王、再会する
街へ戻り、建物や植物などを眺めながら三人で散歩をしていると、バサバサと鳥たちが飛び立つ音と同時にザワッとした気配が辺りを包んだ。
「――めんどうだわ。あなた魔法使いならすぐに入り口に連れて行けないの?!」
「行けるものならとっくに行っていますよ。高級人形様?」
「そうよ! 王子の寵愛も得ている美しい人形のごとき私がなんでこんな?! ああ!! イヤ!! もう毎回毎回こんな獣臭い所を通って行かないとならないなんて!」
のどかな空気を無遠慮に壊していく、
勇者パーティだ。
町の入り口側から山の方へ向かって歩いて来る。
ミソルとデブラはあたしをかばうようにして立ち、目立たない建物の影へと移動した。
目の前でミソルのしっぽがピーンと立っている。
あたしは二人の後ろからこっそりとその集団を観察した。
「お前たち、静かに出来ないのか。ここで暮らしている者がいるんだぞ」
そう言ったのは、一番前を歩いている獣人の女の人だ。
地下では見ない先っちょだけが黒い立派な白い耳とフッサフサのしっぽがあり、革の鎧を着て短剣を腰から下げている。
あ、この間見た時より装備がちょっとよくなってる。前は革の胸当てだったから、だいぶいいね。
その後ろの子どもだと思っていた人は、明るい所でちゃんと見るとドワーフの女の子だった。弓を背負い大柄な獣人の後をちょこちょこと歩いている。
その後ろにローブ姿の男の人とピンク色のワンピースを着た女の人がいた。
思わず二度見した。
胸元にはレースのバラがあしらわれて、裾のフレアーも可憐に揺れるピンクのワンピース。手に持ったワンドは宝石で飾られキラキラと輝いている。
アレでダンジョンに行くんだ……。
何度まばたきしても、冗談にしか見えない姿が消えることはなかった。
列の最後に無言でむっつりと歩いているのは、あの時会った視線の強い黒髪黒目の勇者。
あたしたちの前を通り過ぎる時に、ちらりとこちらを見て。
あっ!! という顔をした。
マズイ。
三人共通の認識で、顔を背けてそっと勇者たちが通り過ぎていった道を早足で進んだ。
「――待ってください!!」
よく通るはっきりとした声が追いかけて来る。
聞こえなかったフリでこのまま逃げ去ろうとした時。
「待って!――松高の部長!!」
ここで聞くとは思いもしなかった単語があたしを絡めとった。
立ち止まって振り向くと、集団から離れ一人で追いかけて来ていた、勇者が立っていた。
「……志村瑠璃さん、ですよね……?」
かばうように立っていたミソルとデブラが驚いて、こっちへ振り向いた。
「な、んで……?」
「俺、青砥工業高校木工部の深沢匠っていいます。研究会で何度か会ってるんですけど」
かすかな記憶が思い出される。青工の子であたしの作品を食い入るように見てた一年生がいたけど、そういえばこんな顔してた……?
どうして勇者にと言いかけた時に、深沢くんははにかんだように笑った。
「指輪、ありがとうございました。助かってます」
ああ、よかった。ちゃんと必要な人のところへ行ってた。
「……役に立ってよかった。あの、他は大丈夫?困ってることとかない?」
「今度、ゆっくり話がしたいんですけど、会えませんか?」
まっすぐな視線とまっすぐな言葉。
ミソルのしっぽが逆立った。あたしもぎくっとなった。
(え、会うって会うって?! 何?! ど、どうしたらいいの?!)
(彼はキミを王だと知ってるから、会うのはあまりよくないけど)
(ダメだっす! ノームの王と知られているなら余計にだっす! ノームの王には宝の山という言葉が付き物なのだっす。どう悪いようにされるか分からないだっすよ!!)
(でもルリ様が望むならオレがついて行けばいいし……)
コソコソと話しているあたしたちに、深沢くんはちょっと首を傾げた。
「俺、次回来る時にここの町に泊まっていきますから、もしよかったら……その時に」
「約束は出来ないけど……」
「それでいいです。じゃ」
ちょっと笑って彼は
後ろ姿が見えなくなるまで見送って、息を深く吐いた。
「はぁ……びっくりした……」
「ルリ様の知り合いだっすか?」
「そう、だね。学校の……学校って分かるんだっけ?」
「分かります。勉強する所ですよね。オレたちも二五歳までは学校に行くんですよー」
「そうなんだ。そう、その学校の知り合いって感じ」
青砥工業の木工部は木工しない木工部で有名だ。学校に溶接の設備があるから、アイアンの飾り棚とか素敵なのを見たっけ。
ちょっと、や、かなりうらやましかった覚えがある。
でも、なんでそんな子が勇者に……
さっきの背筋の伸びた礼儀正しい姿を思い出す。
あたしと同じように、こっちに呼ばれたのかな。
あ。ということは、彼が、魔王の元まで行くんだ――――向こうの世界で普通の高校生だったはずの彼が。
ダンジョンでできることってあるよね。
装備とか、経験とか、役に立てるかも。
うん。彼は絶対に無事に日本へ帰らせないといけない。
あたしはぎゅっと拳を握りしめた。
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