側近、王にはナイショ(2)
ルリ様が土界から出てきた時、いつもよりも硬いむずかしい顔をしていた。
アルマンディン様はサークレットのまま、ルリ様の腕にぶら下がっているし、どうしたんだろう。
オレは何も聞けないまま、賑やかな中央通をルリ様と歩いていた。
「ルリ様、ルリ様。イモプリン食べませんか」
振り返ったルリ様は目を丸くしている。
「イモプリン?」
「はい。サツマイモの上にクリームがのってるんです。おいしいって人気なんですよ」
「あ、でもあたしお金が……」
「それはオレが出します。でも、ルリ様はあの祠から受け取ったお金を使っていいんですよ」
「そうなの?」
「はい。あれは王のお金になります」
「ダンジョンの運営費と生活費って考えていいってことかな」
あ、なんかむずかしい話になってきた。
「そう、です。いいです」
オレがそう答えると、ルリ様の顔がちょっと明るくなったような気がした。
「じゃ、材料費を作り族に払えるね。食費も払える! 武器とか防具の発注も出来る?」
「えーっとお金とかは、統治管理室で分かると思います。たしか、払うのも統治管理室だったかな……発注は鍛冶長か細工長に相談したらいいです」
そうだった。
先代の王もお金のことはきちんとしたいって言っていた。
どうせ持っては帰れないんだし、お金はちゃんと回してやらないとって。
ルリ様も気にしていたんだ。
「ルリ様、入りましょう」
オレはルリ様の肩をそっと押して、お店へ入った。
中はお金を払うカウンターと、奥にテーブルセットがいくつも並んでいる。
席はだいたい埋まっていたけど、空いているところもあった。
カウンターの前に立つと、エプロンをしたタヌキ族の女の人が「こんにちは」と声をかけてきた。
ルリ様はこんにちはと答えながらも、きょろきょろとお店の中を見回している。
「ルリ様も、イモプリンでいいですか? ふつうのプリンもありますよ」
「あ、うん。イモプリンにしてみる」
「タンポポコーヒーと根っこ茶とどっちがいいですか」
「……どっちも飲んだことないな。いつも食堂で飲んでいるのがタンポポ茶だっけ?」
ルリ様がそう言うと、お店の人が、
「根っこ茶はゴボウとタンポポのお茶です。タンポポコーヒーは煎ってあるので、タンポポ茶より香ばしいんですよ」
と答えてくれた。
「香ばしいんだ。美味しそう。それにしようかな」
「オレもタンポポコーヒーください」
「はい。では、イモプリン二つとタンポポコーヒー二つで、六銅です」
腰に下げている革袋に手を伸ばすと、ルリ様が「ちょっと待って」と言って、肩からかけている鞄の中をのぞいた。
「銀貨は銅貨の上で合ってる? 銅貨何枚で銀貨?」
「銅貨十枚で銀貨一枚です」
「じゃ、はい」
ルリ様は得意気に銀貨をお店の人に渡した。
そしてオレの方を見て
「初めて買い物した!」
と笑った。
久しぶりのぱーっとした笑顔だった。
うわーってオレもうれしくなる。
ルリ様かわいい! うれしいうれしいうれしい!
テーブルの向かいでイモプリンを食べながらもルリ様はごきげんで、ニコニコしている。
「ん!サツマイモのペーストの上にカスタードクリームがのってるんだ。卵たっぷりのクリームおいしい!」
でも「名前がもっとかわいければいいのに」だって。
イモプリンかわいくないのかー。かわいい名前ってどんなのだろう。
地下国は卵だけはたくさんとれるから、卵料理は充実していた。
山の中腹のガケ上の、下からは来れない切り開いた場所に畑とトリ小屋があって、昼夜掘り族が管理している。
畑はほとんどイモ類ばかりで、先代の王も先々代の王もおコメが食べたいおコメが食べたいと言っていた。
おコメ。オレは見たことも食べたこともないんだけど、王たちを夢中にさせる食べ物はちょっと気になっている。
そしてルリ様といえば、そういうことを口にしたことはない。
もしかしたら、気を使って言わないのかもしれない。
目の前に座るルリ様が楽しそうなので、オレはテーブルに置かれたサークレットにこそっと言ってみた。
「アルマンディン様、謝るなら早い方がいいですよ。後になればなるほど怒られますよ」
サークレットがぴくっとした気がした。
ルリ様はおもしろそうな顔をして言った。
「ディンが悪い前提なんだ? っていうか、後になればなるほど怒られるのは経験上?」
「あはは……はい。経験上です」
ふふふっと笑って、ルリ様はぽつぽつと土界の中の話を聞かせてくれた。
なぞの古い土界。
それは聞いたことがない話だった。
前の王たちはなにも言っていなかった。
たしかにラク様にも聞いてみた方がいい話かもしれない。
「……やっぱり統治管理室に行きますか?」
「うーん……知りたい気持ちはあるんだけどね。ちょっと時間をおいてもいいのかなって。ディンがもしかしたら言いたくなるかもしれないし。だから今日はおつかいと買い物するよ。来てみたかったからうれしい」
土界から出てきた時よりもずっと明るい顔でルリ様がそう言うので、オレはうれしくて、父ちゃんの言うとおり買い物に来てよかったなーと思った。
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