王、都へ行く

「パン屋さん、どこにありますか?!」


 見張りのおじさんにそう尋ねると、ちょっと引きながらも教えてくれた。


「パ、パン屋かぁ?この通りを少しいったところに一軒、もっと先にもう一軒あるぞ」


「おじさんのおすすめはどっち?」


「うーん……おすすめつーか、うちでいつも食べてるのは奥の店の方だな。木の実のパンがウマい」


「うぁー、木の実パン! おいしそう! 行ってみるね。ありがとう!」


「おぅ、行ってきな。……おいー、そんな走ると転ぶぞー」


 親切なおじさんだった! でも、なんかかわいそうな子を見る目だったような……?

 ばたばたと走っていると、手に持っていたディンが悲鳴を上げた。


「――王! 王! ちょっと待って! 目が回る……!」


 うん? 立ち止まって手を見れば、ぐったりしたリスが。

 そこへ、ベリアも来た。


「はぁ、はぁ……王さ……じゃなくてルリ様、足、速いですね……」


 そうかなぁ?

 ただのハンドクラフト部の部長だし、たいしたことないと思う!


 ヨレっとしたディンを肩の上に乗せて、ベリアといっしょに歩いて町の奥へ進んだ。

 入り口からまっすぐ伸びる通りが、町の真ん中を走るメイン通りのようだった。そこから左右に出ている道の先にもお店や家が並ぶ。

 建物は獣人の町に似た木と漆喰らしき壁でできていて、斜めに渡した太い柱がアクセントになっていてかわいい。


「ここは町をぐるりと壁が囲んでるんだね」


「そうですね。賊などが入らないようにというのと、野生の動物除けですね」


「ああ、クマとかイノシシとか」


「あとはシカでしょうか。畑などがあれば、荒らすサルなども困りますね」


 こういう山に近いところで暮らすって大変だよね。

 獣人の地上の町も見張りを多く出しているし、いろいろ苦労があるんだろうな。


「あ! あれ、パン屋さんじゃない?」


 茶色の丸いパンらしきものが描かれた看板を指す。

 外に置かれた赤いベンチがかわいらしいお店のガラス窓から覗けば、ショーケースに並べられた念願のパンが見えている。パンだ!!


 チリンチリンとベルが鳴る扉を開けて中に入ると、いい香りが漂っていた。なつかしいパンの香り。


 普通のパンと木の実のパンの二種類だけだったので、木の実のパンを四つ買った。一つ三胴。

 イモプリンが二胴だからちょっとお高い感じがするけど、きっと小麦は輸入なんだろう。それなら納得なお値段かも。


 馬車止め場まで戻って、四人でパンを食べたんだけど、久しぶりでなつかしくてちょっと泣いてしまったのはナイショ。

 黒パンはちょっと硬くて酸味があるけど、くるみのような木の実が香ばしい。もっちり木の実パン、おいしかった!!




 休憩の後は、デブラが御者席に座っている。

 コッフェリア王国とロイターム国を結ぶブラン街道を、馬車は走っていた。

 街道へ出てからは何台もの馬車とすれ違ったし、歩いている旅人の姿もあった。


「歩いてもそんなにかからないんですよ。ルリ様の足でも、早朝に出ればお昼過ぎにはコッフェリア王国に着くと思います」


 前の席に座るミソルが言った。


「そうなの? そんなに早く着ける?」


「と、思います。オレは馬車と同じくらいで着きますから」


 そこと比べないでー!!

 獣人のみなさんといっしょにされても困るよ。か弱い女子高生なのに。

 ま、でも、歩けない距離じゃないっていうのはわかった。元々はこの辺もコッフェリア王国だったんだもんね。


 車窓を流れていくのは代わり映えのしない木々の景色。それを眺めていたあたしは、うとうととそのうち寝てしまったのだった。




 その後は途中の町で二回休憩して、そろそろお昼になるかという頃。

 馬車はコッフェリア王都へ到着した。


 ここも壁がぐるりと囲う城塞都市なのかぁ。城門の横から立派な背の高い壁が、ずーっと続いている。

 門の前では入るための馬車が順番待ちをしていて、この馬車も最後尾についた。


「通行税がかかる?」


「ええ。小さい馬車で一銀になります。他に身分証がないと入れません」


「え?! そんなの持ってない」


「ご心配なく、王様。執務管理室からちゃんと書状を発行してもらっています」


「ルリ様はモグラ族ということになってるんですよー」


 さすがに、王とは言えないもんね。

 門番には御者席のデブラが対応している。書状を見せてお金払って。

 中を見られることもなく、あっさりと馬車は城門をくぐった。


 広がるのは別世界。

 さすが王都というだけのことはある!!

 写真で見た、ヨーロッパの街のよう。

 カラフルなお店が立ち並ぶ奥に、石造りの大きな建物が見えている。


 うわぁ……。

 口を開けて窓に張り付いていると、ベリアが街と都市の説明をしてくれた。


 今通っているのが一の台で、商店が多く奥には貴族の屋敷があり、一番奥には王城が建っている地区なのだそうだ。


 他に、二の台は一の台より一段下がった東の外側にあって、こちらも王城付近の奥側に貴族の屋敷があり外側を工房や商店が建っているとか。

 三の台はさらに一段下がった土地が西側に広がり、肥沃な平地に畑と民家がある地区となっているんだって。


 話を聞いている間にも、露店が並ぶ通りや、小さな公園を通り過ぎた。

 人も多く、色とりどりの服を着たいろんな者たちが行きっている。スラリとした背の高い人たちはもしかしてエルフ?

 賑やかな華やかな都、コッフェリア王都。


 もう、わくわくが止まらないです!





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