王、ドキドキのダンジョン清掃(1)

「ルリ様、掃除の前に武器庫で準備をします」


 武器庫、大変興味がございます!


 あたしたちは食堂のななめ前にある武器庫の前に立った。

 両開きの扉の取っ手には鎖がぐるぐると巻きつけてあり、大きな錠前が取り付けてある。デブラが鍵を差し込んで回すと、がちゃりと重い音がして錠前が開いた。


 扉を押し開いて中に入れば、壁の一面に様々な武器がかけられており、いくつも積みあがった箱や、引き出しが並んだ収納棚が並んでいる。


「ルリ様は王笏セプターでよろしいだすか?もし得物えものがあればお好きなのを使ってくださいだっす。どれも作り族の自信作だっす」


 デブラの顔も自慢気に輝く圧巻の品揃えだった。


「……すごーーい!!」


 剣なら王道のロングソード[長剣]、トゥーハンデッドソード[両手剣]、レイピア[刺突用片手剣]まで様々に揃っている。刀身が湾曲したシミター[三日月刀]は異国情緒たっぷりだ。


 ハチェット[手斧]にバトルアックス[戦斧]、ハルバード[槍斧]、ロングスピア[長槍]、ランス[刃無し槍]と斧や槍も充実。


 バトルメイス[戦棍]、バトルスタッフ[戦杖]もあるし、クロスボウ[洋弓銃]はずいぶんと目立つ所にかけてある。


 これはファンタジー好きにはたまらない!

 しかもどれも美しい。芸術品。鍛冶おさ面目躍如めんもくやくじょね。

 刃物を一度作ってみたいな! ナイフでいいから!


 博物館にでも来たかのようにあれこれ眺めているうちに、デブラは両刃斧ラブリュスを肩に担ぎ、ミソルは手甲鉤てっこうかぎを手の甲にはめている。

 黒く光る金属製のミニくまでを獣耳がつけていると、普通に凶悪そうな爪に見えて、ステキコワイ。


『キミは王笏でいいよ。王の魔力を増強してくれる』


 昨日手にした王笏は、壁面の真ん中にかけられていた。

 黒い石の付いた銀色の棒は、手にするとしっくりと馴染む。

 何で出来てるんだろう。鉄よりも陶器っぽい感触なんだけど。


「その黒曜石オブシディアンは飾りじゃなく尖らせてやじりにしてあるだっす。昔から石器として使われている石で、武器として付けてあるだすよ。作り族の匠の技でキレっキレだっす。ケガしないように気をつけてほしいだっす」


 王笏ってもっと雅なものだと思ってました……。


「……防具は付けなくていいのかな?盾とか」


 あたしがそう言うと、ミソルは物騒な武器を付けた右手を胸にあててにっこりとした。


「オレがついてます。ルリ様の髪の毛一本たりとも損なうようなことさせません」


「……は、はい……」


 な、なにそのイケメン騎士みたいなセリフ……!

 不意打ちでくらってしまって心臓に悪い……。


「ア、アクセサリーとかはないの?」


 苦し紛れに聞いてみると、デブラが棚の引き出しを開けてくれた。


「この中だっす。装飾品はあまりないだすよ」


 確かに、おおぶりなネックレスとバングルが数点あるだけだった。そして指輪の類は一切見当たらない。


「指輪ってないのかな?」


「ああ、指輪はないだっす。地下世界では作られてないだっす」


「ええ?!なんで?!」


「人気がないだすね」


 なるほど。すごく単純な理由だったね。

 なんかこう深い理由があるのかと思っちゃった。


「王がつけていることもあるので、オレたちも存在は知ってるんですけど」


「……あたしが指輪作りたいって言ったら、難しい?」


「ルリ様が作るだすか?! ぜひ見てみたいだっす!」


 デブラは興奮しながら、午後から作り族の作業場へ行きましょう! 長たちに伝えてきます! と言ってくれた。

 うわぁ、作り族の作業場! 楽しみ!!

 よし、ダンジョン掃除がんばるぞ!


 あたし達は武器庫を出て王居住区を後にした。

 広間に出ると水晶シャンデリアがたくさんぶら下がり、地下を照らしている。


 歩いている途中で、デブラとは別れた。

 デブラは作り族の作業場で仕事があるらしい。さっきの話、よろしくね!


 昨日落ちて来たマットレスみたいな場所の近くを通ると、獣人たちが作業をしていた。

 なにやら外側から大きな杵のようなものでどすんどすんとついている。すごい力持ち。


「もしかして、ああやって柔らかくしておいてくれてたの?」


「はい。毎日掘り族が降臨輪こうりんわの整備をしています。大事な王が怪我をしないようにする大切な仕事です」


 それを聞いて、あたしは輪の中の掘り族の人たちに手を振った。


「ありがとねー! 痛くなかったよ!」


 その人達も手を振り返してくれた。


「王にそう言われると掘り族冥利に尽きるよ!」


「王! 来てくれてありがとうございます!」


 おかげでケガもなかったし、ありがたいことだよね。

 降臨輪とかいうものの場所から、また二人で歩きだした。


「王がいない間だけじゃなくて、いても整備するんだね」


「毎日の手入れが大事だって長が言うのもあるんですけど、王以外の者が落ちてくることもあるからというのが本当のところです」


「へぇ? 色々落ちて来るものなんだ」


「王の他に、勇者様や聖女様や聖犬様が落ちてきたことがあるそうですよ」


 ……うん? なんか今ちょっとおかしなのあった。

 聖犬様……?

 もしかしてあそこから落ちて来たらなんでも尊い?


 一抹の不安と疑問を残しつつ、あたしたちは昨日出会ったたいまつがかけられた通路へ入り、その先の土界の所まで来た。


 境結壁に沿うように左右に通路が伸びていて、その先にはしごがかかっているのが見えている。見上げれば広い大きな土壁。高さはだいたいビル五階分くらいあるだろうか。高校の校舎よりも大きそう。

 その大土壁はぼんやりと光を発し、あたりを明るくしている。


「ルリ様。昨日、入り口の結界って張りました?」


「うん。ディンがやってくれたよ。あ、そうそう、地下世界の住人用の扉も使えるって言ってた」


「ルリ様もアルマンディン様もさすがですー。それなら大丈夫です。ダンジョン一階の入り口で待ち合わせでいいですか?」


「待ち合わせ?」


「はい。王は土界の中でも生きていけますが、他の者たちは王と離れたら死んでしまいます。だから事故を起こさないように、緊急の時以外ははしごを使って外からダンジョン通路に行く決まりになってます」


「わかった。じゃ、入り口で待って……うぇ?!」


 了承した途端にすごいスピードではしごへ行き、スルスルスルッと上っていくミソル。

 もう二階くらいの場所にいる。


『ほら、王も行くよ?』


 ディンの呆れたような声にせかされて、あたしもあわてて土界の中に入っていった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る