。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る