王、失敗作を作る

 昼食の後、ミソルは麓の町の見回りへ、あたしとデブラは作り族の作業場へ向かった。

 王居住区に作業場が出来てからすっかりご無沙汰だった作業場に入って挨拶しながら奥へ向かうと、職人ドワーフたちから久しぶりだなーと声をかけられた。ホント、久しぶり。半月ぶりくらい?もっとかな。


 奥へ行くと革の作業場に細工長ドレンチがいた。大きな革を前にして手をあごにあてている。


「ドレンチ様、今、大丈夫だすか?」


「こんにちはー」


「いいわよ……あらルリ、久しぶりじゃないの。そっちの作業場はどう?」


 立派なおひげにおめめぱっちりまつげバサバサのドレンチが手をひらひらさせた。


「すこぶる快適でっす! いつもメンテナンスありがとう」


「いいのよぅ。整備係にも言っておくわ。で、どうしたのよ?」


「薄い板状の水晶が欲しいんだけど、そんなのあるかな?」


「水晶の薄い板……? 切り出せば出来ると思うけど。となりに石の切り出し場があるから、そこでやってもらったらいいわ。水晶はいっぱいあるから大丈夫よ」


 お許しが出ました!


「ルリ様、案内するだっす」


 デブラの後について作業場にある扉からその先へ行くと、大小多数の鉱石の塊が置いてある中で職人さんが機械で石を削っていた。

 ぐるぐる回る円盤型の砥石に押し当てた石が、まるーくまるーくこぶし大の玉の形になってくる。最後にはきれいな球形になって占いに使う水晶玉みたいだった。

 作業が一段落したのか、石を削っていた職人さんが手を止めてこっちに気付いた。


「デブラと王だか。どしただ?」


 ニコニコしながら声をかけてくれたので、水晶の板が欲しいという話をした。


「厚さは割れない程度に薄くで大きさは1センチ……じゃ小さいか、1センチ3センチくらいのを三枚お願いしたいんですけど」


「おう、わかっただ。ちょっと待ってるだよ」


 おじさんドワーフは手近にあった石を一つ手に持つと、機械を動かしはじめた。二台ある機械の小さい方だ。回る刃に石をあてると、少しずつ石が切れていくのが見えた。ダイヤモンドカッターかな。回転する刃の両脇からは白い粉が舞い散っている。なかなかの迫力。あの刃、ちょっと怖い……。

 ディンもそう思ったのか、肩の上で耳にぴったりくっついている。


 さほど時間はかからず水晶の板が切り出され、砥石で磨かれてほいよと厚さ1ミリほどのものを手渡された。


「すごい早いー! キレイ!」


「こんなもんでいいだか?」


「いいです! ありがとう!」


 またいつでも来な! とおじさんに見送られて、部屋を後にする。

 さてここからが問題だ。

 あたしは王居住区へ戻る道すがら、作ろうとしているものについて考える。


 どういうわけかはわかんないけど、欲しい効果を強く願って作れば、そういう風にできあがるんだと思う。魔力がなんかするのかな。

 だからこの水晶は気休めなのかもしれないんだけど。


 水晶振動子とかいうのが、携帯やスマホには入ってるって聞いたことがある。水晶に電気流して振動が周波数を作るんだったかな。あんな鉱石がスマホの中に入ってるとか面白いよね。

 なので、水晶を使って通信機器が作れないかなって思ったんだよね。


 正確には切り出す角度とかもあったような記憶もあるんだけど、そんなの覚えているわけないし、だから気休め。


 ちなみに、クォーツ時計って水晶振動子が使われているからクォーツ時計っていうけど、水晶はクリスタルだよね。クォーツは石英。

 石英の中のキレイなものを水晶って言うとされてるらしいけど、父ちゃんや石屋のおじさんとかもなんでもかんでも水晶って言う。石英って単語は聞いたことがない。

 だからもう水晶=クォーツでいいんじゃないとか思うよね。




 王居住区の作業場に戻ってきて、さっそく作業を開始する。ディンは肩の上、デブラは邪魔にならない場所から見ることにしたらしい。


「今日はなにを作るだすか?」


「離れていても話ができるもの……かな」


「離れていても話ができるだすか? 音が大きくなるってことだすかね……?」


「あはは。そういう離れてるじゃなくて、地下国とコッフェリア王都とで会話ができるようになるってことだよ」


「そんなことができるだすか?!」


「やってみないとわからないんだけどね」


 ミスリルの破片と融剤フラックスに入れて溶かしていく。作るのはまたペンダントトップにするタグ風プレート。もうこんなに何回も作るならやっぱり型を作ってもらった方がいいかも。


 溶かして塊になったものを金床に置いてトントン叩いて、プレートと水晶用の石枠を三つずつ作って、ロウ付けでくっつける。薄い水晶を割らないように慎重に石枠へ入れてから、彫金で模様付け。


 この模様が大事なんだよね。

 あたしは考えに考えて、三つのプレートを三角になるように置いた。二つが接触している部分にまたがるように、ブリリアントカット型のノームの王の刻印を打つ。

 これで、あのほら、くっつけるとちゃんとした絵になるペアのペンダントみたいな感じ?になるじゃない?

 残りの二辺も同じように打刻した。


 刻印以外の場所はを軽く押し付けるようにして、一本の線がぐるりと取り囲む飾り模様を打っていく。こう、繋がっているイメージね。


 さぁ、頼むぞ!


「鑑定!」


【魔道具:ノームの王の通信具|ランク:A】

 防御力 3

 *風の便り

 *精霊のささやき

 *ノームの守護

 *魔法防御力強化 レベル4

 *魔法攻撃力強化 レベル2

 〇材質:ミスリル(極上) 〇材質:水晶(極上) 〇価値:高

 ※ノームの王が手ずから作り上げた品

  なにかを伝えたい人がいることを教える。


 …………。


 風の便りって、そんなふんわりしたものじゃ困るんですけどー?!

 デブラに一つ持ってもらって、他の一つに話かけてみる。


「……あー、あー、デブラ、聞こえますかー?」


「――――ブルブルしてるだっす!!」


 デブラの手のひらを見ると、水晶が付いたタグが細かく振動しているのが見えた。


「そっちからもちょっと話かけてみて」


「な、なんて言えばいいだすか?!」


「……聞こえますか?とかでいいよ?」


 なんだか妙に緊張したデブラがタグに顔を近づけている。


「き、聞こえるだすか?」


 すると、あたしの左右の手にある二つとものプレートが振動した。あと、何か音も聞こえた。意味はわからないけど、音。

 さっきはデブラの持つ一つしか振動しなかったから、伝えたい先を特定するとその一つに繋がって、特定しないと全部に伝えられるっぽい。

 音もブーブーって聞こえているから、伝わってきてはいるんだよ。惜しい。惜しいなー!

 あと一歩何かが足りないってことかぁ……。


 あたしは「うーん……」とうなって、天井を見上げた。





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