王、怒る

 ちょっと離れた広場まで行って、片手でペンダントトップを持ち三角すいの中に話しかけてみる。


「ミソルー、聞こえますかー?」


 声を出すとペンダントトップは一瞬ブルっと震えた。

 言い終えてから耳の方へ向けていると、


『――ま! 聞こえますー』


 と、ミソルの声が聞こえた。

 よっしゃー!! 成功!!!!


「聞こ「……xxx! xxx……」」


 返事をしようと口元へ持っていったところでミソルが何か言ったらしいが、そこまで離すとよく聞き取れなかった。

 聞く話す同時の会話は無理っぽい。まぁ、それはいいや。どうせスマホでも聞きながらは話しづらいしね。

 あとは、話終わったら「――どうぞ」とつけて次の話す人に回すとか、ルールを決めれば大丈夫だろう。


 作業場に戻って二つを見ながら動作確認すると、最初の問いかけの間は、相手が手に取らない限り双方ブルブルしているということがわかった。

 たとえば、「ミソル、聞こえますか」と問いかけている時は、向こうが手で持たない限りこちらもブルブルしている。

 相手の方は、手で持たない限り声は聞こえずブルブルするだけ。手に持つとそこから声が聞こえるようになる。

 さっきは最初からミソルが手に持っていたので、一瞬ブルっとしてすぐ繋がったということみたいだった。


 ルールとしては、最初に相手の名前を言って「ミソル、こちらルリ。取れますか」というふうに呼び出して、相手が通信出来ない場合も考慮して2回呼んで出なかったら、緊急ではない限り時間をおく。

 呼び出しの時にブルブルが止まったら相手が通信出来るということだから、もう一回「××さん、こちら○○。取れますか。どうぞ」と言う。

 で、一回一回話の最後には「―――どうぞ」を付けて、順番に話をする。

 最後は、「――通信終了」で終わりでいいかな。

 こんな感じでどうだろう? 使えるんじゃないかって気がするんだけど。


 ミスリルで三角すいをもう一つ作って、今晩は終了。デブラのやつの改造とさらなるテストは明日ね。




 翌朝。

 起きて思い出したんだけど、あの通信具ってようするに無線機じゃない?

 ドラマで警察が「……こちら何々、ナントカです。どうぞ」とか言ってるアレ。

 電話を目指していたはずなのに、なんで業務用っぽい道具になってしまったのか……。うん、まぁ、業務用の予定だったから、いいんだけど。アレちょっとかっこいいし。


 デブラのも改造して、三人バラバラの場所へ行きテストをしたところミソルにもデブラにもそれぞれ繋がった。

 確か、名前を入れなければどっちもに送れるんだったよね。ついでに一斉送信のテストもしてみようかな。


「ルリです。取れますか」


 ブルっと震えてすぐに止まったので、続けて送信。


「ルリです。取れますか、どうぞ」


『『ミソルデブラですだっす。取れるますだす。どうぞだっす』』


 と、二人の声が聞こえた。重なって聞きづらいけど、二人とも取ったんだというのはわかる。

 このまま会話はちょっと無理だけど、連絡事項を同時に伝える時は便利かも。


「遠くでも使えるかテストしたいので、コッフェリアの『ノームの知恵』に行って向こうからまた通信します。どうぞ」


『『え?! 今か了解だっす。か?! どうぞだっす』』


「では、またのちほど! 通信終了」


 おお。便利!

 ミソルがなんか言ってた? よく聞こえなかったからあとで聞こうっと。


 たいまつ通路の近くにいたので、ちょうどよかった。

 朝なのでまだ寝ぼけて肩でふんにゃりしていたディンを頭に乗せると、すぐサークレットに変わった。寝ぼけていても、仕事は早い!


 土界へ入り、すぐにコッフェリア王国の「ノームの知恵」地下へ転移して、土界から出たところで通信具に手をかけた。


「ルリです。取れますか」


 ブルブルっとして静かになったのでもう一度送信。


「ルリです。取れますか、どうぞ」


『『ルリさデブラフェだっす。か?! だい取れるですだっす。か?! どうぞだっす』』


「コッフェリアに着きました。こっちの状況を聞いて帰ります。どうぞ」


『『了解ですだっす。どうぞだっす』』


「なにかあったらまた連絡します。通信終了」


 見てよ、このスムーズな意思疎通! こんな離れた距離でも大丈夫なら無線に負けてなくない?!


 上機嫌で階段を上がっていき、開店間近のお店へ顔を出した。


「おはようございまーす」


「おはようござ……ルーリィ!」


 目を見開いたベリアは、せっかくのクールビューティがキュートになっちゃってる。

 キザなイケおじ様、前統治長のマディリオもいた。


「おお! ルールィ、いらっしゃい。相変わらずかわいらしい」


「おじゃましてまーす。あの、お城どんな感じですか?」


「それそれそれです!! ルーリィ、待ってたのですよ!!」


 ベリアが近づいてガツっとあたしの手を取り、真剣な顔で言った。


「勇者様が捕まりました」


 ――え? タクミが捕まった?

 はい? とマヌケな顔で見返すあたしに、今度は困った顔をしたマディリオが手であごをさすりながら補足してくれる。


「ベリア、それではルーリィが誤解してしまうよ。勇者様は保護されたのだ」


「でも、ブランの町で見つかって無理やり連れ戻されて、軟禁状態ですよ! 捕まったの方がぴったりです」


 そっか、ブランにいたんだ……。

 なにを思っていたのかはわからないけど、地下国に、ダンジョンに、一番近い町へ逃げて来ていたタクミを思うと、胸が痛んだ。

 それと同時にこみあげてくるのは、王国への怒り。


 タクミが眠らせてもらえないって言ってた前回の軟禁もホントどうかと思ってたんだけど、また無理やり連れ戻して軟禁とかもう許さない。


 ――あの金髪おかっぱクソ王子!!


 この国に勇者は上等過ぎる! よって地下国がさらっていくからね!!





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