勇者、ダンジョンで出会う(2)
人に獣人にドワーフにエルフ。雑多な生き物たちで賑わう食堂で俺たちは乾杯した。
エールをぷはーっと飲み干したユナドがニカっと笑って、豪快に肉に食らいついた。
「ウマい!アタシゃ城の気取ったモンはどうも合わないよ」
「それは俺も同感。気を使って食べた気がしないし、部屋には侍女が勝手に入ってくるし、気が休まらないって」
山の麓の町に連泊してダンジョンへ行けばいいのに、わがまま聖女が「そんな獣人の宿になんか泊まれない!」と言うから、いちいち城に戻ってくることになったのだ。
王子は言いなりで、戻ってくるように言うし。討伐しろと言った人間が言うセリフじゃないよなぁ。
本来なら七日間は城から離れていられるのだから、六泊は出来るはずなのに。
七日間という期限があるのは、呪いのせいだった。
勇者の剣の呪い。城の宝物庫から出て七日間経つと、城に強制送還されるという盗難防止の呪いがかかっているためだ。帯剣していれば持っている人ごとらしい。
王子は祝福だと言うが、ドリーの鑑定では呪いと出ているという。
早くこれを持たずに旅に出られるようになりたい。
ユナドは二杯目のエールを手に持って、眉をしかめた。
「それにしてもあの王子は、ケチくさいな」
「そうなのか? 宝石もらったけど。あ、後で換金してみんなに分ければいい?」
「いや、それは勇者への褒美だ。今回はそれでおしまいにするのもひどいが、タクミによこしたの、宝石だろう? それなら宝物庫から持ち出して与えれば、自分のふところは痛まないじゃないか」
「どうりで、ちゃんとした武器も防具も用意しないわけだ……」
「まぁ、宝物庫から金ピカのなまくら剣出してこられても困るがな!」
武器の話から思い出したのか、子どもみたいな姿に似合わずエールジョッキをあおるドリーが、ふとモソモソとしゃべりだした。
「タクミ、剣合ってない。チガウ武器使っていた?」
「ああ、アタシもそれは思ったぞ。違う武器のクセがあるよな?」
さすが、二人とも武器には詳しい。見抜かれてしまった。
城の練習場で、ちょっと剣を振ったのを見ただけだったのに。
「剣道というのをやってたんだよ……本当は刀っていう武器があるといいんだけど」
「カタナ?どんなものだ?」
「いわゆる剣の打撃で攻撃する感じじゃなくて、斬る武器で、片刃ですらっとした感じの」
「サーベル、は?」
「持ってみたことないけど……もしかしたら近いかもしれない」
「この後、ワタシのうち、行く?おためしも、できる」
「行きたい行きたい!」
「それはいい。ドリーの家は立派な店だぞ」
楽しみになってきた。
この二人がいてくれてよかった。
異世界に放り出されて、あの王子みたいなのばっかりだったら、病むところだった。
同じようにこっちにいる彼女はどうしているのだろう。
服のすそをふわりとなびかせて、壁に入っていった後ろ姿を思い出した。
王冠をしているのはノームの王だと、王子は言った。そうだとすると彼女は宝をもたらすノームの王だということになる。
なんであんな所でノームの王なんてやっているんだろう。あのダンジョンには魔物を生み出すダンジョンマスターがいるというのに。
もしかしてそのダンジョンマスターに捕まって働かされている?
ダンジョンマスター自体が魔王かもしれないと聞いてるけど、大丈夫なんだろうか。
そしていつからなんだろう。
三学期の定例会の時はいたから、その後からか。俺と同じ時期くらいなのかもしれない。
心配も疑問も尽きない。
焦りも不安もいろんな思いがごちゃまぜになってぐるぐるとしている。
話を聞きたい。話がしたい。とにかく、ただ切実に、彼女に会いたいと思った。
彼女と彼女の作品に会いたい。
いつか彼女とも、食事をしながら武器やアクセサリーの話が出来る日が来るだろうか。
なんとなく、あっちの世界でよりも、現実味がある気がした。
こんな非現実な世界なのに。
◇◆◇
一階を制覇すると意気込んでダンジョンに入り、数時間が経ったっだろうか。
だいぶ深いところまで来たと思う。ここまでは危なげなくたどり着けるようになった。
通路の行き止まりには立派な扉が見えている。
期待と緊張が高まる。
俺は扉の前に立ち、腰に下げた相棒、サーベルの柄に触れる。
勇者の剣は背中に斜めにかけられていた。
武器的にはいらないけど、これがないと言葉が分からないから仕方がない。
勇者の剣の呪いは、剣にかけられたもの。だが、俺にかけられたものでもあるんだ。言葉を早く覚えないと。
ドリーが扉を罠探知する。
罠はない。一気に開いた。
中にはゴブリンが六匹。部屋の奥には宝箱も見えている。
これならいける!
右から襲い掛かって来たゴブリンを、サーベルで胴に切りつける。それでも爪を振りかざして向かってくるのを袈裟斬りにした。
ユナドが左の一匹を殺り、その奥のをドリーが射ていた。魔法使いのスゥエルが放ったマジックアローが、奥の一匹を射抜く。
残り二匹。
片方はユナドが剣を叩き込み、残りを俺が胴打ちで斬り倒した。
聖女は、うん。なにもしていない。
その時、奥の宝箱の横に、もう一つ宝箱が出てきたのを見た。
手も見えた。
――――あっ!!!!
と思った時にはもう手は消え、元々あったかのように宝箱は二つ存在していた。
「宝箱、最初から二つだったか?」
「ええ、二つありましたよ。ほら見えているじゃないですか」
他のメンバーはなんか言っているが、俺は罠探知も待たずに、その増えた宝箱を開けた。
中には指輪が一つ。
覗き込んでいたドリーが「鑑定」と言って、その後つまんで俺に差し出した。
「……大した効果、ない。勇者の言葉、助けるだけ。勇者の指輪」
言葉を助ける……?
もしかして俺のことが分かって作ってくれたんだろうか……?
手に取って眺めれば分かった。
緑色の宝石を取り巻く文様は魔法陣のように、今に何かをしてやるぞとあやしげな雰囲気を放っている。
これは間違いなく彼女の作品。
少し震える手ではめると、重くしっかりとした指輪は、左手の人差し指にぴったりとおさまった。
憧れていた作品が、自分の指にある。
こんなことがあるなら、勇者やってもいいかもしれない――――。
召喚なんかしてくれやがった王子に、俺はほんの少しだけ感謝した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。