王、完全犯罪の計画をする
ゼッタイに「ノームの知恵」に、疑いがかからないようにしないとならない。
「城に行けるようにしてほしいんだけど、できるかな?」
「はい。手筈を整えます」
「勇者の部屋まで行きたいんだよね」
「……武器やアクセサリーを持って、勇者様に行商するという体でいきましょうか」
悪くないけど、謁見を違う部屋でとなった時に困る。もうちょっと確実にいきたいな。
なにか部屋ですることがないかな。
「確実に部屋まで行きたいんだよね。部屋に細工するようなことないかなぁ? 修理とか点検とか絵を飾るとか」
あたしとベリアが話し合っているところに、マディリオがひょいと顔を出した。
「だったら、日水晶はどうだい? 珍しいシャンデリア飾りが入荷されたので勇者様への贈り物としたいと言えば部屋までいけないかね?」
「「ソレダ」」
前統治長ナイス! それと武器・アクセサリーの行商とセットでいく。
「じゃ、地下国に用意しに戻るよ。明日の予定でいい?」
「ええ。これから謁見を申し入れてきますから、多分、明日で大丈夫だと思います」
「仕事増やしてごめんね、ベリア。前統治長、こちらには迷惑かけないようにしますので、よろしくお願いします」
「ルーリィ、水くさいですよ」
「そうだとも、王のやることは私たちの仕事でもある。もっと頼ってくれていい。なんならこの館で活動してくれても……」
そう言って手を取ろうとするマディリオを、ベリアがさえぎってくれた。
「では、ルーリィ。明日お待ちしていますね」
ひらひらと二人に手を振って店を後にして、地下へと降りて行きながらサークレットのディンに声をかけた。
「――ディン、二人にははっきり言わなかったけど、勇者を地下国に連れて行くよ?」
『うん、いいんじゃないの』
「いいの? コッフェリア王国を助ける勇者を連れ去っちゃって」
『ボクはもうコッフェリア王国に属してないからさ。心はともかく、もうノームの
そうなのか。ディンがそう言うならそうなのかもしれない。よし。精霊のお墨付きもらいました。では、遠慮なく!
「――というわけで、勇者を誘拐してくることにしたのでよろしくお願いします!」
「「…………」」
食堂のテーブルを囲んで話を聞いていた側近たちは、最初はただただポカンとしていたけど、そのうち我に返った。
「わかりました! 勇者様ひどい目にあってましたから、助けてあげてください」
「そ、そうだすな! ぜひ地下国に来てほしいだっす!」
あー、それね、喜んじゃうね。青砥工業高校の木工やらない木工部も、作り狂の集まりだからね。作り族の作業場から出てこないよ、きっと。
逆に言えば、ここでやれる仕事があるってことだから、タクミにも地下国にもいいことなのかもなぁ。
ま、とりあえずは、タクミを連れてきてからだ。
「デブラにお願いしたいのは、日水晶をシャンデリアにかけられる形に改造してほしいのと、棚に飾れる人形と言うか飾りを作ってほしいんだ」
「日水晶の方はすぐできるだっす。棚の飾りというのは具体的にどういうのがいいだすか?」
「縁飾りというか、接地面が棚にかけられる逆L字になっている感じで、人形が棚に座って足が下に垂れ下がっているみたいなって説明でわかる?」
コップのフ〇子さんみたいなのを説明したいんだけど、通じてー!
「多分、わかったと思うだっす。棚に引っかかる人形だすね? 俺っちに言うというとこは素材は金属だすか?」
「なんでもいいんだけど、水に強いものか強そうに見えるもので、かわいくね。いくつかお願い」
「わかっただっす。作り族で相談して作ってみるだっす」
「うん、聞きたいことあったら通信具で呼んで」
デブラが出ていき、ミソルが身を乗り出してる。
「ルリ様、オレは何しましょうか」
「あたしといっしょに統治管理室に行くお仕事があります」
「統治管理室ですか?」
「……うん。大変言いづらいけどね、日水晶をもらうって事後承諾と、勇者を連れてくるっていうのを言いにね……」
「そんなことはルリ様が言いに行かなくても、オレが言ってきます。こういうのが側近の仕事です」
「いやいや、そゆわけにはいかないでしょ! あたしのわがままで人を一人連れてくるっていうのに、他人任せじゃ」
「王のすることは地下国の仕事でもあります。だから、ルリ様はちょっと待っててください」
にこりと笑ったミソルは椅子から立ち上がって、ぴゅーっといなくなってしまった。いつも思うんだけど、ミソルって足早いよねぇ……。
あたしも立ち上がって食堂をあとにした。追いかけられるほど足が速くないし肩に乗ってるディンを落としても困るし。
普通に歩いて統治管理室へ行き、ミソルがラクの机で話をしているのが見えたのでその横へ立った。
「ルリ様! どちらも大丈夫でしたよー」
もう? そんな簡単に?!
ニコニコとしているミソルからラクに目を移す。
「え、そうなの?」
ラクは丸眼鏡にいつもの気難しそうな顔をしてうなづいている。
「ああ。全く問題ない」
「日水晶もらっちゃいますよ? 勇者来ちゃいますよ?」
「そのくらいで傾くような国じゃない」
こんな仏頂面してホントは親切とか、ニクイなぁ! モテるのもわかるよね。
「ありがとうございます。もう一人増えますがよろしくお願いします」
しっかりとお辞儀して頭を上げると、切れ長の目をまんまるくしたラクがいた。
「あ、ああ」
「では、失礼します」
机をちょっと離れたところで、イタチ族のお姉さんイーミアが後ろを指しているので振り返れば、ラクが眼鏡を外して眉根を揉んでいた。
「……せめてもう二十歳年を取っていればな……」
と小さく聞こえたのは聞かなかったことにしようと思った。むぅ。
統治管理室を出て、ミソルが隣を歩きながら話をしている。
「勇者様にはまずベリアの部屋を使ってもらって、あっ湯浴み場やトイレは側近控室のを使っていただきます! その後は勇者様の希望に合わせてお部屋を用意することになりました」
「……至れり尽くせりだね。ありがとう」
「ラク様が決めてくれましたー」
「さすがだよね。でもミソルもありがとう」
「いえ、オレの仕事しているだけです。部屋の準備は今晩ポポリに任せるので、あとは服の用意をしてきます。掘り族の作業着から新しいのをもらってきますね」
「は、はい。よろしくお願いします」
ちょっと困ったような笑顔を浮かべて、ミソルは南大通を南へと曲がっていった。
せめて掃除でもしておこうか。とあたしは広場に向かう北方向へ曲がる。
「地下国の人たちはみんな親切だよね。だからあんまりタクミが馴染めるかとは心配してないんだ」
と、つぶやくように言うと、
「……本当にね」
黙ってこれまでのやり取りを聞いていたディンはそう答え、「お人よしが過ぎる気もするけどね」と呆れているような声で付け足した。
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